番外編~康雄の思い出⑥~
「ねえ」
「「……」」
「ねえってば」
「「……」」
「ねえ!」
「「静かにしろ(せい)!」」
まったく。通気口を通って行ったのに、急に止まっちゃって。コニー、文美、僕の順番だけど。
「康雄。主、合図と共に行進できるか?」
「ん? なんで?」
急に言って何だい。僕はずっと文美の尻見て……ゲフンゲフン。
「それは俺から言おう。実はな……」
コニーが10秒くらい間を開ける。そして、
「目の前に敵のケツがある」
……what?
「え? どゆこと?」
「今わからせてやる。テイッ!」
何か気合いを入れる声をコニーが挙げたかと思うと、三人誰のでもない声が「うッ」と鳴る。その後、
「テンメェ! 詰まって動かねえからって!」
野太い男の声。どうやらテロリストの一人だ。そしてどうやらカンチョーしたらしい(笑)。って、嘘でしょ? いくら身動きが取れないからって、目の前って……。
「で? 後ろに下がりたいんだが?」
「そうだよね。そんな状態で放屁なんてされたら死に至りますよね」
「んだとテメェァ! 待ってろ今仲間に連絡を……くそっ。手が……回らねえ……」
「今だ康雄! 下がれ!」
「うォォォォォォ!!」
全力で後進しましたよ……そりゃ、つらかった……。
「ぜぇー……ぜぇー……? ここどこ?」
全力で後ろ向きに進んでたから道を間違えたらしい。まったく知らない部屋にでた。
「どうやらここは……会議室かの?」
「つまりはミーティング室だ。毎朝の集会でもしてるんだろ」
ホワイトボードにたくさんの椅子。少し広い部屋だな。勿論敵はなし。
「さて……ここにいても見つかるのも時間の問題。どうするか……」
悩む二人。といっても、警察もいるし。窓から手でも振れば助けてもらえるんじゃ……。
「おい康雄。主、まさか窓から手を振るなんてこと考えてないだろうな?」
「エスパーかよ文美は。でも、それがいいんじゃない?」
すると僕の意見に鋭くコニーが指摘する。
「残念。そんなことすれば、敵に居場所を教えてるもんだ。警察が助けようとすれば、位置がバレバレだろ」
「でも。二人ならテロを撃退できるんじゃねえの?」
「無理だ。相手は銃を持ってるんだぞ? 二人ならよかったものの、流石に大人数で来られちゃ無理がある」
そ。そうなのか? とてもそうとは思えんがね……。すると、
「ん? なんか声が聞こえなかったか?」
「声? ま、まさか。さっきの敵対者のことか!? お、お、俺、まだ死にたくねえ……」
扉の向こうから聞こえる。ヤバい……敵だ。
「二人か……いけるか?」
「できるが……あまり意味はないぞ? さっきもそうだが、この矢は殺傷能力が薄い。麻酔薬が先端に塗ってあるだけだ。次期に目も覚める」
なんで麻酔矢を持ってるかは聞いてはいけないんだね!?
「大丈夫だ。こっちには銃があるんだ。先手必勝って言葉もある。いきなり乗り込んで突きつければ大丈夫だ」
敵の声が聞こえる。入ってくる気だ……。
「ど。どうするの!?」
「そうだな。よし、康雄。机の下へ隠れろ」
「うん。今更捕まる気はないよ」
「そうか……。よし、康雄。ボードの後ろに隠れろ」
「うん。なんで二人とも僕で遊んでるの?」
この状況で遊ぶのは酷い。と、話していると、
「よし。行くぞ……」
入ってきそうだ。「真面目に考えて!」と言おうとしたら、
「康雄死ぬなよ」
「康雄死ぬではないぞ」
と、常人の脚力ではないジャンプで通気口に入る。エェェェェェエエ!!??
「動くな!」
「う……動くにゃ!」
二人の銃所持の男に対し、茫然と立つ僕。ヒドッ。あの二人ヒドッ。僕にあのジャンプ力がないことを知って!
「……お前ひとりか?」
「はい」
「三人いると聞いたぞ?」
「はい」
「どこだ?」
「置いてかれました(泣)」
「嘘つけ! 本当のことを言え!」
「お゛いでがれま゛じだ……(ガチ泣)」
「「……ェェェェ」」
うっ……うっ……ひどい……。
「ま、まず泣くな。お前、こいつを縛っとけ。で? その裏切り仲間はどこへ行ったんだ?」
「くぃっ(上を向く指)」
「通気口か。見てくる」
そういって、一人の男が椅子を使って通気口へ入る。ああ、その手があったのか~。
「うっ……zzzz」
すると男が落ちてきた。え?
「おい! テメェなにしやがった!」
え? え? ん? 落ちてきた男は眠っていた。よくよく見ると、頭に針が刺さってる。
「早く答え……ムニャzzzz」
言いかけたもう一人の男も、なぜか眠った。
「……?」
二人とも眠ってしまった。なんで?
「敵を騙すには味方から騙せ……ってな」
通気口からコニーが出てくる。
「吹き矢も持っておいてよかったぞ」
文美も出てくる。……ん?
「スマンな。そのガチ泣きが欲しかっただけなんだ」
「うむ。主の泣きで相手も信じ込んだぞ」
……え、つまりは。僕は、敵を騙すために騙されたってこと? ヒドッ。
「ついでに泣き顔をショットさせてもらったからな」
「テメさっさとそれ消せ」