白衣の天使
続、病院の話。霊ではないけれど。
私は医療事務だったが、当然電話応対をするので救急連絡も応対せねばならない。
働き始めて一ヵ月後だったろうか、生まれて初めて消防署からの電話をとってしまった。しかも、自殺者を保護したという内容である。
先輩と2人で救急車を出迎える、寧ろ私がパニック状態である。救急車からはある程度の状態が伝わるのだが、意識レベルが最低だった。一通り習っていたとはいえ、震える私はサイレンの音が恐怖だった。しかし、仕事なので仕方が無い。
排気ガス自殺を試みているところで、発見者が通報したらしく運ばれてきた方は意識がなかった。
こちらへ戻すように促され、私は必死でその人に話しかけたのだが。
「あ、あのー、大丈夫ですかー、しっかりしてくださいー。聴こえますかー、もしもしー」
……今にして思えば間抜けな言葉だが、私は必死だった。大丈夫だったら救急車で運ばれてくることはないだろう、何を言っているのか。と、そこへ一喝。
「そんなんで戻るわけがないでしょ!?
勝手に死ぬのは簡単だろうけどねぇ、周囲が多大な迷惑を蒙るんですよ! あんた男ならしっかりしなさいよね!」
バシーン!
……ベテラン看護士さんが、叩きながら怒鳴りながら、こちら側へ戻そうとしていた。
唖然とした。間違いではないが、”白衣の天使”という名のナースとは思えなかった。ドラマや小説とは違う、それまでのイメージを覆した状況に私は何も出来なかった。
「死んで逃げるなんて、最も卑怯な方法だよ! この治療費も誰が払うと思っているの!? 親でしょうが! 情けないと思わないの!?」
……間違ってはいないが、怒鳴りながら続く説教にこの運ばれてきた人が心配になってきた。
だが、命のやり取りをしている方々だからこそ、自殺は最も許しがたい行為なので怒りが沸いて当然なのだろう。救いたくても救えない病状の患者さん、事故の方々……。
自ら命を絶とうとする人は、許せない。
私は改めて看護しや医師は生半可な決意ではなれない職業だと、実感した。
この患者さんは、数日入院を要したが無事に退院した。しかし、退院して翌日。
首を吊って自殺してしまい、今度こそ亡くなられてしまったのだ。
「助かった命なのにね」
今でも、看護師さんが呟いたその一言が忘れられない。辛い一言だった。
生きることは難しい、けれど、産まれたからには幸せになる為に必死であがいて進むしかない。