怒りの硫黄――2――
重力から解放された感覚の中で、
見覚えのあるいくつかの風景が断片的に
一つ一つ映し出されては消えていく。
高速の紙芝居のようだ。
最後は旧校舎の中庭の片隅が立ち現れて
そこでようやく足が地に着く。
「明朝君、聞こえますか?」
「何だ……何が起こってるんだ……」
まだ脳味噌を直接振り回されているかのような
感覚があって生徒会長の呼びかけにも
碌な返事ができない。
「落ち着いて、これは私の能力です。
約150メートルの距離を
12回続けて瞬間移動しました。
非現実的だから驚くでしょうが……
深呼吸して……」
生徒会長はおもむろに私の瞼を剥いて
眼球を観察する。
私が呻いている間に
慣れた手つきで脈拍を測りだす。
「私は神の血を引いていて、
自分と周囲の存在者の存在の定義に
干渉できるのです。
存在の定義を曖昧にすることで
時間差なく離れた距離を移動できます。
分身、すり抜け、透明化も
五秒間ほど自由自在にできます。
肘から先だけなら数キロ先まで移動させられるし、
家にあるものも一瞬で取ってこれる。
こんな風に……」
その言葉に続くように生徒会長の手に
消毒液と包帯が現れる。
「普通の人間の肉体や神経には
大きな負荷がかかりますが
ダメージは一時的なものなので心配はいりません。」
「何……はあ? 神?」
「神といっても全知全能だったり
救世主だったりする神のことではありません。
対象化の彼岸を示す指標というくらいの意味です。
学問の対象でも信仰の対象でもない。
存在者の全体のあり方を尊敬の念を込めて
そう呼んでいるだけで、敬うべきものでは
あるけど頼れはしない……
そのことはあまり詳しく説明してもいられません。
もっと大事な話をしなければ。」
生徒会長は私の火傷や擦り傷を
手当てするのに集中し、一旦黙った。
ひとまず彼女がよく見せる手品の種は
本物の魔法だったということが分かった。
幽霊、竜、死神、魔術師、召喚獣、半神半人、
今日は何ともメルヘンな面々が
次から次へと現れるものだ。
私はさしずめ能なしの案山子、
心のないブリキの人形、ちっぽけな弱小動物。
そんなところか。
私の手当てを終えると生徒会長は
生存と問題解決のための計画を語りだした。
「警察にいる知り合いから
連絡があったのですが、
街でも同じような火事が起きていて
相当の被害が出ているとのことです。
消防も学校まで手が回らないそうですから
私たちはここから自力で
脱出しないといけません。
南側にある河川敷を仕切る金網を
すでに開放済みで
全員でそこから外へ脱出することになっています。
みんなは今プールに避難していますから
明朝君もプールに行って合流してください。
危険ですから間違っても一人だけで
逃げようとはしないで。
いいですか?
ここから真っ直ぐにプールへ、
経路付近の『赤鬼』はすでに排除してあります。
運動場南面の外周を突っ切ればすぐですから
一人でも大丈夫でしょう。
準備ができたら私も向かいます。」
また防塵マスクと小型の消火器を与えられる。
先程活躍した銃も置いてあったので
両手で抱えていたらすぐに取り上げられた。
「これは危ないので渡せません。」
私は生徒会長が
自分を置いて行こうとするのを察し、
途端に不安に陥った。
「あ、あの、まとめますと、
何の準備をするんでしたっけ……」
うっかり私は聞いた話を確認する体を装って
生徒会長を呼び止めてしまう。
焦りを誤魔化す
呑気な私とは対照的に、
彼女は何かを覚悟したかのような厳しい面持ちだ。
「私は貴方のお兄さん……隆己さんを倒す。
今の隆己さんは召喚した魔獣を
依代に
顕現しています。
あの魔獣の種類が
硫黄生命体であることはほぼ確実です。
硫黄生命体というのは
こちらの世界の常識で見れば
超常的な存在ですが
体組織そのものは普通の硫黄です。
物質への依存度はあくまで大きい。
燃える硫黄ということならば
注水が有効なはず。
そしておあつらえ向きのものがここにはある……
この学校の地下には巨大な
貯水タンクがあります。
戦時中にこの学校が避難所として
使われていた時のなごりです。
老朽化と耐震性が問題になって
三か月後には埋め立てられる予定だったのですが、
今回に限って言えばまだ残っていてよかった。
水そのものもまだ残されているはずです。
この貯水タンクの天井部を破壊し、
校舎と運動場をタンクへ沈める。
火災も『赤鬼』も一網打尽にできます。
私の能力なら必要量の爆薬を用意できるし、
爆薬設置後の退避も容易い……
この災害がお兄さんの意志によって続くなら
彼を倒すことで収束する可能性もある。
裏山にも火が回ってきていますので
時間との勝負です。
これ以上火事を大きくさせる訳には
いきませんからね。
私は躊躇うつもりはありません。
対峙してみて確信したことですが、
貴方のお兄さんはもう人間ではない。
『赤鬼』たちもそうです。
危険な害虫か何かだと思わなければなりません。
貴方も思う所はあるでしょうが止めないでほしい。
みんなのためです。」
「……はあ。」
「度々一人にさせてすみません。
終わったらすぐに後を追います。」
私は終始頷いていた。
生徒会長は最後にもう一度プールへ行けと
私に念を押してから瞬間移動で消え去った。
私は辺りを見回し、今更になって
自分のいる場所を確認した。
「ドロシー・ギルガメスカヤ=ベニザワ・
テト・リウィアドルシラ。」
プールへ向かいながら生徒会長の
フルネームを声に出して読んでみる。
東西南北の諸言語が合わさった
その奇妙奇天烈な名前は
まるでおまじないの呪文のようだ。
空想じみた名前と迷信のような力を持つ
絵に描いたような優等生。
次元が違う人間。住む世界が違う人間。
彼女こそ異世界人なのではないか?
「しっかり者……
やはり私なんかとは全てが違う……」
文武両道、容姿端麗、将来有望。
紛れもない勝ち組。
やはりああした人間は勝つように
運命づけられているのだ。
そういうオーラを纏っている。
今や私の兄は紛れもない怪物だが、
彼女にかかれば問題なく退治されるだろう。
この世界は生徒会長のような
人間が動かすものなのだ。
私や私の兄などは
所詮付随物であって
主役や主人などではない。
兄は出しゃばりすぎた。分を弁えてないのだ。
所詮私たちは死んだように生きるのが
お似合いの人間なのだ。
「この事件が終わったら
また学校が始まるだろうな……
これからも休まず学校へ行こう……」
硝子張りの建物が見えてきた。
この地区では唯一の屋内温水プール施設、
当校のプールだ。
皆がいるかどうかはすぐに分かった。
外まで聞こえるほど賑やかだからだ。
私はその賑やかさに怖気ついた。
皆打ちのめされたり警戒したりで
もっと静かになっているものだとばかり
思っていた。
正面は締め切られていて入れない。
当然『赤鬼』が入ってこれないように
してあるんだろうから破壊する訳にもいかない。
窓から呼びかけてみるべきか。
建物全体が硝子張りだが壁面はスモーク加工が
なされているのでどこからでもは覗けない。
人が入れそうな窓は内側に椅子や机が
積まれていて塞がっている。
換気用の小さな窓の一つが
開放されていたのでそこから覗いてみる。
プールサイドに人がたむろしている。
元気そうとまでは言えないが、
それほど暗い雰囲気でもない。
流石に泳いでいる人はいない。
「喉がひりひりする……」
「何時になったら帰れんだよぉ」
「もーサイアクー。」
「ごほっごほっ!」「めっちゃ皮膚痛い……」
「うう……ひっく……」「大丈夫?」
「これ火傷の痕残るよ絶対」
生徒ばかりで教師がいない。
避難者全員がプールにいる訳ではないのか、
意外と人数が少ない。
これでは入りづらい。
私が入っていったら目立ってしまう。
「混線かなぁ電話繋がらねーよぉ」
「誰もいねーじゃん。」
「みんな死んじゃった……」
「あー……あー痛ぇーっ……」
「何か放送してたでしょ、
富士谷ナントカって奴が……」
私たち兄弟の話が始まった。
自分の名前に心臓が激しく反応する。
血が上ってきて息が詰まりそうだ。
「なんかよく知らないけど
身勝手な感じの話だったよねー」
「喋り方が何か
キャラ作ってるみたいでキモいし」
「それ分かるー」
「復讐なんだろ?」
「そうそうはっきりとは言わなかったけど復讐」
「そもそも富士谷って誰? 嫌われてんの?」
「すごい病んでるヤツだよ」
「先週に死んだって聞いたけど」
「兄弟いるんでしょ?」「どっちも暗い兄弟」
「復讐って言ったって、
何で私らまで巻き込まれんのか意味不明だし」
「自分が気持ち悪がられたことへの
憂さ晴らしだろ。誰のせいでもねーっていう」
「仮に人のせいでも殆どの人関係ないし」
「おまえ一人で死んどけよって話」
「そうそう、マジでそれ」
「人殺したりさ、人のモン燃やしたりする
権利ないだろ」
「学校どうしてくれんだよ」
「あいつのせいでメチャクチャ。
あーイライラするマジでイライラするっ……」
私は逃げ込ませてもらおうなどと
甘く考えていたことを後悔した。
それでも私が中へ入ろうかどうか迷っていると、
先程から静かに俯いていた女子生徒が
にわかに泣きだした。
彼女は周りの友達に慰められると
更に大声で心情を訴え始めた。
「もー疲れたぁ!!
何でこんな目に遭わなきゃいけないのぉ!!
誰のせいなのぉ!?」「落ち着いて落ち着いて」
「落ち着いてなんかいられないでしょう!!
○○ちゃんも××君も死んじゃったんだよ!?
あああああん……」
「うん、可哀想だよね、ホント悲しい……」
「泣いたら余計体力使うよ」
「泣き止んで、私らがいるから、
皆がいるから……」
「富士谷とかいう奴殺してやる!
絶対殺してやるぅ!! ううう~……」
私は思わず目を背けた。
義肢まで震えが止まらなかった。
「あすこから覗いてるヤツ、富士谷じゃね?」
「え!」
私は走った。逃げたのだ。
『赤鬼』との遭遇をも上回る
熱と混乱故だった。
走っていると泣けてきた。
今まで我慢していたのが
馬鹿馬鹿しいくらい涙が流れて
後ろの彼方へ散っていく。
それは雨のようなもので、
天気の移り変わりと同じことだ。
「ああどうしようどうしよう……
目が合った、顔を覚えられた、
皆私のことを知っている……死にたい……
死ぬ!」
私は駆け抜けた。
おぞましい黄金の火炎が日常の景色を余す所なく
塗り替え、否、作り変えるその隣を。
火によって破壊し尽くされ
また同じ火によって転生を果たし
正しく生まれ変わった
この学校とその住人たちの間を駆け抜けた。
新しい世界の誕生を無数の狂人たちが
原始的な舞踊で、血も吐かんばかりの鳴き声で、
己の全てを炎に捧げて称えている。
今や建物も空も、吸い込む空気すらも
火から生まれたものであり
私を目一杯に脅しつけている。
それらの間を私は駆け抜けた。
「そうだ死ななければならない!
死ななければならない!
死ななければならない!」
何もかもどうでも良くなるくらい火に煽られたい、
自分を殺せるであろう兄の元へ行かねばならない、
そんな気分になった。
運動場に兄と赤鬼がいる。
一か所に集まって何かしている。
地面にある何かに気を取られているようだ。
「どうやらこの生き物は
死んだ人間の意志を引き継ぐ
特殊な能力を持っているらしい……
とすると、なるほど、こいつが喋っているのは
僕が殺した奴らの呪いの言葉だという訳か。
今僕は亡霊と話してることになるのかな?」
「ウゥ~……自分ダケガ正シイト
思ッテンジャネーゾ……
何デ俺タチガコンナ目ニ
遭ワナキャイケネーンダ、ナァ……
オ前ノ方ガ死ネヨクソガァ!!」
地面に転がっているのはキサメだ。
泥の塊のようになっていて原形を留めていない。
そんなになってもキサメは
腕を伸ばして兄の足首を掴もうとしている。
その腕を『赤鬼』たちが踏みつける。
兄はその様子を腕を組んで観察している。
キサメが生徒たちの訴えを口にするのに対し、
兄はせせら笑いながら言った。
「ええ、ええおっしゃる通りです、
あなた方のお怒りはごもっともです、
あなた方の楽しい楽しい青春に比べたら
このわたくしの不平不満など
安いものでございます……
君たちが楽しい学校生活を送れていたのは
僕らが我慢していたからだよな。」
兄はキサメの周りを行ったり来たりする。
同じところをぐるぐると歩くのは
考え事をする時の兄の癖だ。
ただ、生前と違って足取りが軽やかで、
怒っているようであり
楽しんでもいるような調子だ。
キサメが唸りを上げる。
声の迫力だけなら
火炎が吹き付ける音にも劣っていない。
亡霊の意思なのかキサメ自身の意思なのか
分からないが戦うつもりなのだろう。
キサメのその様子を見咎めるように
『赤鬼』が彼女の頭を何度も蹴っている。
これは私にしか止められない。
私のほかに人の気配はない。
だがこれから私は死ぬつもりなのだから
何がどうなろうともう関係ないのではないか?
「実に理不尽で不条理で非論理的……
お前のようにな明朝!」
名前を呼ばれた私は今日で
何度目になるかも分からない驚愕に
また頭が真っ白になった。
兄は私がいることに気づいていたらしい。
兄が振り向きざまに人差し指から硫黄線を放つ。
私は返事する間もなく
生身である右足大腿部を
撃ち抜かれる。
「ぐ、ぐあああぁぁぁぁ……」
前に痛いほど叫んでいるのでもう声が出ない。
痛いのは望んでいない、
むしろ苦痛が嫌だから死のうと思っているのに。
「馬鹿だな明朝ぁ。
愚かで哀れだよお前は。
僕がどんなに言っても
まるで聞く耳持たないんだから。
お前は母さんや父さんの悪い所だけを
受け継いでしまったんだ。
愚かな親たちの更に悪い所だけ似てしまった……
頑固で視野が狭くて、
受け身で無計画で面倒臭がり、
絶望的なほど要領が悪い……
まあ欠点は死ねば治るだろう。
死んで僕と一緒に神になるんだ。
醜い肉体とも醜い人生ともお別れだ。
それがいい……」
私は特に抵抗するつもりはなかった。
今はもうそのことすらも伝える必要はない。
向こうから人が来る。
プールにいた生き残りの生徒たちだ。
私を追ってきたのだろうか?
私にはもう身を隠そうという気力さえない。
彼らも死にに来ただけだろうか?
「富士谷君! 富士谷隆己君!
話だけ聞いて!」「謝りに来た!」
「頼むからもう火事止めて!」
「富士谷明朝は連れてこれなかったけど
一緒にいた奴は捕まえた!」
「悪いのこいつらなんだろ?
よく知らないけど」
「関係ない人間は見逃してよぉ!」
「早く病院行かないとホントに
死んじゃいそうな人もいるの!」
「私たちもう疲れたの!」
そう口々に言い合って彼らは
引きずってきたものを兄の前に差し出す。
それは校長『たち』竜侏儒と生徒会長だった。
校長たちは台車に載せられてくえくえ鳴いている。
生徒会長の方は血塗れになって
蹲っている。
がんじがらめに縛り上げられている上に
服もずたぼろで、ぴくりとも動かない。
皆の内の一人が生徒会長の肩を蹴ると
彼女は寝起きのようにゆっくりと仰向けになる。
目を僅かに開いて兄を見上げる。
兄の方は生徒たちを見たまま何か詩句めいた
言葉を呟く。
「『この原理からおまえたち人間の価値を決める
いわれが生ずる』、か。
こいつらには縁なきものだな……」
兄はまず校長たちに声をかけた。
「校長先生が異世界人なのは知ってたけどね、
竜侏儒を実際に目にするのは初めてだよ。」
「『竜侏儒』というのは差別用語ですケ!
厳重抗議しますケ!」
「ちょ、ちょっとあんたこんな状況で
文句言ったら不味いですケ……」
「竜侏儒が差別用語?
差別用語って、使うと誰かを傷つけるから
公的に使ってはならない言葉を指す、
あの差別用語のことかい?
ははは、こんな状況なのに
まだご自分の立場を理解されて
いらっしゃらないようだ。
僕はあんたがたを傷つけたいんだよ。
殺したいんだ。君たちは死ぬんだよ。
まあ安心してくれたまえ。
これから僕が創る世界に差別は存在しない。
如何なる階級も上下関係も、
弱肉強食の生態系すらない、
炎だけの世界だからね。
僕らは大地も空も燃え滾る
原始地球の時代へ帰るんだよ!」
そううそぶくと兄は生徒会長の方へ向き直り、
腰をかがめて顔を近づける。
「どうしたんだいドロシー生徒会長?
こいつらに不意打ちでも
食らわされたといったところかな?
まさか友達みんなに裏切られるとは
思っていなかったのかな?
それとも、死にかけたら流石に
誰かがが助けに入ってくれると思ったのかな?
くくく……相変わらずお人好しなようだね。
人を信じるというのは一種の技術だよ。
特殊な才能がいるんだ。
無能な奴が人を信じても
いいことは何もない。」
「……」
「君の扱いに関しては、
実は結構悩んだんだよ。
君は何だかんだで僕の会話に
付き合ってくれたからね。
話し合えば分かり合えるくらいには
君は賢い女性だろうと思うんだ。」
「殺せ……
どうせ貴方の下僕として
生かされるんでしょう……
貴方の為すこと全てに目を瞑りながら
生かされるなど……」
「じゃあみんなと平等に火になるかい?」
「~……」
「ん? なんだって?
もう一度聞かせてくれないかな?」
「灰にしろっ……!」
「あっそ……そうそう、
君はプライドが高いんだったね。
将来の夢は政治家なんだっけ?
まあそれも叶わないんだけど。
望み通りここで死なせてやるよ。」
兄は鼻で笑ってから立ち上がり、
自ら生徒会長を踏みつける。
「ぐっ!」
「大体、一件のいじめすら解決できないくせに
政治家になろうだなんて世の中舐めすぎだよ。
僕がお前に明朝のことを相談してから
何か月経ったと思っている?
いつまでも許してもらえる、
いつまでも待ってもらえる、
何度でも見逃してもらえる、
そんな風に思ってたんだろ。
やっぱりお前もこいつらと同じ人種だよ!」
兄は生徒会長を痛めつけるのに
異様な執着心を見せた。
皆に聞こえるほどの声で生徒会長を責め、
彼女の傷が更に開き血が流れ出すまで
何度も蹴りつける。
彼女は血を吐きながら咳き込む。
「疲れるね……
みんなにちょっと頼みたいことが
あるんだけどいいかな!?
拒否権はないけどね!
今からこの女を燃やすから
ばらばらに細かくして
燃えやすくしてほしいんだ!
薪を割るように、柴を刈るように、
柴って分かるかなぁ? まあいいや……
道具を使わずに心を込めて
彼女をミンチにしてほしいな!
できるよなぁ? できないわけがないよね?
君らは何のために生きてる?
何故生き残った? 恩寵が欲しいからだろ?
いじめられたくないんだろ?
だからやるんじゃないか、それを!
言われなくたってできる人間じゃないか
君たちは! やれよ!
一人の人間を苦しめるだけだよ!」
「私には……
私にはまだやるべきことが……
なのにこんな、こんなところで……
みんなが私の言う通りにしてくれていたら
こんなことには……」
「ははははは! みんなも笑え!
あははははははははははは!!」
兄は笑って言った。
その声は高らかであった。
「現実とは、生きるとは、
何と醜いものだろう!
僕もお前らも、みんなもっと早くに
死ぬべきだったなぁ!
ははははははははははは!!!」