第1話~橘康雄という男~
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「俺も。俺も、連れて行ってくれ。お前たちの道に」
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「某は侍でござる。少ござらぬとも、某が戦う迄は…」
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「そいつは悪いやつなのか?ならば、私はそいつを懲らしめる」
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「私は。お姉さまを守るだけですわよ?」
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「康雄君。うちの愛は止まりませんよ」
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「俺の親友は……。俺を信じてくれるか……?」
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「康雄。予は……。お主のこと!」
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……
「……康雄! …康雄…! 康雄!」
僕の名前は…確か橘康雄。ということは、この名前は僕の名前…。僕はゆっくりと目を開ける。眩しい光と、見覚えのあるような天井が目に映る。
「康雄。起きたか。よかったぁ…」
眩しい光が目に入るのと同時に、むさくるしい髭の顔が視界に入る。この顔は…、俺の幼稚園からの親友。クルーズ・コニーだ。
「覚えているか? 俺の顔。大丈夫か?」
「覚えているさ。忘れようとしても。お前が、女と酒が大好きで大天才科学者だってこととかさ。」
「はっはっは。そこまで覚えていれば上出来だ。」
髭の塊とは言いすぎだが、そんな顔が笑う。懐かしい顔のような感じがする。
そういえばここはどこだろう。自分の家ではないことは確かだ。こんな広い部屋、僕は持っていない。
「すまんコニー。僕、ここがどこで、何でここにいるかわからないんだ。」
「そうか。まあ無理もない。一瞬だったからな。お前、子猫を助けようとして車に座布団にされたんだよ。」
そんなことが…。確かに、腹のあたりを見てみると手術の痕がある。
「それで、近くにいたこの俺が!親切な大親友が!俺専用の腕のいい医者の病院に連れて行ってやったのよ!」
「えっへん」と言わんばかりの顔と腕組をして言うコニー。ま、どうせ病院の料金はあいつが払うんだろうから、いいけど。にしても、どうりで見たことあると思ったら病院か……。
「ああ。助かったよ。ありがとう。」
「な~にを。親友として当然だろ!ま、そこまでお礼がしたいなら拒否はしないけどなぁ~はっはっは!」
やべぇ…すっげぇ殴りてぇ。
「といっても。結構お前の怪我。ひどかったんだぞ?あの先生方が苦難する怪我とはな…。ありゃ、普通の病院じゃ助からなかった。お前の給料じゃ死んでた。俺もここまでしたかいがあったってことよ。」
そんなにやばかったのか。全然記憶がない分恐ろしい。
「ありがとう。父ちゃんも無職。俺も出社停止で金なかったんだ。助かったよ。」
「いいんだ。これくらいの金。俺の一か月分の給料の半分にもならねえ。」
やべぇ…すっげぇ殴りてぇ。
「それにしても。何でお前。そんな悲しそうな顔を?」
悲しそう?
「ああ。それは多分。今見てた夢のせいだと思うよ。」
「夢か?」
コニーは近くにあった椅子に座りながら言う
「ああ。内容は覚えてないが、何だか…悲しい夢だった。」
少ししか覚えていない。少しといっても、夢を見た…という事実くらいしか覚えていないが。
「ふーん。そうか。お前も悪夢で苦しむんだな。」
「お前は悪夢なんて見なさそうだな。頭の中までハッピーなお前は。」
「褒めるなよぉ~」
褒めた覚えはないがな!
コニーが帰った後。夢について思い出してみた。
「あの夢……なんだったんだ?」
長く、暗く、悲しい夢だった。でも、よく覚えてない。忘れてはいけないような……。でも、思い出せない。不思議な夢だったな…。
ここの病室。なぜかここも懐かしい。でも来たことないはず。訳がわからない。
━━━━━━━━━━━━━━次の日━━━━━━━━━━━━━━━
「もう退院していいのか。今の医学も進化したもんだな。」
「そりゃな。なんせ今は南暦2060年だぜ?癌だって一日で完治するほどだ。怪我なんて蚊を叩くより簡単だ。」
「俺の怪我はだいぶ苦労したようだが?」
「そうだったな。あれは…まあジャムビンの蓋を開けるくらいか?」
「お前。その基準どこにあるんだよ。てかジャムビン開けるのそこまで大変か?」
2060年にもなってもジャムビンの蓋が固いのが苦労。
「そういえば。今日は俺の新発明を体験する約束だったが。大丈夫か?」
そうだった…。確かジャンケンで負けた罰ゲームで…。できれば大丈夫じゃないと言いたいが…
「男の約束に二言はない。やってやるぜ。」
「うん。それでこそ俺の実験d……親友!」
「今実験台って言おうとしたね。絶対言おうとしたね。」
こいつ人を最低な目で見ていやがる。
━━━━━━━━━━━━━━橘康家の前━━━━━━━━━━━━━━━
「さて。財布、保険証、携帯、鍵、でいいかな。保険証は実験で失敗した時に病院行ったときに…。」
そう持ち物を確認して家をでる。コニーは先に発明品とやらがある実験室に行った。やれやれ……。家にも父ちゃんいないし。一人ぼっちだ~
「康雄。どうした。そんな顔をして。」
と、鍵を閉めていると後ろから声が。振り向くと、僕の二人目の幼馴染の姿があった。
「文美か。こっちに戻ってたんだな。なんでもないさ。ちょっと今から行く場所が嫌なだけだ。」
長い髪の毛を一本に束ねている女性は、草薙文美。こいつも幼稚園からの親友。なぜか昔から言葉遣いが特殊だ。よくコニーと文美と僕で遊んでいた。二年前仕事で海外に行ったはずだが。戻ってきたらしい。
「ああ。つい二日前に帰ってきた。にしても…これからと? 何だ? 病院でも行くのか?まだ注射怖いのか?」
ニヤニヤした顔で見てくる文美。注射ね~。それで済んだら嬉しいもんだ。
「病院はもう行ったよ。もっと嫌な場所だ。実験室っていう…」
「ほほう。実験室…というと。コニーだな? また実験台か! はっはっは! お前も大変だな」
「うるせいわい。お前はいいよな~。国の裏で働く天才の駒ですものな~」
彼女の技術は神の領域級だ。幼稚園から弓道を習い、そこを小学校入学までマスターすると独自流で弓矢を超越。その腕を見込まれ、今や狙った場所へ手紙や物を届ける裏の駒。
「そうでもないぞ。あれは結構命がけなのだぞ。」
何を…。2キロ先の僕らには全然見えない的に真ん中当てするくせに…
「そのような顔をするな。そうだ。予もその実験とやらをしてみたいぞ。いつも使われるだけだからな。久しぶりに使ってみたい。新発明を。コニーにも会いたいしな」
YES! 身代わりGET!
「おう?なんだ。文美も来たのか。というか生きていたのか。てっきり死んだのか…」
「主の脳天を打ち抜くことも可能だ」
「サ、サーセン…」
彼女愛用の弓矢を引く文美。彼女ならやりかねない。
「そ、それより。これが俺の新発明だ」
と、布をかぶせてあった大きな物体を見せる。布が被ったホコリを飛ばす。そうして見えてきたのは、人が一人入りそうな透明カプセルであった。大きな台の上に設置されていて、その台は近くのコンピューターに大量のコードで繋がれている。
「なんだこりゃ? 新手の土管か?」
今にも赤い帽子の髭おっさんが出てきそうだ。
「土管か……。似てるかも……な?」
「ほほう。似ているとな。して、どのようなものだ?」
コニーがカプセルの周りをまわりながら話す。
「これは、空間転送装置だ。ここに入ったものを別の場所に瞬間的に移動できる。一瞬でだ。だが、それは物でしか試してない。だから、人間でやってみたいんだ。」
「そんな危ないものを親友にさせようと…」
最低だとつくづく思う。
「大丈夫だ。失敗したとしても移動しないでその場に留まるだけだ。安心して入れ」
く…。信用できなさすぎる!
「康雄。お主の役目。予にくれぬか?」
「ほへ?」
文美さん今なんて?
「面白そうだ。その実験。予にさせてもらおう」
「え。マジで?」
そりゃたしかに身代わりゲットだとは思ったけど。まさか本当に
「で。でもいいのか? 絶対危険だぞ?」
すると文美は「ふふん」と笑って
「安心せい。予は幾つもの場を乗り越えた。こんなものへでもな…」
「あ。お前なら失敗してもいいな」
一瞬だった。コニーに向けて文美が弓の弦を引くのは。コニーは手を挙げて「スイマセン…」と。
「康雄!よく見ておれよ!」
カプセルの中から叫ぶ文美。いや~、可愛いな。怖いけど。
「よし。転送を始めるぞ」
結局ボコボコにされたコニーが操作台の前に立つ。彼曰く「弓撃たれるよりはよかったさ。体中いてぇ」らしい。
「スイッチオゥン!」
ボタンを押すコニー。すると、カプセルの中が光出す。
「見よ! 予が人類初めての転送者となるのだぁ!」
光が増していく。とうとう文美も見えなくなった。ただ声だけが聞こえ。
「見ておるか!見ておるか!」
と聞こえる。ちなみに僕は暇だったんで時計の秒針見てた。わ~3時33分33秒だ~
「ん?分子の動きが妙だな…。……! やばい! 康雄! 目を塞げ!」
「はい!?」
コニーが叫ぶ。反射的に目を抑えたが…何が…
「うぐっ…」
「なっ…!」
手で塞いでいてもわかった。手と瞼の間から漏れる激しい光。これをまともに見ていたら目をつぶしていた。しばらくするとあの光が消える。目を開けると、カプセルの中に文美の姿はなかった。
「あ…あれ?文美は?」
「おかしい…転送先は確かに部屋の中にした…。この反応は…」
コニーがぶつぶつとつぶやく。言うならはっきりと言ってほしい。呟くならフォローしてやるからあっちでやれ。
「やばいことになった。文美はどこか知らんが遠い場所へ転送された。」
「何!?だったら今すぐ迎えに…」
「わからん。どこにいるのか。今すぐ転送すれば、転送の軌跡が残っているから行けるが…」
「……わかった。転送しよう。文美を知らん場所へほおっておけない。」
そんなことすれば僕も帰ってこれないかもしてない。だけど、文美も一人にできない。
「…。わかった。軌跡が残っているのも2分が限度だ。急げ。」
はっ! 準備なんて最初からできてらぁ!
「俺もあとから追う。気を付けろ。」
「ああ。まかせな!」
カプセルの中に入る。カプセルを閉めると、太っているせいか少し狭かった。しかし、外の様子はバッチリ見える。
「よし。いくぞ!スイッチオゥン!」
お前はその言葉がないとスイッチ一つ押せないのか。前も部屋の電気消す時言ってたし。 そう考えていると、段々と意識が遠のいていく。
橘康雄は時を渡るようです