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一 VRBSLG IXA

 

 平成二十五年十一月一日、午前十一時二十分。


 十数合の斬り合いの最中、いいのを三太刀ほど入れたまでは良かった。

 その直後、俺の体はずんばらりんと一刀両断されてしまい、無念の討ち死にと相成ってしまった。


 瞬間、今までの喧騒は一瞬で消え、意識が真っ暗な空間へと強制連行される。そこは、ついさっきまでの戦いがまるで嘘のような――まあ嘘ではあるけれど、それとは全く正反対な静寂の世界だ。

 

 ゴンドー社製 IXAシステム(Interactive Ⅹ-battle Artificial System)。

 所謂バーチャルリアリティ・バトル・シミュレーティッド・マシーン。

 

 今までの戦いは、全てこいつが見せてくれた疑似体験なのだ。

 それは今から二十五年前に起こった超科学革命の賜物の一つであり、平成二年に政府の肝煎りでセンセーショナルなデビューを果たした疑似体験マシンである。


 仮想現実世界で主に戦争・戦闘を体験できるというシロモノで、ソフトさえ替えれば様々な条件の戦いが楽しめ、遠く離れた人達とも通信クロス対戦できるXバトルが売りの疑似体験マシンだ。

 曲線も美しい縦二メートル、横一メートル半、奥行き三メートル程の強化プラスチックボディーの中で、直接脳やら神経やらに情報を送り、感触や疲労感までも、さも実感しているかのようにトレースされると言う、ものすごーいマシンなのだ。


 その面白さから瞬く間に世界へと普及し、今では老若男女あらゆる世代で、スポーツ感覚の娯楽として広く楽しまれている。

 勿論痛みなどの危険な刺激の類は、あるか無いか程度まで軽減された感覚でフィードバックされる訳だが……その代わりに、各人それぞれライフゲージというモノがあり、そいつが無くなればゲームオーバー――つまり無念の戦死だな。そう、今の俺がそうだったりする訳だ。


 脳や神経に直接情報を送るなんて、ちょっとおっかないようにも思えるけれど、実は画期的かつ安全性にとんだシステムなんだとか、中学時代に真江田先輩から聞いたことがある。

 ギリギリでこの高校に入学できた俺に、難しい事を説明せよと言うのが土台無理な話だが、政府の公式見解によると『とにかくこのマシンはめっちゃ安全ですよー』と、まあだいたいそんな感じらしい。現にこの二十年間、一切の事故は無いみたいだしね。


 とまぁ、そんなこんなで早々にイチ乙してしまった俺は、早速この狭苦しカンオケから出ることにしようと、正面に一箇所だけ小さく赤色に光るボタンを押し、IXA筐体のハッチを開放した。


「はぁ……乙彼、俺」


 ハッチ開放の機械音が響くと共に、外界の眩い光が一斉に襲ってくる。まるで死後の世界だなこりゃ……ハイテク棺桶とはよく言ったもんだ。


『橋場慶一朗殿討ち死に!』


「わっ! びっくりした」


 突然、正面にIXA内部の擬似空間と外界との通信を行う空間投影式のディスプレイが開き、『あの人』の使い番である妖精の姿をしたアバターの〈キューティー・ポー〉が、リンク先のIXAメインシステムから送られてきた報告を、主に述べている姿が映った。


『部隊は四散の模様、復帰のメドは皆無です』


 その画面内で怒りの形相に震える、長い黒髪の女武者。それこそ、我等がお屋形様である鬼夜叉姫……もとい、二年生の織田梓おりたあずさ部長だ。



『 は ぁ あ あ し ぃ い い ぶ ぁ あ あ !! 』



「ヒィィィ! ぶ、部長!」

『なーにやっとんじゃ、この馬鹿ぶぁかたれがぁ!』


 切れ長の目がギロリと俺を睨む。この一睨みで、何人の人間が石に変えられたことか。


「……ごめんなさい」


 俺もまた石のように動けなくなり、ただ謝る他はない状態だ。冗談抜きでおっかねぇ。


『全く、あんな子供だましの誘いに引っかかって、部隊をみすみす壊滅させるとは……相変わらずのバカ猪ぶりだな。合戦後のミーティングでこってり絞ってやるから、覚悟しとけよー!』


 あぁ、鬼夜叉姫のお怒りだ。流石に無理もないだろうな。入部以来、幾度と無く注意・指摘されては繰り返してきた、猪突猛進と言う俺の悪い癖。頭に血が昇ったりパニくった時に見せる猪武者っぷりは、今日も如何なく発揮されたと言う訳だ。


 俺、やっぱ向いてないのかな? この〈IXA部〉に。





 数分後。状況終了の合図と共に、一斉にカンオケの蓋が開いた。それは重々しい空気漂う、まるで死者達の復活祭りと言った感じだ。敗残の徒である俺達は、さながら落ち武者と言ったところだろう。



「お前らグズグズするなっ! さっさとカンオケから出て整列せんか!」



 部長の怒号が飛んだ途端、皆に生気が宿ったかのように、機敏な動きとなる。

 IXA使用時の専用のユニフォームであるボディーキャプチャースーツをまとった部員達が、きびきびした動きで横一列に整列した。

 こんな負け試合直後に不謹慎極まりない考えではあるけれど……何度見ても女子のキャプチャースーツ姿は男心をくすぐるよなぁ。 コイツを着る事により、ボディーラインをキャプチャし、ゲーム内で身体に合った甲冑をまとう事ができるんだとか。で、そのためにデザインは仕様上仕方なくボディーラインを強調する造りであるのだが……これがなかなかセクシーなんだよな。 実は女子のスーツ姿目当てで入部する、下衆な考えの野郎達も結構いるわけで。



 いやいやいやいや! 勿論俺はそんな考えなど、一ミリたりと持ち合わせてはいないさ。絶対にない。誓って。



 カラーリングは様々で、ウチの高校は男子が黒を、女子は朱を基調としたスーツなのだが、見た目に結構勇ましく、他校からの評判も良い。

 ただ胸に美都桜高校、背中に自分の名前が白地で染め抜かれているのは、ちと間抜けな気もしないでもないれけど。


「くぉら橋場ぁ! 何グズグズしている、エロい目で女子部員のケツばかり見てないでさっさと並ばんかッ!」

「ひ、ひぃ! すいません! ……つか、見てませんよぉ」


 と、女子部員のコスチューム(特に部長の豊満な胸元辺り)に見とれていた俺を、部長のビンタのような怒声が襲う。うう、そんなにエロい目線で見てた訳じゃないのに! ただサイズはいくらかな? とか、肩はこらないのかな? とか部長のお体の具合に思いを馳せていただけですよ!

次回予告

負け戦での反省会。毎度の如くその戦犯は暴走王・橋場慶一郎。そんな彼へと、懲罰の沙汰が響く。

次回 「反省会の主役」



最後まで読んでいただき、まことにありがとうございました!

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