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六 「腐」歴女お断り!

          


「残念だが、入部は認めない」


 次の日の放課後。男子部員達の懇願するような眼差しにも屈する事無く、部長の一言が静まり返った部室に響き渡る。


「また、この前みたいな騒動を起こしたいのか?」


 キッと鋭く輝くその瞳は、俺に――そして居並ぶ部員達に、あの日の事を思い起こさせた。


「でも部長、戦国武将ラブな歴女に偏見を持ちすぎですよ。そりゃあ先日の騒動の発端は、その手の女子部員が原因でしたけど……竹仲さんはそんな事引き起こしたりする女の子じゃないですよ。万が一仮にあの時みたいな問題を起こしたとしても、それはその時に解決すればいいじゃないですか」


 今にも泣きそうな竹仲さんを擁護するため、俺は必死になった。そして周囲を見渡し、男子部員達に賛同を求める眼差しを送った。


「そうッスよ部長! 珍しくケーイチの言う事は最もですよ。な、シンゴ!」


 リョータが賛同の意を表す。さらに同意を求められた慎吾も大きく頷き、賛成票を投じてくれた。うん、俺に賛同とかじゃなく、無条件に竹仲さんを応援しているだけなんだろうけどね。


「なあ部長。珍しくケーイチの言う通りやと思うで。この竹仲って子はそんな事するような子に見えんけどな? 入部させてもええんちゃう?」


 金盛先輩の言葉に、部長が手に持った竹仲さんの入部希望所をひらひらとさせながら言った。


「お金持ちのお嬢で、一部生徒に人気があって、おまけにとんでもない『腐』の付く歴女ときた。アイツと全く同じじゃないか」


 あの日の事を思い出してか、感情も露に部長が言った。


「そもそもだな、現代調に描き変えられた戦国武将を、かっこいいと言うだけで妄信しているような奴等だぞ? 戦いの、合戦の何たるかを判って入部しに来たとは到底思えんな。それは奴等で十二分に判っただろう?」


 前もって一言、竹仲さんに言っておくべきだったかな。歴史上の人物に特殊な感情を持ってることを悟られないでねと。そりゃ入部希望書に便箋三枚にも及ぶ戦国武将への熱い想いを書けば、誰だって彼等のかっこよさにお熱なだけの歴女だと思う……いや、それ以前にやばい子だと思われちゃうよな。


「なぁに、大丈夫っしょ! 綾奈ちゃんだっけ? 全然ノープロだって。珍しく橋場がまともな事を言ってんだし、そいつに答えてやるためにも、俺も君の入部に大賛成だぜ。真江田、お前もそうだろ?」

「ん、うんまあそうだな。多岐川の言う通り、珍しくケーイチが真剣にまともな事を言ってるんだしな。その真摯さを買って入部を認めるってのはどうだろう?」


 先輩方が心にも無い事をいけしゃあしゃあと言う。俺のため? 正直に言え! 竹仲さんのためでしょ!


 そんな皆の言葉に押し切られそうになった部長が、矛先を俺に向けてきた。


「おい橋場! 貴様が珍しく正論吐くから皆がおかしくなったじゃないか!」


 ちくしょう、皆俺を何だと思ってやがる。


「とにかく、先の一件は梓ちゃんにも責任の一端はあるんだし、そうきつくは言えないんじゃね?」

「ぐっ……そ、それは」


 多岐川先輩の言葉に、部長が一瞬たじろぐ。そんな激しい攻防の中、当の竹仲さんが恐る恐る部長に問いかけた。


「あ、あの……前みたいな騒動って一体?」

「あぁ、そうだな。何にせよ言っておかなければならないな。簡単に言うと、我が部に以前居た武将大好きミーハー女が、私と部長の座を争ってな、ひと悶着起きたんだ」


 部長が神妙な顔つきになり、問題の『あの人』の事を語り出した。


「結局は当時居た三年生の部長の一声で私に決まったのだが……それが不服で、仲間である数人の腐歴女部員と共に、部を辞めてしまったのだ。まあ合戦もろくに出来ない足手まといな奴らだったから、抜けてもらってかえって良かったがな」


 あの時の騒動は俺もよく覚えている。たしか織田部長体制下になったその日の出来事だった。女のヒステリーはおっかねぇなって、真江田先輩とマジ引きしたっけ。


「別に部長は奴でも良かったんだ。卑怯……あ、いや、思慮遠謀に長けているし、肝が小さ……自らを生き残らせる術に秀でていたからな。部長として、総大将としてはアリといえばアリだったんだ」


 でもそれってすごい小者臭放ってる人物って事じゃないですか。物は言い様っスね。


「だがな、奴が部長就任するに当たっての今後の活動方針がな、私は許せなかったんだ」

「それは一体どんな……?」


 竹仲さんの問いに、嫌な事を思い出したと言わんばかりのしかめっ面で答える部長。


「そう、大絵巻シリーズを部のメインソフトにして、今後はNPCのPV動画製作やら、部員達を絡めたオリジナルシナリオでの同人映画作成らやに力を入れるとほざきやがった。しかも合戦は二の次だなどとぬかしたんだ。こんな横暴許せるか?」

「は、はぁ……なんだか何処かで聞いたような性格の人……あ、いえ何でもありません」

「そんな傍若無人な行為は許せんからな。で、奴の暴走を止めるべく、私も立候補したんだ。で、部長が私に決まった事に恨みを持たれてしまってな」


 やれやれと言う表情の部長。だけどあの人絡みの問題は、まだまだこの先にもありそうなんだよなぁ。


「途端、今度は九月に行われた三年生生徒会長引退後の生徒会長戦に立候補だ。急な立候補にもかかわらず、金とコネを使い、奴はまんまと生徒会会長の座を手中に収めたのだが……執念深い奴の事だ。きっとこのまま無事には終わらんだろう。そろそろ何らかの行動を起こしてくるんじゃないかと危惧している訳だ」


 そう言い終えて、部長がニヤリと小さく笑った。それは、来るならいつでも来いと言わんばかりの面構えだ。


「話は横道にそれてしまったが、まあとにかくそう言う事だ。以来、腐歴女の入部希望者はお断りしようと、皆で話し合って決めたのだが……いきなり例外を認めるとなるとなぁ……どうしたものか」


 なんだかバツが悪そうに、改めてあの時の出来事を口にする部長。

 きっと皆に言いくるめられそうになって、気持ちが揺らいでいるのかもしれない。よし、それならもうあと一押しだ!


「部長、それに彼女は俺も舌を巻くほどのIXA上手です。入部させないなんてもったいないじゃないですか!」

「橋場と昨日一戦交えて勝ったらしいが……そんなもの、まぐれの可能性だってある。大体お前如きじゃ話にならん」


 確かに俺如きじゃお話になりませんね。


「そうだ、竹仲さん。今日は條庄学園《向こう》でのスコア持ってきてるかな? あるんなら部長に見せてみなよ」

「あ、はい。持ってきてます……ですが……」


 少したじろいで、スコアを出し渋る素振りを見せる。


「なんでもいい。構わんからみせてみろ」


 部長の言葉に観念して、彼女は鞄から十数枚に上ると思われるスコアを取り出した。


「……ですが全て負け戦ばかりですので、話にならないかと」


 部長に手渡しながら、そう力なく付け加えた竹仲さんの言葉には、もう駄目と言う絶望感がにじみ出ていた。

 なるほど、そう言う理由で見せたくなかったのか。

 でもなんで彼女、負け戦続きなんだ? 実力はあるはずなのに。チームが弱すぎたのかな?


「ふぅん、本当に負け戦ばかりだな……」


 だがそんな彼女のスコア数枚に目を通したところで、部長は次第に食い入るように目を走らせるようになり、時折息を呑んで唸ると言う仕草を見せた。これはどうも様子がおかしいみたいだ。


「部長、どうしたんスか?」

「うるさい、黙ってろ」


 スコアに目を落としたまま、部長は俺を一喝する。

 暫くして全てのスコアに目を通し終えた部長が、真江田先輩を伴って部室を出て行った。一体どうしたんだろう?


「なんだろね、梓のやつ」


 枝畑先輩がちょっと呆れ顔で零した。

 竹を割ったような性格の彼女からすれば、この我々の会話はどうでもいい事らしい。


「あたしはさー、来るものは拒まずだから綾奈ちゃんの入部は大歓迎だよ。みんなはどう?」


 枝畑先輩は竹仲さんに笑顔でそう言って、改めて俺たちを見渡した。


「恐らくは部長を除き満場一致で、竹仲さんの入部は賛成だと思うんだけどな」


 俺の言葉に、部員一同が大きく頷く。


「皆さん、本当にありがとうございます」 


 それに答え、竹仲さんは目を潤ませながら大きくお辞儀をした。本当に所作の全てがかわいいよな。





 ほどなくして、部長と副部長が戻ってきた。二人とも神妙な面持ちだった。


「竹仲、特例として入部を認める」


 部長の一言で、部員達、そして竹仲さんに笑顔が咲いた。


「ただーし! 竹仲、橋場を配下として従え、常に行動を共にする事! それが条件だ」

「ん? 部長それってどういう事っスか?」


 俺の間の抜けたような質問に、部長が些か呆れ口調で言う。


「これから暫く、IXAをする際は竹仲の命令で動くという事だ! 分からんか?」


 部長の言葉に疑問符を浮かべている俺に気づいて、竹仲さんが笑顔で俺に言葉をくれた。


「橋場さん、これから一緒の部隊で共にがんばりましょうね!」


 そうか判った! これからはどんな事があっても、彼女と二個一で行動しろってことか! きっと彼女がいない俺を哀れんでの配慮だ! 部長も中々粋な計らいをしてくれるよ。


「いいなーケーイチ! 俺も竹仲の配下になりてー!」

「へへん、わりーなリョータ。俺のように人望が無けりゃ無理だ。あきらめろ」

「アホか、ソイツはお前が御家来衆ってことを意味するんだぜ?」


 真江田先輩の一言で、ようやく俺の立場が飲み込めた。御家来衆――つまり補欠のようなものだ。竹仲さんと言う殿様の命が無ければ、一切の行動が取れないわけだ。それはちょっとキビシーっスよ!


「まぁ橋場はともかく、何にせよ良かったな綾奈ちゃん! これからよろしくしまくってくれよ!」

「よろしくねー!」

「これで一件落着やな! とにかくよろしく頼むわ」


 皆の暖かい声に、竹仲さんが薄っすらと目に涙を浮かべながら、何度もお辞儀と感謝の言葉をを述べた。


「みなさん。不束者ですが、よろしくお願いします」

「竹仲、些かきつい事を言ったが許してくれ。そしてこれからアホの橋場の面倒、きっちり見てほしい。この意味が判るな?」

「……はいっ!」


 部長の言葉に、小気味よい返事を返す彼女。

 仕方ないよな。今まで皆の足を引っ張り続けて来ているから、こいつは俺自信、いい訳も拒否も出来ないと思うよ。部長の言う通りだ。この際だからしっかり面倒見てもらおうかな。アホは余計だけど。


「まあなんにしてもよかったですねぇ。竹仲さん、これからよろしくお願いしますぅ」


 ほがらかちゃんが、おっとりニコニコと笑顔を振り撒きながら竹仲さんに歩み寄る。彼女もまた同学年の女子部員が出来て嬉しいんだろうな。


「それはそうと部長ぉ。昨日の生徒会会合でぇ、生徒会長からぁ、我がIXA部の廃部が提案されましたぁ」




「「な、なんだってぇー!!」」

次回予告

過去にIXA部を二分した張本人、朱池薫。彼女のIXA部へ、織田梓への復習が今始まった!

次回 「キンカン頭の野望」



最後まで読んでいただき、まことにありがとうございました。

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