トンネルの、怪
私の父は霊感が強い……というか、霊に弱い。
病は気から、という状態なのかもしれないが、”いわくつき”の場所へ行くと体調を崩す。
霊が出るという有名なスポットが全国にあるが、そういったところへ行くと寝込んでしまうのだ。
ならば行くな、と思われるだろうが、父は行きたくなくとも友人一同がそういった場所が好きで、連行されていた。
変なものを連れてくるからやめてよ、と母が止めても付き合いで行くしかなかった。
よくテレビでも紹介される、怪奇現象が起こるトンネルに出向いた時の事。
数台の車で行き、トンネルに入ったらしい。
特に何も起こらず、反対側のトンネルから無事に出たらしい。
何も起こらなかったね、と笑い合っていた車内で異変に気づき悲鳴を上げた一台目。
何台の車で行ったのか知らないが、一台目の車の前輪が左右ともパンクしたのだ。
突然。パン、と音がしたらしく、皆青褪めたとか。
停車した一台目に気が付き、後方の車も停車して皆は降りると、一台目に駆け寄った。
パンクしているのだが、何故パンクしたのか原因が不明だった。
そうこうしているうちに、最後尾の車にも異変が起きた。
……車体に、無数の手形がついていたのだ。
べたべたべた、と。大人の掌くらいだと、聞いている。
全員は流石に危険だと判断し、すぐさま帰宅したという。
パンクしたまま走り、離れた場所で、後輪と前輪を入れ替えかろうじて帰宅。
とりあえず、皆は無事だった。特に以後、誰かの身に異変が起きたとは聞いていない。
因みに、A県かG県のトンネルで、テレビでも紹介されたことがある場所だ。
そんなところに行くな、と言いたい。
さて、その日だったか記憶がないが、ある日の事。
父が帰宅した。例のごとく心霊スポット帰りなので、当然深夜だった。
我が家の玄関は引き戸なのだが、当時は鍵が内側からしか施錠出来なかった。
その為、深夜に帰宅した場合家人を叩き起こすか、別場所から入るしかない。
玄関の左隣、少し奥に入るのだがドアがある。
そこは客室になっているが、そのドアから鍵を開けて入ることが出来た。
父が鍵を開けて家に入った時だ。ドアを閉めて施錠しようとしたその瞬間。
こんこんこん。
外側から、ドアがノックされた。
父は、思わずドアを開けてしまった。……普通は開けないと思うのだが。
別に何も、いなかったらしい。いても困るが。
気のせいかと思い、ドアを閉め施錠をし、入浴し眠りに就き、翌朝その出来事を家族に話す。
父よ、何故ドアを開けたのだ。
私と母は朝から喚いた。霊がついてきて、いたずらしたとしか思えなかった。
特にその後家で何か起きたわけではないが、その話を聞かされた私は、気が気ではなかった。
一体、何が家に入り込んだのだろう。
もしくは、入らずに笑いながら何処かへ帰って行ったのだろうか。
真相は分からない。
ここまで書いて、実は次に話す事が……一番書きたかったことなのだが。
秋に現場に行ってきたのだ、心霊スポット、というわけではないので。
ただ、子供の頃と違い、その場所に行き『それが何か』を知った私は気軽に書いてはいけない気がして、書かなかった。
が、どうして書き始めるのかというと、私と母が間違えており、実際出向いた場所で事件が起きたわけではなかった。
私と母が間違えていたのはG県にある、公園の一角。
実際はA県にある公園の一角。
おそらく、地名を言えば東海地区の方なら「あぁ」と納得するであろうし、そういった類に興味がある方も「あぁ」と言うだろう。
A県で最も有名な場所ではないだろうか。
それは次回に持ち越すとして。私が秋に出向いた場所。
桜の名所で子供の頃は親戚中で花見をした。公園もあれば近隣に寺もあり、ハイキングコースにもなっている。修道院もある。
その、公園に純白の像が建っている。巨大なものだ、観音像だろうか。
公園は山の上にあるので、そこから近郊を護る様に建てられている。
子供の頃はそれが何か解らなかった、修道院が近くにあるので関連があるのだと思っていた。
そんなわけ、なかった。
その像の真下に、蔵がある。蔵は高い塀で囲まれており、蔵には触れることすら許されない。
その場所。
戦争で亡くなられた方々の遺骨等が安置されている、集団墓地のような場所だった。
その方々を、観音像が護っておられるのだろう。市を、一望できる場所で。
少し薄暗いその場所は、妙に静かで神秘的だ。
子供たちが居なければ、ひっそりとただ、佇む。
戦争は、愚かなものであって二度と、起こしてはならない。
それでも世界の何処かで戦争が起きる、世界中の神々は嘆いていることだろう。
私と母は、父から聞いた話をこの蔵と間違えた。長年ここだと思い込んでいた。
……父の知人がこじ開けたのは、この蔵ではなく。
とある公園に設置されているらしい、祠。
寒気がするので、今日はここまでに。