第10話~共に進む~
逃げ場はない。周りのBRはいつでも飛びかかれる状態だ。
「くそっ……。しょうがない。俺が道を作る。お前らは逃げろ」
「え! それじゃヒューズが……」
「ああ。主を助けたのは予たちだ。勝手に死なせんぞ」
確かに、誰かが道をつくれば逃げれる。しかし、その誰かは勝ち目はゼロに等しい。
「確かに俺はお前達に助けられた。だが、その助けられた命。お前たちを助けるための命と考えればいいものだ」
違う。そんなことをしてもらうためにお前を助けたんじゃない。お前を信じて助けたいと思ったから助けたんだ。そう言おうとした。が、まだヒューズはしゃべる。
「こんな姿で、更に姿を見ないうちに信じてくれた。それは俺の記憶の中で一番の幸せだった」
「よせヒューズ。そんなことはさせんぞ」
僕も何か言おうとしたが、なぜか声が出ない。多分周りが敵でいっぱいだからだ。怖いんだ。
「いや文美。お前は康雄を守りたいはずだ。だが、守るにはこの敵を逃れる必要がある。そら見てみろ。康雄だって怖くて声も出ない」
ダメだ。どうしても声が出ない。面目ない気持ちでいっぱいだ。
「いいか康雄。文美。何かを守るために犠牲が必要だ。勇気が持つ真実は……犠牲なんだ。未来のために犠牲を出す。どの時代でもしょうがなかったことだ」
「違うぞヒューズ! それは間違っている!」
そう文美が言うと同時に入口の方で爆発が起こる。その爆風の煙から出てくる影。人型だった。
「ああ。誰だか知らんが。それは間違っているな」
よく聞きなれた声。この声は! そう気づいた時には、銀色の金属で覆われた人型の物体がはっきり見えた。だがその顔には見覚えがあった。
あの林で、大群の魔族を蹴散らしてくれたヘルメット。そして、頭部の金属が開き、中の顔が見える。
「「コニー!」」
「クルーズ・コニー!? なぜここに!?」
あれは紛れもない。むさくるしい髭顔のコニーだ。ってあれ?なんでヒューズ知ってるの?
「ダレダッ!?」
「ニンゲンダッ! コロセッ!」
そこに他にいたBRが襲い掛かる。が、
「だいぶ待たせちまったな」
大群に腕を向けるコニー。もう少しでBRの攻撃が当たる……瞬間
「これがお詫びだ」
腕から何か筒状のものが飛び出し、光線……というべきか。そういうものが発射され、BR達を次々と蹴散らしていく。その光線を巧みに操り、部屋内のすべてのBRを倒し終わった時。
「そこのデカイの。よく聞け。確かに勝利には犠牲が必要かもしれん。だがな。それを覆すのが、俺達たちなんだ。今ここに生きるものたち。そいつらが、未来を変えていく」
コニーがこちらに近づく。その鎧(?)についても色々聞きたいけど。
「お前は……クルーズ・コニー? なんでここに?」
「あれ? 俺の事知ってる?」
コニーも驚く。それもそうだ。現に僕だって驚いている。なぜ知っている?
「当たり前だろ。お前は2060年に会社を立ち上げ、急成長した大社長。そう歴史書に書かれていた。だが……なぜ。とっくの昔に死んだはずでは……?」
……。これには説明が必要だ。
「……信じられん。そんな技術。今にも残ってない。ありえない」
「だが。ここに俺はいる」
「うーん……」
あ。ヒューズが納得するまで時間がかかりそうだ。その間に…
「コニー。その金属の鎧はなんだい?」
「あ?これか。そうだな……。前に製作を中断した人型戦闘装備の小型版だ。あの発電機を作ったおかげで、ここまで軽量化できた」
軽量化。その言葉で済んでいいのだろうか。あんなに大型の機械が、ほぼ人間の大きさと変わらないものになるんなんて。
「銃弾だって跳ね返す。あの空中補助装置で……」
「空中補助装置?ってことは、まさか空飛べるの!?」
「え?ああ。そうだ。発電機のエネルギーを使って高圧縮エネルギー……いや。簡単に言ってビームだ。あれで空を飛べるし、攻撃もできる」
す、すげー。空飛ぶとか。まだ2060年でも人は自由に空飛べないのに……。コニーは凄いな……
「してコニー。それほどのガラクタを集めたのだ。どうせこの時代の情報も得たのだろう?」
そうだった。僕達が行った場所でも、コニーがいたら更に情報を集められた。きっとコニーも得たのだろう。
「ああ。映像も見た。あの化け物……。人の手で作られたものとは思えない」
あれを見たのか。それでも精神を保てるとは、やっぱり文美もコニーも強い。
「そして。このBRウイルスを開発していた会社が。俺の会社だってこともな」
なっ……
「それは……どういう……」
戸惑っていると、ヒューズが話しかけてくる。
「それなら俺も知っている。だが厳密にいうと、コニー社長。あなたのせいではない」
「やめてくれ。社長なんて。まだ俺は会社すらつくってない。コニーでいい」
でも。コニーのせいじゃないって。どういうこと?
「あのウイルスを作っていたのは、CCグループの独立グループだ。確かに、魔族に対抗という目的を知っていて許可を出したのはコニーだが……」
独立グループ?そんなものをコニーは作るのか。本当に大企業だな。
「だが順調に進んでいたと聞いた。だが、ゲザラスが出てきたせいで……」
ん? ゲザラス? どこかで聞いたような……?
「待て。あいつの名前は、ゲザラスと言うのか。名前があったんだな……」
「そうだ。かなり昔の言葉らしいが、明らかにあいつのことだ。一体なんなんだ……?」
ヒューズでも知らないのか。本当に、あの化け物は……。あ。
「思い出した!」
「「「!?」」」
思い出した。ゲザラス……そうだ。
「ゲザラス! ゲザラスの力! 玄さんに聞いたやつだ!」
「……ああ。あれか。前に話した」
魔族に対抗する手段。ゲザラスの力。あれで、魔力に対抗できる。 でも、なぜそんな名前に?
「何か関係があるのか?それとあれは」
わからない。今の時点では。
「どの道。今の俺達には情報が少なすぎる。俺の鎧も、調整したいし。名前を決めてない」
名前かよ!
「そうだな。予も、一度帰っておきたい。やつとの戦いに備えて……」
う。やっぱり戦う気なのか……
「俺もだ。まだやってはいないとはいえ、俺がしたことに変わりはない」
「違うよ! それはコニーのせいじゃ!」
「いいんだ。康雄。俺には力がある。この落とし前をつける義務と同時にな。大いなる力にはそれほどの代償があるんだ。わかってる上の判断なんだ」
そんな……。すると、
「コニー。俺にも言わせてくれ」
と、ヒューズが急に話に入ってくる。
「俺はまったくの他人。更に未来人でもあり。言いずらいが言わせてもらう。お前は、科学技術とともに、とんでもないものを落としていった」
「……」
「それで、お前が神ならそれでいい。ただの無責任者でもいい。だが、それがどちらでも。結果的に自分の責任だ。それを見つけ、正すことができる。それが人間だと、俺は思う。きっと、お前らが進む道は正しい。だから、しっかり胸を張って進め」
ヒューズ……。
「ああ。ありがとう。これで勇気がわいた」
「うむ。非常に良い言葉であった」
「ヒューズ。ありがとな」
「おっと。気づけば時間もそろそろ1時11分だ。行くぞ」
もうそんな時間か。一日経ったんだな
「あ。待ってくれ」
移動するために3人が集まると、ヒューズが止める。なんだ?
「俺も。俺も、連れて行ってくれ。お前たちの道に」
……。なんだろう。この懐かしい響きは。どこかで……。いつか……。
「いいのか?一筋縄では済まんぞ」
おっと。じゃなくて、ヒューズが仲間に?
「いいんだ。俺を初めて信じてくれたやつら。お前達と、一緒に戦いたい。この命、お前らに預けたい」
ヒューズが力を籠めて言う。きっと本当にうれしかったのだろう。するとコニーは
「ゲザラスはきっと強い。それでもいいというなら、俺は止めないぜ。戦力はあったほうがいい」
言い終わると、今度は文美が
「ああ。予も、同行を許そう。予が助けた命だ。この戦いが終わるまで、共に居よう」
文美は弓矢を上へ掲げて言う。
「僕も。ヒューズ。戦えない僕でも、みんなと一緒にいたい。もちろん、ヒューズも。よろしく」
「ああ! よろしく頼むぞ! 時間移動か……。どんな世界が待ってるんだ!」
ヒューズも一緒に来ることになった。そして時間が来る。1時11分。
「行くぞ! スイッチオゥン!」
その声と共に、景色と意識が薄れていく。一体どんな時代に出るのだろう……
次の世界はどんな世界だろうか