壁にて、待つ。
私ではなく、相方殿の話である。
「話したことあったよね?」
「初耳ですけども( ゜Д゜)」
という会話が繰り広げられた、またしてもSW。
盆過ぎだというのに。
以前働いていた会社が、恐ろしいまでのブラック企業で、給料うんぬん以前に休みがなかった相方殿。
平日は会社寝泊りのほぼ徹夜作業。
上司が聞く耳持たずで、誰も助けてくれない為、仲間達と文字通り死ぬ気で働いていたという。
そんなある日、某牛丼屋へ出向いた。
朝から何も食べずに作業していたが、気がつけば真夜中。
せめて何か腹に入れねばと、会社近くのその店へふらつきながら辿り着く。
深夜の為、客は誰もおらず。
壁際のカウンターに座った相方殿は普通に牛丼を注文し、届くまで瞳を閉じ多少の休息に入ろうとした。
どうしてこんな目に合わなくてはならないのか、あの無能上司は仕事もせずに帰るくせに、何故俺達だけが……。
募る不満で発狂しそうになる。
と、急に腕を引っ張られた。
壁に押し付けられるほど、”引っ張られた”。
グイグイと物凄い力で、”引き込まれた”。
「痛い!」
てっきり、後から来た同僚の悪戯だと思っていた。
しかし、そんなわけはない。
引っ張られていた腕は、壁側。
間違いなく、腕は掴まれて、引っ張られた。
この、壁から。
壁を見て、悪寒が走る。
夢かと思っていたらしいが、激しい痛みで我に返ったらしい。
睡魔も吹き飛んだ。
壁の中に連れ去ろうとするように、埋められてしまうように、そこに何かがいた。
……その、牛丼屋。
以前、殺人事件が起きた場所だった。
その、内容が。
上司と後輩が仕事の内容で口論になり、エスカレートして暴行となり、後輩が、上司を誤って殺害してしまったというもの。
現行犯逮捕れた後輩は、徹夜続きで日頃から上司に対して不満があり、我慢の限界だったという……何処かで聞いたような話だ。
その壁へと引き込もうととした霊は、深夜にやって来た上司に対して殺意が芽生える程の不満を持っていた若い社会人を、自分を殺した後輩だと思い込んだ被害者だったのだろうか。
自分が死んだと理解出来ず、まだその場に定着しているのだろうか。
もしかしたら、今もその霊は待っているのかもしれない。
同じような人が、壁際のカウンターに座るのを。
壁の中に、連れ込む為に。
お読みいただきありがとうございましたー(*´▽`*)
久し振りに、ちょこっと怖いかもしれない話になった気がします。
次の更新は何かあったら、また、その時に。