ご先祖様か、神様か、はてさて
それは、私が小学生の時だった。
低学年だったと思う、そして誰かの誕生日だったと思う。
祖母が女手1つで稼ぎ、建てた木造の家に住んでいた。比較的大きな家だ。というか、まだ実家はそのままなのでこの家は存在する。廊下が広く、私は自転車の練習をこの廊下でしていた。
夏だった。
……ということは、該当する誕生日を迎えた人物とは私だ。私しか夏に産まれていない。
私の誕生日だ。
祖母、父、母、私、弟が二人と、この日は祖父も来ていた。祖父は、違う家に住んでいるが稀に帰ってくる。
一階の一番奥の部屋が、皆が集まる部屋で大きなテレビがあるのだが、そこに私たち姉弟は居た。
多分、父も居た。
母が「ご飯よ」と叫んだので、テレビを消してお腹が空いていた一同は、食事に向かう。
奥のテレビの部屋を出て進むと、左側にお仏壇のある部屋で、更に進むと階段がある。二階は子供部屋と父母の部屋だ。それを越えると、キッチンになるのだが。
トントントン……。
私は、音を聞いた。
弟達は既に椅子に座り、その場に家族は全員居た。
奥の部屋から一番最後に歩いてきた私が、音を聴いた。
音だった。
階段を上る音だった。
私は、恐る恐る階段を見上げた。
急斜面の階段の先、別に何もいないのだが沖縄の土産という意味不明な仮面が階段を上がった場所に飾ってある。記憶が正しければ魔よけの筈だ。
「ねぇ、今誰が上に行ったの?」
私は、皆にそう訊いた。
が、皆はここにいるのだ。私だけが椅子に座っていなかった。
父が不審がって、階段を上っていった。
ミシミシ、と音を立てて上っていく。
私は、その下で息を殺して待っていた。
「何も居ないよ」
父が戻ってきた。いるわけがない、全員ここに居る。
けれども、確かに音はしたのだ。
誰かが階段を上る音が。
実は、その音を。
……祖母も父も、聞いていた。
祖母は言う、「誕生日で楽しそうだったから、お祝いにご先祖様が来てくれたんだよ」。
そして階段とキッチンの隣り合わせの部分には、祖母が毎日拝んでいる神棚があった。
ご先祖様か、神様か。
私が一番最初に経験した不思議な体験は、間違いなくこれだろう。
ただ、怖くはなかったのだ。不思議なことに。