第20話~初勝利~
久しぶり!
会場が大きく盛り上がる。なんてったって、今出てきた選手は優勝候補者の二人。金剛力とヒューズなんだから。
土俵の上では、金剛力のドーピングされた体(コニーによると)と、人工的に作られた絵具で描かれたヒューズの肌が対立しあう。だが僕は納得できていない。金剛力の速さと力で奪い取られたマワシを、どうやって負け判定にさせないのか。そう考えている間に、相撲の審判(行司というらしい)が「はっけよい……」と言い、始まりを近づかせる。
「のこった!!」
そう大声で行った刹那。観客の歓呼が会場に響き、金剛力が動く。
そしてヒューズが身構える前に、マワシに金剛力の手がつき、引っ張られる。
「ああ…ダメだぁ……」
そう目を瞑ったが、なぜか勝負の判定が聞こえない。不思議と思い、目を開けると。自分で自分の目を疑……いや。疑うも何も、こりゃないわ……
「ふっ。残念だったな。俺は他の奴らとは違うんだ」
あまりにも静かだったので、そうヒューズが言ったのは遠くの僕にも聞こえた。
「マワシが……つかめない……?」
そう。おそらく気づいている人は少ないが。ヒューズのマワシは、描かれたモノだった。どうりでつかめない訳だ。その瞬間、ヒューズの手元に閃光が走る。周りの人は目を瞑る。あれは、転送装置の光だ。
「これでお前も終わりだ」
閃光が消える頃には、金剛力はヒョロヒョロの体に戻っていた。観客は全員頭の上に「?」を浮かばせていた。
「お……お前、何を……」
「神の力とでも思えな。よっこい……ソォォイ!」
ヒューズが金剛ヒョロを持ち上げ、土俵を大きくはみ出すように投げる。当然のように観客は金剛ヒョロを見る。その間に、ヒューズがこちらへ注射針を投げる。
「よいしょっ……ナイスキャッチ!(自画自賛)」
これで証拠隠滅完了。ポケットにしまう頃には、ヒューズの勝利で歓声が上がっていた。
『よぉし! 康雄! よくやった。これで一勝だ!』
電話越しに叫ぶコニー。大きな声だすなっていったのどっちだよ。
『てことで、ヒューズとハミーを交代させる。お前は引き続き賭けとけ』
「いいけどさ。相撲でドーピングみたいなズル(ではないけど)があったんだよ? 次の露西亜小輪は大丈夫なの?」
『その対策はしてない。言ってもしょうがないだろ。あいつらには』
まあそうだけどさ……心配だな。
『なんだ? ハミーを心配してるのか? 珍しいな』
「そりゃまあ……仲間だしね。そりゃ心配してるよ」
まあそんなこと本人に恥ずかしくて言えないけど。
『(まあここにハミー既にいるんだが……)まあ、お前は心配せずに応援してろ』
ん? なんか聞こえたけど。まあいいか。
「わかった。んじゃ。また」
『ああ。じゃな』
電話を切る。さて、さっそく賭け金決めるか。
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「ああ。じゃな」
電話を切る俺。ちなみにここは待合室だ。近くにはハミーが既にいる。
「今の聞こえたろ? 康雄があんなことをね~」
ハミーをちょいと見る。するとハミーは少しだけ赤くなっていた。
「ふ、ふん。たかが下僕の言葉なんてき、き、聞こえませんわ」
わかりやすいやつだな。
「それより。次の勝負の準備ですわ」
さて。どうなることやら。勝負も、恋も……ふっふっ。