十六 マサカドさん
明けて平成二十五年十一月七日、美都桜高校IXA部部室。
土曜だというのに、朝早くから部員一同が集まり、竹仲さんを中心として、簡単な作戦会議が行われた。
「敵方総数は、朱池先輩を含め規定通り十名。内訳は男子六名、女子四名の構成です。注意すべき生徒は、敵方総大将である部長と、客将である朱池先輩の他に、三人のIXA慣れした生徒がいます。二年生の因幡・安堂・宇治家の三名です。この人達以外の選手も中々の守り上手が揃っています。それは條庄の戦が、守り主体の戦であるからです」
敵方武将のレギュラーメンバー表に目を通し、それぞれの特徴を説明してくれている彼女。真剣そのものの眼差しが、今日の合戦への意気込みを感じさせるようだ。
でもその顔つきは、幾分強張った表情とも見て取れる。緊張のせいだろうか。それとも己に無理を強いているんじゃないのか。
いろいろと詮索してみても仕方が無いのは分かってる。要は彼女の指示通りに動いて、勝ちを収めればいいだけなんだ。そう、今日は余計な事は考えず、彼女の指示に徹しよう。
「という訳です。皆さん、各武将の特徴、頭に入れてくださいましたか?」
「「了解!」」
「しまった! いろいろと考え事してて、聞いてなかった!」
「まーったくお前は集中力ってもんが無いのかよ! 相変わらずのお子様ぶりだな」
リョータめ、ここぞとばかりに大人ぶりやがって! でもごめんなさい、返す言葉がないです。
「橋場さんは私のそばにいてくださいますから、その都度指示しますので構いませんよ」
そう言って助け舟を出してくれた竹仲さん。やはり彼女は俺の観音菩薩様だ。ありがたやありがたや。
「あ、そーだ竹仲! 先輩達と使い番のアド交換したか? まだなら見せてやれよー! うししし」
朝っぱらからやけにテンションが高いリョータ。間違いなくこいつは俺より子供なんだが……モノの分別は出来るって事か? 全く嫌な子供だ。
「そう言えばまだでしたね。では先輩方、宜しければ早速交換して頂けますでしょうか?」
「竹仲とアド交換か! 今日はツイとるな!」
金盛先輩がリョータと同じ喜び方をしている。そして多岐川先輩が小さくガッツポーズをした。皆、似たもの同士なんだな。
「こいつが俺の使い番、くいだおれのアレな。知ってるやろ?」
「俺のはこれ。名前はノブトラ。自作なんだぜ」
「私の使い番、キューティー・ポーだ」
三人の使い番が小気味よく登場し、愛嬌を振りまいている。
「じゃあ俺も。山猫のトーマス。よろしくな」
「あたしのはこれねー。知ってるでしょー? 通常の三倍の方よ、レアなんだから」
多岐川先輩の、狙撃銃を持った擬人化山猫が現れ、次いでアニメファンだと言う枝畑先輩の、赤い彗星なロボットが現れた。
なんでも通常の緑バージョンに付いてる応募券を送って、抽選に当たらなければ入手できないプレミアモノだとか。アニメとかあんまり興味無いから良く分かんないや。
「では私の使い番を紹介させて頂きます。マサカドです、よろしくお願いしますね」
そう言っていつも見慣れた、そして未だに見慣れない規格外の強面、マサカドさんが登場する。
皆引くか? ドン引きか?
「おお! すごいな竹仲! 電子武将シリーズじゃないか!」
「うわ、俺、始めてみたわ。これめっちゃ高いんやろ?」
「ああ、プレミア価格で一体十万はするな」
「しかもシークレットの平将門だぜ? 綾名ちゃん、こりゃもしかすると三十万位したんじゃないか?」
「さあ。値段の事まではちょっと……お爺様に頂いた物ですから」
え、ごめん。この人たちは何を言ってるの? この人たちはどこの世界の人なの? 俺には何の事だかぜんぜん分からないよ。
「知らんのかお前等? 名工匠である海野原泰山作の電子武将シリーズだ。使い番黎明期に数十体だけ作られた作品で、今じゃプレミア付きまくってるって代物だぞ」
「う~! あたしの赤い彗星が負けた~」
「へぇー、そんなにすごい作品だったのか。先輩の作った作品とは雲泥っすね」
「当たり前だアホ! そんなマイコン少年の趣味と名工の作品を比べるな。バチが当たるぞ」
「あ、真江田先輩すごくおちこんでますぅ」
部長の一言に、先輩がどんよりとした何かをまとって落ち込んでる。なんだか『ずーん……』って効果音が聞こえてきそうだ。
「お、俺はどんな名工の作品より、真江田先輩の作ってくれたコタローが一番だよ!」
「お前だけだよ、そう言ってくれるのは……」
「いや、橋場だけじゃないな。朱池なら十万位の値を付けてくれるかも知れんぞ?」
「ああ、金に困ったら買ってくれって交渉しに行ってみるよ」
「でも気をつけなよー、薫に身体まで値踏みされちゃうよ」
「よしてくれ、俺の純潔はケーイチに捧げると決めてるんだ。な、ケーくん」
「や、やめてくださいよ気色の悪い!」
合戦前の、いつもと同じ和気藹々とした空気が流れている。俺はこの雰囲気が結構好きなんだ。
そんな空気に、竹仲さんも目を細めて微笑んでるよ。少しは和んでくれたみたいだな。……和んでいるというよりは、どこかにトリップしているような気もしないでもないけど。
開戦と同時に、敵総大将から発せられる竹仲への執拗なまでの誹謗・中傷。ついに橋場の忍耐も限界となり、怒りに任せて出撃を試みる。それを必死に止める竹仲。と、そのとき、二人にとって思いもよらぬ出来事が起こった!
次回 「ニセゴルゴ」
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