第七話~勇気と涙~
「ニンゲン……。ニンゲンッ!」
感染者。いや、BRというべきかも知れない。既にもう人間でなく、ウイルス感染者。それらが絶えず襲ってくる。
「えぇぇい!! うっとおしいわ!」
文美は蹴り技と弓矢をBRに決めていき、倒していく。5体いたBRもあっというまに力尽きていった。
「まったく。少しは予の好みにあう敵はおらんのか!」
好み……って。そういえば、文美の好みは僕も全然知らない。修行もあったせいか男子との交流もほとんどなかったし。聞いてみるか。
「ねえ。文美の好みに合うってどんな感じ?」
「うむ……。もっと美的センスが優れなものだな。美少年の敵や美少女の敵はおらんのか!」
……。顔か……ってか今美少女って言いましたよね!? え!?
「まさかあなた……両刀……?」
「ん?なんだ?予は刀は使わぬぞ?」
そこらへんの意味は知らないんだな。にしても……ハンサムね。僕には到底追いつけない階級ですわな。
「コニーとかハンサムだよね。あれは?」
「髭の塊は好まぬ。友としてはよい者だが」
まあ確かに。しかもコニーも女好きだけど、文美に対しては「ちょっと俺の好みじゃねえな~。友としてはいいけど」って言ってたな。
「今まで出張先で色々な人を見てきたが、やはり予に合う男はおらんかったぞ。予は予だけを愛する者が好きなのだ。他の者まで愛そうとする輩は好まん」
浮気をしない人……と(あたりまえ)。僕は文美だけを愛し続ける! なんて言ってもこの顔じゃ……ね。……やっぱり男はいない、ってことは女はいた……と。
「どうした康雄。がっかりとして」
「いや。なんでもない。それより、やっぱり腹減ってきたね。あのボックスじゃ満腹にはならないし」
「そうだな。ためしに他の建物を見てみるか。もしかしたら、食料が眠ってるかもしれん」
そういって、近くの建造物へ入ってみる。そこには人がいた。もちろんBRじゃない、普通の人間が。やっぱり表情が暗い。
「……お?人か。」
「はぁ……」
「珍しい。が、どうせ放流者だろ?」
ここも鬱になりかけ(てかなってるかも)の人たちばかりだ。文美の顔も「またもや予の好みに合わぬ」って思ってる顔だ。すると、一人の老人が話しかけてきた。
「お前たち。もしや南から来たのか?」
「え?そうですけど」
「はぁ~。あの感染者たちをどうやって……」
「確かに普通の人間よりは強いが、予の矢の前には敵ではあらぬ!」
よっ。文美様!
「本当か…?この時代にそんなものたちが……」
「それより。ここには食料はないのか! 腹が減ったぞ!」
「それならヒーリングボックスを……」
「まなそれか!!もうよいわ! 何か口に入るものがほしいぞ!」
でも流石にこの環境じゃないでしょ。
「……。ないわけでもない」
え?
「それは真か! どこにあるのだ!?」
「すぐ近くにある施設。イージスドームの地下だ。大昔。そこは食糧庫もかねた輸送センターだったらしい。」
「何!? よし! 康雄! すぐに行くぞ! 予はもう限界だ!」
この時代で食糧が簡単に手に入るわけがない。というか、この人たちが手をつけてないってことは。
「ご老人。そこに何がいるの? 手もつけられないようなやつでしょ?」
「ふむ。若いもんは勘が良い。そうだ。警備ロボが今でも巡回しておる。かなり強い」
やっぱりね。それで……
「お前らもやめたほうがいい。この間も、我慢できずに行ったやつがおった。もちろん帰ってきてない」
ここで時間もかけれないし。しょうがない。先へ行こう。
「康雄。そのイージスドームへ行くぞ」
「ええ!?でも、研究所に急いだ方が…」
「嫌だ。腹が減ったのだ。今まで、腹が減ったまま仕事をし、うまくいった試しがない。それに、予はもう限界と言った。これ以上は我慢できん!」
なんてわがままな……。
「老人! 待っておれ! しばし待てば、予たちが食料を持って帰ってくる」
「なんと。死にに行くようなものだ…」
「死にに行くのではない。進むために行くのだ」
「すす…む?」
「そうだ。主らがじっとしていても時間は動く。が、それでは止まっているのと同じだ。予は。いや予たちは、止まらぬよう。前へ進むために行くのだ。行くぞ康雄!」
「あ! ちょ!!」
ドームの中に入り、地下への階段を見つけ降りる。警備ロボがいるせいか、BRもいなかった
「にしても。文美は滅茶苦茶だ…」
「すまない。だが、これは予の本能だ。許せ」
「わかってるよ…。昔だって同じだったし」
「昔?何時のことだ?」
「あれは小学校入りたての時。」
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「無理だって文美!そんな所!」
「ええい!うるさいわ!」
「そんな木のテッペンにひっかかった風船なんて取れないって!!」
「予たちより幼い少女が泣いておるのだ!無視をしてどうする!」
「だからって危ないって!コニーもなんか言ってよ!」
「君。泣かないで。ほら、花をあげよう。」
「てめぇは何ナンパしてんじゃおらぁ!!」
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「あの後。結局大人がきて文美を止めたけど。いやはや。コニーもあれだったけど、文美も無茶苦茶だった。」
「そんな昔のこと覚えておらんぞ。」
「ま。そんなお前らと、よく一緒にいれたもんだ僕も。それが楽しかったわけだけど。」
「そうか…。ありがとうな。」
「礼を言われる筋合いはないよ~。僕が勝手に、ついてきたわけだし。」
「(予も。主といれて嬉しかったぞ)」
「ん?なんか言った?」
「な、何もいっておらん。む?あれは…」
人型の何か。だが、見るからに普通ではない。あれが警備ロボだろう。
「侵入者へ告げる!ただちにここから立去れ!」
「ほほう。威勢だけはよいようだな。どんなロボか楽しみだぞ!」
走って近寄る。すると、そこには……一言で言うと美少女。アニメのヒロインに出てきてもおかしくない美貌を持ったロボットがいた。
「警告の無視を確認。攻撃態勢に入ります」
「おお!!これだ!こんな敵を待っていたのだ!!」
やっぱり女でもいいのですねー
「遠距離体勢」
すると腕から筒状のものがでてくる。これは…?
「発射」
ガガガガガッ!! 大きな音とともに銃弾が撃ち込まれる。すぐさま僕は物陰へ!!
「むむ。この荒さがなければ予の家に置いて夜のお楽しみもよかったのだぞ!!」
僕を置いてくださいよー。僕をー
「だが!今までの敵よりは強い!楽しませてもらおう!」
といいながら、連続で弓矢を三発当てる。が、全てはじかれる。
「硬い…」
「戦闘体型変更。広範囲体勢。」
え?ファイアー?ロボは背中から伸びてきたホースをてにもつ。そして、
「噴射」
そこから炎が
「でぇぇぇい!!熱い!!熱い!!なんで僕にィィィ!!?」
「むむっ!!浮気をする者は予の好みではないぞ!」
え~攻撃も浮気に入るんですか~。
「……!!」
文美はロボの後ろに立ち、炎のホースが繋がれている機械に弓矢を向ける。が、放つ瞬間ロボは危険を察知したのか後ろを振り向く
ガァンッ!! 装甲の硬い前部に矢が当たり音を周囲に響かせる
「ピピッ…。装甲の損傷を確認……。装甲強化をシステム要求……。」
「させぬわぁッ!!」
その隙をみてほぼ一瞬で近い位置に移動する文美。ゼロ距離に達したときには弓矢の弦はもう引かれていた
「ガードの固い娘の口説き方その一ィィ!!」
「接近体勢…」
文美の手が弦から離される
「崩れたところを一気に攻める!!名づけてェ!!一口の油断!!!」
勉強になります
ガツンッッ!! 釘を打ち込んだかのような打撃。硬い装甲の脳部分も、しっかりと矢が突き刺さっている。
「動力源に損傷あり……。しゅ…せい…不可能……。機能……てい…し点」
プシューという音をあげ、ロボは動かなくなる
「攻略完了だ。」
すげーなおい
「どうだった康雄!!予の戦闘ぶりは!!見ておったよな!」
「見てましたけど……。」
「む?どうした。浮かない顔をして」
確かにここに食料はあるかも知れない。だけど、その食料は「今も昔のまま」かと思うと…
「戦いは済んだ。何も心配いらん」
戦い。もそうだ。今までも十分強かったけど。この時間移動をして、更に強くなった。なんだかもう人間じゃないかのように。こんな機械を貫ける弓矢は、常識じゃない。
「ふむ。扉が二つあるな。では、右を行くことにしよう。」
「あ。先にいかないでェ!!」
「倉庫だな。やはり予の勘はビンゴであったぞ。」
確かに食糧庫だ。しかし、ホコリの様子を見る限り。かなりの時間が経っている。しかもこの箱の中にある物体。これはもう…
「む?なんだこの黒いのは。石炭か?やはり隣の扉であったか?」
いや違う。文美の勘は当たった。
「これが。食べ物だったものだよ。」
「何?これがか。」
「風化だな。時間が経ちすぎたんだ。もう匂いすらしない。」
「無駄足か…。むむ?」
すると、倉庫の隅にある何かを発見する。
「死体…か。さきの我慢できなくなったやつだろうな。」
「何か持ってるね。本?ってこれ。見たことあるかと思ったら農業の本だ。」
「しかも現代の本だな。なぜこやつが…」
「……もしかして。この人。この本を読んだのか?」
「どういう意味だ?」
「さっきコニーが言ってたでしょ?文化が受け継がれていても、迷信にしか聞こえない。って。で、こいつは本を読んだ。そこには、食料を育てる術が書いてあった。きっと、食料は長い間放置されるとこうなってて、それが肥料になるって知ったんだと思う。こいつは、例え迷信でも助かる方法を試したかったんだ。…ほら、畑の作り方のところに印が。」
「そうか…。なら、これをあの者たちに教えよう。ただし、あそこの者だけにだ。」
「え?なんで?どうせなら他の人たちにも…」
意地悪でもする気?
「康雄。主は縄文・弥生時代を習ったろ?」
「覚えてないほど馬鹿ではありませんよ」
「あの時代。米の収穫方法を伝える。または教わるために各地を回った者たちもいると聞く。」
「ほへ?だから?」
「食料がある。そう一言でも耳に入れば、他の者たちもここに来たがるだろ?そのために、BRに立ち向かう術が必要となる。そうやってまた人類は進化していくのだ。」
「そうか。つまり、歴史を繰り返すんだね」
「そうだ。そうすれば、きっといつかはかつての世界も取り戻せるかも知れん。いいな?」
「うん!」
流石文美だ。僕の考えをはるかに越えている
「でもさ。隣の扉はなんなんだろ?」
「もしやあのロボかも知れん!!行くぞ!」
この人諦めないな~
「なんだここは。機械だらけではないか」
そういえばここって、輸送センターでもあったんだっけ
「これくらいのコンピューターなら僕でも使える。ほら、あとちょっとで研究所だよ。地図がある。」
「何?康雄。予にも見せよ!」
「あ。ちょ。見せるから少し待……!!」
「む?どうした康雄。急に固まりおって」
「(こやつ……胸が成長しておるうぅぅぅ!!確かに前牢屋で見たときもわかってたけど、で…でかい!!)あ。なんでも…なっ…。」
このままでは鼻血の池になってしまうっ…
「む?待て康雄。この記録。2247年の9月22日以降ないぞ?定期的に更新されている天気カメラも。」
あ。本当だ。天気カメラはきっと輸送手段の判断のために使っていたものだろう。
「もしかして…。こんな廃墟になった理由が……」
「康雄!急いで再生だ!!」
「うん!」
その映像は。想像絶していた。
始めは何の変哲もない街の風景。まだ朝日が出て間もない頃。車も走る中。カメラが揺れだした。
少しずつ大きくなる揺れ。多くの車は地震かと思い一時止めたであろう。
大きくなり、人が立っていられるのかと思った瞬間。地獄映像は再生された
地面にひびが入り。それが広がり、車・人・地面を飲み込んでいく。
しばらくして、大きな穴があく。そこからは、白い棒状。いや、細く長く白い腕らしきものが出てくる。
長いだけでも気色悪いが、更に気分を悪くさせる。その腕は何本もあった。しかも、それぞれ別の動きをし、増えていく。
ある程度地面から出てくると、顔なのかも知れないものも出てくる。だが顔ではない。仮面を被ったようであった。
大量の腕で体は見えないが、顔と腕は地面から現れる。でかい。その上半身だけでもビル5階分はある。
走って逃げる車・人を掴み、握りつぶす。その繰り返しを始める。人がいなくなると、その化け物は地面へ戻って行く。全て見えなくなると
隕石なのだろうか。それとも別の何かか。わからないものが空から降ってきた。前の建物が音を生して崩れていく。そこで映像は止まった
「こ…これは…」
……ぁ
「ぁ…。ぁ…。ば、化け物が……全て…滅ぼし…た…」
「……。」
「ふっはは…。す、凄いな…未来のCG技術は…。まるで本物じゃないか…はっは…」
「……。」
「ふ、文美。凄いな…。こんな映画……。見たことないぜ……へっへ…」
「……。」
「何で…なんで何も言ってくれないんだ…?」
「……予も。そう信じたいからだ。」
…くっ…
「はは…。何とかなる?ふざけんなよ…。」
「康雄…」
「こんなの!!あんな化け物!どうにかできるはず無いだろぉ!?」
頭が…おかしくなりそうだ…
「地面の下に化け物がいて!2247年に全部滅ぼす!?わけわかんねえよ!!」
酷すぎる
「今の映画だってもう少しまともな理由で崩壊するよ…!こんなのおかしいよ!」
「康雄!!まずは涙を拭け!」
「…!!」
文美の声で我に返る。僕の目からは涙が出ていた。
「そうだよな…。僕たちに対しては100年以上先のことだ。別に困るわけでも…」
「それでいいのか。」
え?
「184年後に世界が滅びると知って。自分たちの足元に化け物がいて。謎のウイルスが発生することを知っていて。何も知らずフリをして死ぬ。それでいいのか!?」
違う…
「それでいいのか!?」
「違う!!!」
「何がだ!」
わかってはいたことだけど…
「僕は。コニーや文美みたいに強くもない。増してや特技もない。そんな僕に、何ができるっていうんだ…」
「…」
「ただの低学歴で安っぽい会社で働くごく普通の人間。そんなやつが……世界救うとか…未来かえるとか……ふざけるにもほどがあるってもんだ……」
膝をついて地面を見つめる僕。無理なんだ。こんなこと…
「康雄は…。もっと勇気のある者だと思っていたぞ」
「じゃあ!勇気がある人間は!あんな化け物に勝てるのか!?勇気だけで世界が救えるのか!?それで勝てるなら!教えてほしいさぁっ!くっ…うう…」
涙が地面に落ちる。情けない。それはわかっていても、足が震えるだけなのだ
「二人は違う。世界に認められた、いわば選ばれた人間っ…。だけど僕は違う!ただの一般人。さっきの映像で、地割れに落ちるか握りつぶされるかのただの人間なんだっ…」
思い出すだけでおかしくなりそうだ。あんなのに勝てるはずが無い
「どうにか……どうにかなるのっ…?なあ!教えてよ!できるならさぁっ!!」
「………っ」
文美の方を見ることもできない。こんな顔。見せるわけにはいかない。
「康雄は…。そうやって泣くしかできんのか…」
そうさ。それだけの人間なんだから。
「ならば予が間違っていた。康雄がいつまでも共に戦ってくれると夢を見ていたようだ。すまなかった。お主は、現代に戻って休むがいい。出社停止も終わる頃だろう。」
「…二人は…どうする…んだ?」
「コニーと予は。過去に行き、予たちが一軍を滅ぼすのを防ぐ。それが終わったらあの化け物に挑む。」
「なんとか…できるってのか?」
「これでも予は日本とこの世界を愛した者だ。ほうっておくわけにはいかん。」
くっ…う…
「行くよ。」
「一緒に来いとは頼んでおらん」
「言ったじゃんか!同じことがあったらまたするか?って!!」
僕は文美を見る。まだ涙は止まってない。だけど…
「言っちまったんだよ…。父ちゃんにも…約束…しちまったし…グスッ…」
駄目だ…。やっぱり涙が止まらない。
「康雄。安心せい。予がついておる。主が一緒に居る限り、予は主を守り続ける。だから泣くな」
違う。怖くて泣いているのではない。
「グスッ…」
文美の声を聞くと、なぜか安心してしまう。勇気が出てしまう。何とかなると…思ってしまう。逃げたいのに…勇気が出てくる…。
「康雄。目指すは研究所だ。まずはこの時代を抜け出すのだ!!」
「…うん。わかったよ文美。」
涙を拭く。それは、僕が覚悟を決めた証拠でもあった
その勇気は、愛の産物なのか。それとも、康雄の覚悟なのか