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十八 歴女軍師の真価

          


「部長と先輩……ケリが付きましたね」 


 見ると部長の部隊が朱池会長の部隊へと、ゴリ押し的に食い込んでいる様子が伺えた。このまま突き進めば、朱池会長の部隊は瓦解、もしくは討ち取られるかもしれない。


「このまま先輩の部隊が瓦解すれば、戦力差はイーブン、もしくはこちらが若干上。潮時ですね」



 だが、そう言い終るか終わらないかの最中、突然考えもしない事が起こった。



 部長の部隊が、朱池会長の部隊を今まさに寸断しようとした、そんな時だ。部長と朱池会長の部隊の兵達が、次々と消滅していったんだ。


 次いで、土砂降りの夕立ちがトタン屋根を叩きつけるような轟音が響き渡る。ふとその方向へ目をやると、斜め後方に位置する敵方総大将の陣営から、大量の火薬煙が立ち込めているのが伺えた。そう、通常より若干攻撃力が上がった、ニセゴルゴの鉄砲隊からの一斉射撃だ! しかもあろうことか、彼らにとって友軍であるはずの朱池隊までも巻き込んでの発砲だ。


「こ、これは酷いよ……」

「何を……何をしてるんですか! 最東先輩!」


 俺は息を呑み、言葉を失った。そして竹仲さんが叫んだ、その直後だった。信じられない光景が二人の目に飛び込んできたんだ。


 戦場の中央、敵味方の一部隊ずつが突然消滅し、その一角だけが、草原の緑の空間を晒している状態になった。


 数秒後、俺と竹仲さん二人の使い番が同時に現れ、あの人の言葉を伝える。



『織田梓殿討ち死に! 部隊は四散、回復のめどは皆無です』



 こんな戦いって無いよな? 味方を巻き込んでまでの発砲なんて、聞いた事が無いぞ。


「マサカド! 最東に至急連絡!」


 暫くして、あの反吐が出るような声が、マサカドさんを通して聞こえた。


『なんだ竹仲ぁ、俺のアドレスまだ残してたのかよ?』

「どういう事ですか! 何故味方まで巻き込んで!」

『あー? 朱池の部隊、もう駄目だっただろ? どっちみち消えてたんだからさ、上手く利用しただけだよ。お陰で一番面倒な織田隊を仕留めれたんだ。あいつだって喜んで死んでくれるだろ? これも俺の作戦だ、お前らは罠にはまったんだよ! ぎゃははは!』


 最悪だ。最悪の人間だ。俺は怒る事すら忘れて、ただ呆れ返った。


 ふと見ると、竹仲さんの顔から表情が消えていた。そして静かに、淡々と、最悪の元凶に言葉を送る。


「最東隆夫。残念ですけど、罠にはまったのはあなたの方です。後悔させてあげましょう……」

『なんだと? おい竹――プツッ――』


 そう言って、竹仲さんはニセゴルゴとの通信を切り、新たな通信を開くよう、マサカドさんに命じた。


「マサカド、グループ通信。『美都桜高校IXA部部員』」


 と同時に、俺の前に現れたマサカドさん。きっと現在戦闘中の、部員全ての前にも現れているに違いない。


「いいですか皆さん。私の合図と共に、一旦後退してください。例外は認めません、全軍後退です」


 毅然とした口調と、迫力に満ちた声。何かが覚醒したかのような指揮官の発言に、先輩が問う。


「後退ってお前、敵の追撃があるんじゃないか? そうなるとちと苦しいぞ」

「大丈夫です。現在、兵数的な優勢は敵方ですが、追撃はしてきません。と言うよりも、その選択肢は考えないでしょう。何故なら、さっき送った私の一言で、後退は罠であるという疑心の種を抱かせたからです」


 彼等の行動を知りぬいた上での読みとはったり。竹仲さんは一枚も二枚も上手だな。


「ですが、敵方二部隊のみ、後を追ってきてもらいます。枝畑先輩と多岐川先輩は、正面の敵を挑発してください。簡単に誘いに乗ってくる方法を教えます」

『おっけー! 何すればいいのー?』


 枝畑先輩の問いに、落ち着き払った声で、ゆっくりと口を開く竹仲さん。


「枝畑先輩の正面の部隊大将である二年生の因幡さんは、女子ですが男性に興味がありません。スポーツ万能な女性に興味を持っています。枝畑先輩はまさにストライクゾーンなのです。誘えば必ずフラフラと付いてきます」


『ヱ……う、うん。わかった』


「次に多岐川先輩の前面の部隊大将である佐東さんは、中学一年生の時、授業中におしっこを漏らしたという過去を持ちます。そこを突付けば必ず出てくるでしょう」


『お……鬼だな』


「なんと言われようと構いません。この戦、勝たせていただきます。それでは皆さん、後退して下さい!」



 修羅と化した指揮官の号令とともに、一斉に我々寄せ手の軍勢が槍を収め、後退に就いた。


「橋場さん。さぞ酷い挑発だと、性格の悪い卑怯な作戦だと思っているでしょうね。無論、私もこんな手は使いたくはありません。ですが、私も後で後悔したくないんです。何故あの時、どんな手を使ってでも皆さんを勝利へと導かなかったのか! と」


 前を見据えたまま、我等の総大将が語る。


「俺はただ素直に、竹仲さんの智謀の深さに感服しているだけさ。流石は総大将殿でござる! ってね」


 俺の言葉に、彼女は小さく微笑み、ありがとうの会釈をしてくれた。


         



 暫くしても、我が軍の後退に敵方は追撃の手をかけなかった。余程竹仲さんのはったりが利いたのか。まあ、このまま守りを固めていれば、向こうの勝ちは揺ぎ無いだろうからね。


 だがそんなもの、勝負が終わるまではわからないもんなんだぞ? 


 と、早速マサカドさん伝いに、枝畑先輩の挑発の声が聞こえてきた。どうやら始まったようだな。


『あ……あのさー因幡さん? あなた結構可愛いわねー! もし私に勝てたら妹にしてあげるけどどうかしら? 可愛がってあげるわよー』


 なんだか違う意味での挑発が始まった。俺なら弟になってもいいとは思うけど、相手は女子だし、しかも敵だし。そう易々と引っかかる事なんて――


「因幡さん、引っかかりました。上手くいきましたね」

「うそ!」


 どういう事なんだ! しっかりしろ因幡さんとか言う人! いや、そういう趣味という人らしいが、本当にそれでいいのか?


「では多岐川先輩もお願いします」

『お、おう! えーっと、佐東! お前昔、授業中にうんこ洩らしたそうだな! やーい、やーい、うんこまみれのスカトロ王子! えんがちょーだ! 悔しかったら……うわ、マジで出て来やがった! おいおいマジかよ! あいつ泣きながらこっち突っ込んで来んぜ!』


 多岐川先輩の挑発に、ものすごい勢いで引っかかる佐東隊。先輩! 洩らしたのはうんこではなくおしっこですよ!


「では皆さん、突出して来た二部隊の包囲殲滅、よろしくお願いします」


 竹仲さんはそう言ってマサカドさんと皆の通信を切った。


「では橋場さん、参りましょう」

「う、うん。でもどこへ?」


 そう疑問を投げかけた俺に、彼女は静かに微笑んで言う。


「このままだと我々の方が兵数で逆転します。きっとそれを阻止するために、相手は打って出てくるでしょう」

「ああ、分かった! 俺達も加勢するんだね?」

「いえ、商談をまとめにいくのです」

「え、商談?」


 意味がいまいち判らず聞き返す俺。


「はい、商談です。無論このままでも十分に勝てますが、より潤滑に勝つための商談です」


 更に頭の上のはてなマークを増やす俺。ごめんなさい。余計わかんなくなっちゃったよ。


「うふふ、とにかく行きましょう? そしたら分かりますよ」

「まあいいや、了解!」



 俺と竹仲さんの軍勢八千は、中央の合戦場を迂回し、いかにも敵の背後を付こうとする行動に出た。



 これに真っ先に食いついたのが、先の因幡隊の加勢に向かおうと動いていた敵方武将、安堂隊だった。

 進路を因幡隊の方向からこちらの進路上へと変更し、行く手をふさぐ陣形を取っていた。


「進軍停止! 様子を伺います」


 総大将の言葉に、部隊の進軍が止まる。双方距離を置いてのにらみ合いと言う状態となった。


 そんな状況を見て、敵方の宇治家・比音野隊も動き、まっすぐこちらに向かってきた。


「来ましたね。彼らは特に最東先輩とあまり仲の良くないチームメイト達です。きっと抜け駆け功名を狙っての無断出陣でしょう」


 待ってましたと目を輝かせる総大将さん。よしきた! 俺は奴らから君を守り抜けばいいんだね?


「いえ、彼らとは戦う事は無いかも知れません。まあ、上手くいけばの話ですが」


 意外な一言を零す。でも敵は目の前だし、今にも襲い掛かってくると言わんばかりだぜ? 俺達、バリアーとかマップ兵器とか持ってたっけ? 


 そうこうしているうちにも、後続の二部隊が安堂隊に合流しちゃったよ! 数の上ではほぼ互角だけど……一体どういうことだ、分かるか? モヒカン達。無論わかんねぇよな! 俺達馬鹿だからな。


「マサカド、直接回線。個人四者通信。安堂・宇治家・比音野」


 と、使い番で、今にも襲い掛かってきそうな敵方三人を呼び出した。それにしても直接回線なんて、IXAメインシステムを通さないで何をしようというんだろう? 


「お久しぶりです先輩方」

『何のようだ竹仲、命乞いか?』


 敵方の男子生徒の一人が、ぶっきらぼうな応対を見せる。


「いえ。ものは相談ですが、因幡隊と佐東隊とのケリが付くまで、このまま対峙して頂きたいのです」


 え、何言ってんの? そんな事相手が了承するわけないじゃないか! 竹仲さん、気をしっかり!


『なるほどな。そんな密約、スコアに残せないからそれで直接回線か』

『対戦相手への過剰な暴言、味方を巻き込んでの発砲、更にそこまでして敗北となると、まあ奴を引き摺り下ろす口実に事欠かないわな』

「そう言う事です安堂先輩。宇治家先輩、比音野先輩、いかがでしょうか?」

『うーん、お前の言いなりにはならんけど、そばに居る御家来衆が強そうで中々手が出せないし、それ以前に、俺達は防備を固めろとの命令意外聞いてないからなぁ』

『別にどうでもいいんじゃね? 俺、今日だけやる気無ぇし』

「ありがとうございます、先輩方。では」


 何を言っているのかさっぱり分からなかった。分かったのは、暫くこのままにらみ合いが続くと言う事だけだった。


「橋場さん、この事はくれぐれも内緒ですよ?」


 そう言って竹仲さんは人差し指を立て、唇にあてがい、お茶目にウインクした。


「了解! 閻魔様に舌を引っこ抜かれても喋りません! と言うか、意味が分かりませんでしたので喋りようがありません!」


 そんな俺のストレートな馬鹿っぷりに、笑顔で答える彼女。


「あの三人の先輩と最東先輩は仲があまり良くないのです。そして部長である最東先輩には人望がありません。今回も必要以上に酷い戦いぶりを見せ、しかも負けたとなれば、部長の座を降ろす良い口実材料になるでしょう。彼等三人は、以前から部長の座を狙っていた人達ですから、きっと商談に乗ってくれると考えたんですよ」


 なんかえげつない事をさらりと言う。向こうのチームの内部事情まで利用すると言う知略。竹仲さん……恐ろしい子だ。


いよいよ大詰めとなり、美都桜IXA部の勝利は目前かに思われた。しかし、一瞬の気の緩みを見せた竹仲に、ニセゴルゴの凶弾が迫る!

次回 「最終局面の銃声」



この章を最後まで読んでいただきまして、まことにありがとうございました!

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