番外編~康雄の思い出③~
「いや。確かに食べるとは決めたけどさ。だからって真顔で小鹿を解体できるのはおかしいよ?」
康雄は混乱状態であった。文美とコニーが表情一つ変えずに小鹿の足や肉をはぎ取っている情景を見て。
「予は腹が減ったのだ。さっさと食おう」
「死んで時間が経つと黴菌がつく。その前に処理だ。ハエも来るしな」
康雄は弱肉強食を知った。
「で。どうする?」
火で肉を焼き、食べた後。これからを話し合っていた。
「やはり。助けが見つけやすいよう、なるべく高い所で火を焚くのがいいだろう」
「いや。出発地点に近い方がいい。見覚えのある道を通って外に近寄ろう」
二人の意見はよく食い違っていた。
「と、とりあえずさ。どっちも歩かなきゃ始まらないし。動こ?」
鶴の一声とはこのことである。康雄たちは歩き始めた。
「康雄の方位磁石によれば、北に向かってるんだが……」
「景色が一向に変わらんな」
「さっき見かけた岩が見えたけど、気のせいかな?」
そう。三人は同じ場所をグルグル回っていた。
「ふむ。この先に兎が見えるな。丁度いい。昼飯……っだ!」
そう言いながら文美は弓矢を引き放つ。遠くの方で「ブサッ」という鈍い音が聞こえた。行ってみると、兎にクリーンヒット。
「う……兎まで食べるの……?」
「当たり前だ。ここは強い者しか生きれんのだ。辛抱せい」
きっとこの歳の(コニーと文美は除く)子供なら、とても残酷に思うだろう。
「……? おい。ちょっと静かにしろ」
コニーが突然言い出す。とりあえず黙る。すると、何かの「声」が聞こえた。
『ぅ…う……ぁあぁあああ!!!?』
叫び声だ。聞くところ、大人の男の声だ。急いで声が聞こえた方へ走る。
「誰かいるのですか!」
「無事なら返事をせい!」
「大丈夫ですかー!?」
キョロキョロと周りを見渡す。すると、草陰に人の足が見える。
「大丈夫か!」
一番早く足のもとへ駆け寄ったのはコニーだ。が、コニーは近づくと、動きを止める。しかも、顔が真っ青だ。
「ど、どうしたの?」
康雄と文美が近づくと、そこには恐ろしいものがあった。
「これは……」
「ぁ……ぃ…」
きっと康雄には辛い光景だっただろう。その男の人の肩から上。つまり顔全部がなくなっているのだ。
「この痕……」
「康雄! 気をしっかり持て!」
「はぁ……ふ……あ…た……まが…」
この時の康雄の精神状態は、きっと崩壊寸前だろう。その男の手には猟銃が握られていた。そして、近くの木に血が飛び散っていた。
「文美。康雄を頼む。おそらく、この犯人は熊だ。しかも三メートル級の」
「三メートル級だと!? ありえん! そんな熊、ジャングルにいるのか!?」
「わからん。日本では昔いたと聞いたが。ここにいるかは……」
しかし。男の傷は、あきらかに熊の爪によるものだった。危険なのは確かだ。
「ひぇぇぇぇっぇぇ!!?」
スキマに戻り、康雄が目覚める。
「康雄。よく聞け。このジャングルには熊がいる。しかも凶暴だ」
「え……。そんな…」
「さっきの男。きっとあの熊を仕留めに来たんだろうな。が、返り討ちにあった。俺たちもいつ襲われるか……」
康雄は恐怖で声が出ない。生き残れる可能性が低くなったのだ。
「このままだと。ほぼ確実に熊に出会う。なにか対策を考えなければ……」
コニーが顎に手をあてて考える。康雄は、なぜこの二人は落ち着いていられるかわからなかった。
その時、康雄のカメラが荷物から出てくる。
「あ。カメラ……こんな時に撮ってる場合じゃないのに……」
「カメラ……電子回路……チャージ……そうだ!」
なにかを閃いたようだ。
「康雄! 文美! 今から大きな音がするかもしれん! 周りを見張っていてくれ!」
「え? わかった」
「うむ」
こうして、コニーは何かを作り始めた。
「ねえ文美。なぜか僕の方位磁石がないんだけど」
「コニーがさっき分解してたぞ」
▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわあああああぁぁ あれ限定品なのにィィィィ
「ねえ文美。なぜか僕の腕時計がないんだけど」
「コニーがさっき分解してたぞ」
▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわあああああぁぁ あれクオーツなのにィィィィ
「ねえ文美。なぜか僕のゲーム機&充電機のボタンが落ちてるんだけど」
「コニーがさっき踏んでしまっていたぞ」
▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわあああああぁぁ あああああぁぁぃ!?
「康雄よ。何か遠くに見えるのだが」
「遠くって何メートル先ですかい……。で、何か見えるの?」
この目を開き方だと、1キロ先は確実だ。
「毛むくじゃらの3メートルと、銃を持った人間3人だ」
「ちょ…」
まだ猟師がいたことにも驚いたが、もっと驚いたのはたった一キロ先に熊がいることだ」
「あ。一人吹っ飛ばされたの。二人が撃っているが、当たる気配がないの」
「ひっ……」
「うっ……今度は一人が腹を真っ二つにされおった…」
康雄は恐怖でいっぱいだ。文美も少しつらい顔をしている。
「くっ……踏みつぶられた……」
「う……く……ぁぁ…」
「!! こっちに向かってきた! 走っておる!」
「ぁはは……こ、コニーに…言わなきゃ……」
しかし、康雄は腰が抜けて立ち上がれない。力が入らないのだ。
「た! 助けて文美! ち、力ぁが…」
「康雄! う……」
文美は考える。ここで康雄を助けて、速度を落としてコニーの場へ行くか。それとも、置いていきコニーを呼んでくるか。もちろん、康雄も同じことを考えた。
そう考えていると、熊が見えてきた。
「あ……ん……文美ィ!」
「!? なんだ?」
すると康雄は、ない力を振り絞って文美を蹴る。
「コニーのとこに行って! 時間を稼ぐ!」
康雄は叫ぶ。
「バカめ! 主が時間稼ぎなど!」
「いいや! 文美の方が足が速い。急いで!」
「それでは主が食われてしまうぞ!」
そう言って間にも熊は近づいてくる。
「その方が、あとから熊をやっつけれる! ここで文美がもし死んじゃったら、誰がコニーと戦うの?」
「予は死ななん! 主が走れ!」
「……それが、本当ならいいけど……」
康雄はそう小さくつぶやく。文美にはしっかり聞こえた。
「康雄……それはどういう……」
「いいから! 文美、行って! じゃないと、その弓。壊しちゃうよ!」
「ぐっ……主がそんなことできるはずが……」
だが文美はもうわかっていた。こうなってしまっては、康雄を止められない。
「文美ぃ!」
「…く……無事でいれ!」
文美は走っていく。康雄は、頑張って立ち上がり。熊を見つめる。「死んでも稼いでやる」そう思いながら。