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忘れられない

ありかはまだ忘れられない。

職場を移ったのにその人に似た人が教育係で…

自分にとってここは再出発の地。


結婚するまで私は真琴と同じ職場に居た。

そして職場の同僚たちも式当日に参加していた。

もちろん、その当日、彼が亡くなった事は参加した事を知っている。

だから、職場に戻っても彼の話題には触れず、真琴の名前が出てくるたびに気まずい雰囲気。

その雰囲気に耐えられなくなった。


"かわいそうに…"


っていう視線で見られることが。


『私は、全然大丈夫』


そう言ってもやっぱり気を使わせてしまうのは当然で

課長にどこか別の所に派遣してくれるように願い出るのにそんなに時間は掛からなかった。

そして、課長もそれを受け入れてくれた。


地方へ来たのはあの人といた職場にいるのが正直、限界だった。

忘れるなんて出来ないし、居ないのに…影を追ってしまう自分が嫌だったから。

そして、誰も知らないところで再スタートをきりたかった。


『忘れる事は無理だけど…』

でも、思い出にするには彼を知らない所の方がいいかなって。

数年、いや、もっとかかるかもしれないけど、でも、いつか

『そんな事もあったよね』って笑える日が来る…といいなって。

真琴もきっとそう思ってるはずだから。



だけど、それは突然やってきた。

会社で自分を育ててくれる教育係の人…


”真琴…!?”


亡くなった彼にそっくりな人、和葉彰人さん。

「はじめまして、和葉です」

「…始めまして、上野です」

笑い方、仕草までまるで同じ。

それなのに…ここにいる人は彼じゃないだなんて…



新しい職場、新しい場所、何もかも、新しくやり直すつもりだったのに…


”真琴…私はまだあなたを忘れられない。”


私はオフィスの窓から外を眺めた。


それからも和葉さんの姿を見ると、真琴と比べている自分がいた。

だから、なるべく関わらないように意図的に避けていた。

また失ったら…と思うと人と関われなかった。



新しい職場の先輩で、私によく話しかけてくれる隣の人、紫栖諒夏さん。

ものすごくよく話し掛けてくれて、内気になっている私にすごく良くしてくれる。

人の輪を意図的に避けている私を強引に仲間に引き入れてくれて、今では社内でも浮かずに済んでる。

そこで私自身が入ってきた時から結構噂されていたのだと知ったのはつい数週間前。


その理由が和葉さん関連で、教育して貰える羨ましい存在と言うことだ。

和葉さんは社内でも人気が高く、皆に好かれているという。

そういう人は本来、妬みとか多いものだが、彼はその類の人ではないらしい。



「あ〜り〜か〜ちゃん。」

今日の夜、飲みに行かない?

諒夏さんに誘われて飲みに行くことに。

「いいですよ」

「じゃあ、一緒に定時に仕事終わらせようね^^」

「彼氏さんはいいんですか?」

諒夏さんには別の課だけど彼氏さんが同じ会社にいる。

経理に隣接している経済一課にいる紅月魁斗さんだ。

こちらもやり手の人で、所内でも人気が高い。

「あの人は今日は接待だってさ」

ホントか嘘か知らないけど。

でも浮気はしない人だって信じてるから・・・

そういってもパソコンを打つ手は休めない。



定時に仕事を切り上げて、飲み屋に連れて行かれた。

場所は個室ばかりの居酒屋さん。

あったかい感じの掘りごたつでのんびりできる雰囲気。

「で、なんか悩んでる?」

「…どうしてですか?」

そんな風に見えますか?

ありかの問いに諒夏は苦笑いを浮かべる。

「和葉君がね、ありかちゃんが悩んでるみたいですって」

私に助け舟求めてきたんだよ。

そういって苦笑いを浮かべた。



「ありかちゃんが、何か悩んでるみたいだけど、自分には何も出来ないからって」

っていうか避けられてるみたいなんですけど、理由がわからないんです。

そう言ってね。。

「…悩みっていうか、忘れられないことがあるんです」

それを思い出して、辛くなってるっていうか。

「…それは聞いても平気なこと?」

「……微妙ですね」

私が苦笑いを浮かべると諒夏はお酒を飲みながら話を始めた。


「実はね、和葉君、昔の彼女にひどい目に合わされたらしいんだ」

独り言だからね。気にしないでね。

そういって諒夏さんは話し始めた。


その彼女は和葉君を懐柔していろんなものを買わせようとしたらしい。

でもそれは彼女にとっての利益であって、

彼にとって結婚しようとまで考えていた相手に裏切られるというのはすごくショックだったらしい。


「だからそれからは女の子ともあんまり話さなくなったんだけどね」

ぜんぜんそういう風に見えないでしょ?

私が頷くと諒夏はにっこりと笑う。

「でも、それを乗り越えたから今の彼がいるんだよ」

彼がそんときの自分に似てるって言ってた。


「諒夏さんてどうしてそんな事知ってるんです?」

「直接聞いたにきまってるでしょ?」

私、調べるほど暇じゃないよ。

そういってジョッキを一気に飲み干した。


きっと諒夏さんの事だから相談させちゃったんだろうな…和葉さん。

そういうの本当に聞き出すのうまいんだよな…

営業に行ったら絶対にうまくいくと思うんだけど…


でも前にそういう話をしたら「面倒」の一言で終わってしまった。

確かに、面倒な事が嫌いな諒夏さんはそういう事が大嫌いだ。



「で、何を悩んでるの?」

微妙でも話せることは話してみてよ。

そういった諒夏に私は意を決して呟いた。


真琴の事、同じ職場の同僚だった事。

結婚する当日に彼が亡くなったことを。

今でも忘れられない。

話してるうちに涙があふれる。

彼がなくなったと聞いたときに出尽くしたはずの涙が…こぼれる。

「…そっか…」

でもさ、ありかちゃん。

そういって諒夏はハンカチを差し出す。

「彼、和葉君ならあなたのことわかってくれるわ」

怖がらずに飛び込んでみたら?


でも好きだなんていわれてないんだから、そうなるわけないんだけど。


それから数日…

諒夏さんから言われて考えてみたけどそんなに経ってないんだもの忘れられない。


『真琴…』


右手に変えちゃったけど、でも今でも嵌めてる婚約指輪。

これを決める時も凄くもめたよね?



『え〜、婚約指輪はダイヤモンドでしょ?』


ほら、給料の何か月分って言うじゃない。


ありかの言葉に対し真琴はバカにしたような視線を向けた。


『あのな、あれは誤解なんだよ、そもそも結婚指輪ってのはダイヤモンドに限らず、

 真珠でも誕生石でもいいんだとよ。まぁ、プラチナ、ゴールドってのは甲丸指輪が多いらしいけど』

石に関してはそんなに決まりはないみたいだぜ。


真琴の言葉にありかは『へぇ〜』と驚いた表情をした。

『なんで真琴そんなこと知ってるの?』

『あ?これ買った時に店員さんから聞いた』

そう言って出されたのは良く見る紫のボックスだった。

『…真琴…これ…』

『お前の誕生日8月だろ?

 で、店員さんに聞いたらこれがいいんじゃねぇかって言われてさ』

『あけていい?』

『ぁあ』

リボンを丁寧に外し、ふたを開ければ緑色の石のついたシルバーリング。

『これ…なんて石?』

『グリーンアベンチュリン、意味を聞いてこれにした』

『意味?』


そう、グリーンアベンチュリンは8月の誕生石ではないものの、黄緑色が8月の月カラーらしく、


そして、結婚するなら幸福を意味するこのグリーンアベンチュリンが良いのではと進められたらしい。


『明るく輝き、幸せをもたらす…って』


俺らの未来が明るく輝いて幸せをもたらしてくれるように。


『…ありがと、真琴』

真琴に左手の薬指に嵌めてもらったのを思い出し、

ありかはおもむろに右手から左手の薬指に嵌めかえた。



あの時のやり取りがこうやって鮮明に思い出せる。

まだ忘れられない。

いや、忘れる事なんて…出来ない。



ありかは一人電車の車窓から視線だけを外に向け、

左手に嵌めた指輪を右手で覆うようにぎゅっと握り締めていた。


ありかちゃんが真琴とどういう感じで過ごしたかが出たらいいなと思います

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