校舎に佇む
自分が体験した中で、一番怖かった話。
『大人になるまでに霊を見なければ、一生霊を見ないで済む。そんな言葉を聞いた事がある方も、少なくはないでしょう。
私は霊を見たことがありますか、と訊かれた場合、「あるような、ないような」と答えます』
見たことがあるとすれば、今回の話だ。
書くのが怖くて、止まっていたがそろそろ書こう。
中学二年生、陸上部。長距離に所属していた私は放課後いつものようにメンバーと、校庭を走っていた。
日課である。
校庭では、他の部も活動していた。サッカー部も同じように校庭を走っていたし(当時そのサッカー部に好きな人がいたので、走りながらすれ違って笑い合うのが好きでした)、皆が部活動に打ち込んでいた。
夏だった。暑かった、夕暮れとはいえ昼間に蓄積された校庭の温度は下がることがなかった。
校庭を何週か走り、休憩をしていた時だ。
ふと、校舎に人影を見つけた。大人の男性だ。当時の私はコンタクトをしておらず、眼鏡もはめていなかった。視力0.3前後の私が校庭の片隅から校舎の手前にいた人間をよく捉えることが出来たなぁと、今思った。
……怖い、が、ここまで書いたので書こう。
その人を見た瞬間に、一気に身体が凍りつくように寒くなった。鳥肌が立ち、がたがたと震え始めた。
走り終わって汗をかいたので、急に冷えたのだと思い込んだ。が、とにかく寒い。おまけに部活の仲間に「顔色悪いけど、大丈夫?」と訊かれる始末。
怖くて怖くて仕方がなかった、その、校舎の前にいる男性が。
何をしているでもない、ただ、校庭を見ているのかどうか解らないが突っ立っているだけの人。
先生ではない、それは分かった。
私は、唇を噛みしめた。見てはいけない気がした。見なかったことにしようと、思い込んだ。
休憩が終わり、移動することになったので私も身体を動かす。寒気は消え、暑い気温に胸を撫で下ろした。
校舎の前を何気なく見てみる。先ほど居た、男の人はいなくなっていた。
見間違いだったのだろう……そう思い込み私は部活に励んだ。
ところで。
放課後、生徒がまだいる時間帯に一般の人は校内に入っても良いものだったろうか。
確かに、夜ならば犬の散歩をしている人を見かけた気がするのだが、まだ明るい時間帯だ。
一体彼は何をしていたのだろう。
どうして私は、その人を男性だと思ったのだろう。私の裸眼で、あの距離でよく人物を捉えられたものだ。
職員室の前に、立っていたその男性。ただ、立っていた男性。
今でも風景は思い出すことが出来る、その場だけ切り抜かれた絵画のように思い出すことが出来る。
私は誰にも言わなかった、もしその場で私が部活の仲間に「ねぇ、あの人何してると思う?」と、訊いた時。友達が「は? 誰もいないじゃん」と返答していたら。
それが怖くて私は、誰にも訊かなかった。わかっていたのだろうか、その男性が人間ではないかもしれないことを。
尋常でなく寒かった、真夏に鳥肌が全身に立ったのはあの時だけである。
だから私は霊を見たことがありますか、と訊かれたら。
「あるような、ないような」
……そう答えることしか出来ないのである、霊ではないと願いたい。が、どうしても、あの時の不気味な寒さが、空気が。
怖い。
今日に限って事務所に一人ぼっちだったので、ちょっと気を紛らわせる為にどうでもいい話を挿入してみました←
若いって楽しいですね←