第二話~食い違う歴史~
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僕は、真っ暗闇の中で。不思議な映像を見た。それは、最初は何かの卵…いや、卵らしきものだった。が、少しずつヒビが入り、中身が見えてきそうな時。聞こえたんだ。
「あ…り…が…と…」
なんだったんだろう。聞こえにくく、何かの機械音にも聞こえた。ただ、「ありがと」と頭に響いた…。
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「うっ……まぶし……」
気が付くと、地面に立っていた。どうやら林の中らしい。草木でいっぱいだ。
「ここは……?」
まったく見覚えのない景色に戸惑っていると、
「おい康雄。そこにいると攻撃が当たるぞ」
お?どこからか文美の声が。どこだ?周りを見ていると、
「うひょ!?」
ヒョイっと上に持ち上げられた。比喩的なものでなく、本当に上へ。木の上に着地すると、隣には文美が。
「あれ?文美、ここにいたのか?どうした?こんなところで。」
「馬鹿者。先までお主がいた場を見よ。」
呆れた顔で言われた。どうしたっていうんだ?と、そこを見ると。
「ぬおぅっ!? 矢が刺さっとるどぇ!?」
そう。そこには、3本の矢が刺さっていた。
「言っとくが予ではないぞ。あの方向からすると、北だな」
僕にはわからないが、おそらく文美は北を向いているのだろう。なぜ方位自身もなしに方角がわかるのか……。
「北ねえ……。じゃなくて、なんで矢が飛んでくるの? てかここどこ!? 日本じゃないよね……」
辺り一面草木。もう少し行けば道がありそうだけど。とりあえず木々が生い茂っている。
「ここは日本だ」
へ? 日本? こんな林、まだ日本にあったのか。まだ日本も捨てていられないな。
「しかも、1756年だ」
ふーん。1756年ね。今から304年前か~。……ん?
「はぁっぁっ!? 1756年っ!? ば、ば、ば、バカなことおっしゃらないでくださいよ文美さん!」
あ。ありえない。きっと騙して遊んでるんだ…。でも、文美は真剣な顔のまま言い続ける。
「バカでもなければ嘘でもないぞ。先ほど、ここを兵士らしき人間が通った。その時、こう言っていた。」
『ったく。つい一年前に隣の国と戦争があったってのに。今度は魔族かよ…。』
『いいじゃないか。どうせ我が国が勝つんだ。今だって、魔族軍を押している所だ』
「と。」
うん。突っ込みはいっぱいある。まず隣の国と戦争?隣っていったら中国だよな?最後に戦ったのは、たしか歴史上1755年。だったら本当に今は1756年じゃないか。
それに、魔族ってなんじゃい。そんなもの、歴史書にも学校の教科書にもついてないぞ?ただの迷信だ。あいつら春に出現する電波様か?
「お主…。信じておらんな? まあ無理もない。だが、魔族とやら。すぐ近くまで来ておる。」
「はい?んなもんいる訳ないじゃん。お前も電波ちゃんになった?」
「そう思うならあれを見よ」
「ゴキリッ」と音が鳴らんばかりの勢いで首を回される。いてぇ…。が、その方向に見たことのない物体が。
「なん…だよ。あれ…」
体は紫色。鎧らしきものは着ていない。刀を持ち、二体で歩いてくる。近くまで見ると、体中に出っ張りがあり、まるで童話や神話にでてくる化け物だ。見ているだけで寒気がしてくる。
「あれが魔族らしいぞ。どうだ?これで信じたか?」
信じられる訳がない。が、着ぐるみをしている訳でもないし、人間の形をしている訳でもない。なんなんだこれは……。信じられないぞ?
「まだ信じないか…。む? 先ほどの兵士達がまだそこにいるようだ。危険を伝えてこよう。」
「えっ! ちょ…。一人にしないで!」
「すぐに戻ってくるぞ!」
「あ!ちょ!」
「待って」の一言も言えずまま、木々をつたって遠くへ行ってしまった。あいつの「そこ」は何キロ先だよ…。と思っていると。
「お?なんだ?木の上に怖がり人間がいるぞ?」
「本当だ。木を揺らせば落ちてくるだろ。首だけ兵士達に持っていってやる。」
あ。やべ。見つかった。文美さぁぁん!早く!早く来て!
「おるぁ!落ちてこい!!」
「ひぃっ!!」
本当に危険だ…これ……落ちる……死ぬぅ……。なんでこんな目にぃ……
「しぶといやつだ…。落ち……ろぉっ!!」
「ぐばぁっ!!」
その時、手が木から離れる。そして頭から落ちていく。ああ。僕、変な場所で変な奴らに殺されるのか…。覚悟をきめ目をつむった瞬間
「がっ…」
「な…」
二体の苦しい声と、倒れる音が聞こえる。そして、誰かにキャッチされる。助かった…のか?ゆっくりと目を開ける。そこには、中折れ帽を深く被ったおっさんがいた。
「ったく。銃弾もただじゃねえっつうんだ。大丈夫か?見るからに兵士じゃねな。誰だお前。」
よく顔を見ると、コニーとはまた違った生やし方の髭が顔に。この生やし方はカッコいい。コニーもそうすればいいのに。じゃなくて、何て答えれば?もし本当に過去だったら本当のこと言えないし…
「え…と。チョット旅ヲシテイタモノデ。ソレデ巻き込まれチャッテ」
うぉいィィィィ!思いっきり片言じゃねえかァァ!!嘘だって言ってるようなもんだぞ自分ンン!!
「そうか。偶然だな。俺もだ。俺の場合は宝を探して旅してるんだがな。ここにはないようだ。」
あれ?騙せた?この人鈍いの?
「にしても…随分とやばい時に来ちまったもんだな。魔族との交戦中に…」
そう髭さんが言っていると、後ろから魔族と思われるやつが忍び寄っている。
「後ろにいます!」
とっさに叫ぶと、髭さんは片手を僕を持ち、片手に何かを懐から取り出した。そして
ズガァンッ!
大きな音がする。耳が痛くなった。すると魔族らしきやつは倒れる。髭さんの片手を見ると、拳銃があった。それを使ったのだろう。しかし、一発でしとめるとは……。
「あ、ありがとうございます。」
「いんや。礼はいらんよ。旅人同士だろ?」
なんていい人だろうか。こんな人が過去にいたんだな…。いや、まだ信じたわけじゃ…
「丁度いい。周りに敵がいない間だ。急いで近くの小屋に行こう。そこなら安全だ。」
うーん。まあ、文美なら大丈夫だろう。僕は何もできない。なら、この髭さんといた方がいい。
「お願いします。」
「おうよ。」
小屋までの道。名前は聞いといた。
「そういえば、あなたのお名前は? 僕は、橘康雄と言います。」
「おお。そうだったな。康雄か。俺は、向井玄だ。玄と呼んでくれ。」
玄さん。なんだか落ち着くものがある。すると、玄さんは
「ところで康雄。お前、旅の仲間。いるんだろ?」
一瞬ビックリした。なぜ知っているのかと。
「な、なんでですか?」
「そりゃお前…。今のご時世。世界中歩いて安全な訳じゃねえ。魔族もいれば盗賊もいる。そんな中お前みたいな弱っちいやつが一人で旅できるはずがないだろう。」
見抜かれていた。自分が弱い。というか普通の人間だと。流石だ。
「そうですね。仲間…はいましたよ。」
とでも言っておこう。だが、僕だってわからないことがある。それを怪しまれずに聞くには…
「でもすが…。実は、魔族のこと全然知らないんです。そういうのがいない場所から来ましたから。」
さっきの嘘丸出しでもだまされた玄さんなら…!ごめんなさい!騙されて…!!
「そうだったのか。そんな所まだあるんだな。しゃーない。俺が教えよう。」
キタ━━━━ヽ(゜∀゜ )ノ━━━━!!!!
「まずやつらが出現したのは、まだマンモスが地面を歩いていた頃らしい。」
「そんなに前から…」
でもそんな伝説は残っていないが…
「魔族は、だいたいのやつらが少量の魔力っていうやつを持っている。でも、さっきみたいな下っ端はその魔力を自分で操れず、自動的に防御に回るらしい。だから、普通に人間にぶっ刺さるような剣でも、やつらには効かなかったりした。」
魔力?また迷信な。でも、信じるしかないのか?
「その頃は原住民にパワーで抑えられていたらしいが、時がたつにつれ人類が弱まってきた。しかし、つい100年前。人類は大きな進化を遂げた。」
進化?ポケ○ンみたいに?
「魔力に対抗する手段が見つかったんだ。魔力に対する力、それはゲザラスの力。」
ゲザラス?そんな動物居たっけかな?というか話の展開が早すぎて追いつけない。
「まだ詳細はわかっていないが、その力を引き出す装置ができた。それを人間や物体に送り込むことで、魔力に対抗できた。俺の拳銃の弾も、その力を入れたやつだ。」
おかしい。そんなもの、現代に残ってもいない。
「それで、魔族も一旦落ち着いたんだが。最近になってまた暴れだした。おかげで各国での戦争も中断ってわけよ。まったく。魔族だろうが人間だろうが、戦うのは変わらないんだな。」
玄さんはうんざりした顔で言う。しかし…、僕たちの歴史と今が違う。どういうことだろう?
「どうだ?これでわかったか?」
「あ。はい。ありがとうございます。」
にしても本当に玄さんはいい人だ。
「ん?まてよ…。お前の仲間って、今どこにいるんだ?」
あ。忘れてた。後で殺されるかも…。やっぶぇ
「どっか行っちゃいました。なんでもピンチの兵士を助ける…って。」
そういうと、玄さんは驚いた顔をする。なんかまずいこと言った?
「おい。お前の仲間も同じ出身だろ?」
「ええ。そうですよ?」
当たり前じゃん
「だったら、魔族のこと何もしらねえじゃねえか。それで魔族に対抗できんのか?」
「あ」
あーーーーーーーー…。ははは…。
「玄さんお願いです!!文美を助けてください!!」
こうしちゃいられねえ!!早く助けないと!流石に魔族の魔力には勝てない!!
「おう!任せなぁ!!」
勢いよく小屋の扉から出て行く玄さん。僕はその後を死にそうになりながら追いかける。それにしてもコニー! 何してるんだ!? 早くきてくれよぉ!
橘康雄は時を探るようです