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十五 先輩と後輩(いさ兄ちゃんとけーくん)

「うーん、まだ頭がくらくらするよ。全くあの人は加減って物を知らないんだなぁ」


 日もしっぽりと暮れ、一番星が他の星達を従えて輝き始めた下校途中。

 家が同じ住宅区域にある真江田先輩と共に、帰宅の徒についていた。


 先輩の家は俺の家から歩いて一分もしない距離だ。物心ついた頃から、家族ぐるみの付き合いなのである。


「ははは、あの必殺ブローは俺も前に一度見たっきりで、久々に見たよ」


 先輩の、他人事だから楽しいぜと言わんばかりの笑い声が、商店街の雑踏に紛れ消える。俺は奢ってもらったコロッケを一口かじって言った。


「へぇ、二度も伝説の目撃者になったんすか。モグモグ……まぁ俺は当事者だけど」

「小学校六年の時だったかな? 悪ガキグループの大将にブスだの鬼だの言われてさ。まあそこまでは耐えてたんだけど、ペチャパイだと言われた時だ、突然そう言った奴にデンプシーかましてさ。小六の時だったから皆ちっちゃくて当たり前なのにな。キレてそいつら半殺しにしちゃって、大問題になったんだよ」

「そ、そうなんだ……あの人って小学校の頃からいい拳骨持ってたんスね」

「で、それからというもの毎日牛乳をしこたま飲んでたっけ。かわいいっつか微笑ましいよな」


 だからあんな骨太な性格になっちゃったんですね、判ります。


「お陰で今じゃ学年で一・二を争う巨乳に成長してるし。きっとあいつも本望だろうね」


 いやぁ、本望なら殺意のオーラを纏ったりしませんよ。まだまだ上を狙ってると思うっスよ。


「そういやぁ先輩って、巨乳好きだったよね? 部長が巨乳でよかったスねー」


 からかう意味で、ちょっと囃子立てるように言ってみる。


「んー見飽きたから別にな。おっと、そうそう。竹仲ってすごい巨乳だな! 着やせするってタイプか? あれは新鮮でよかったよ。ケーイチ、うかうかしてっと取っちまうぜ?」


「い、いや俺はそんな……とらないで」


 まったく部長と竹仲さんの二大巨峰を連覇しようなんて、なんて贅沢なんだ。おっぱい山の神様から怒りを買いますよ。


 それはともかく……竹仲さんといえば、彼女大丈夫かな? 明日は仲違いをしたとはいえ、師である先輩と刃を交えようとしているんだから。心中を察すると俺まで辛くなるよ。

 もし、真江田先輩と俺が同じような事になったら……互いを敵同士なんて考えられるのかな? 

 いや、その後また以前のように笑って話せる仲になれるのかな?


「い、いさ兄ちゃん、ちょっといいかな?」


 俺は思わず昔の呼び方で、真江田先輩に尋ねた。何と言うか、昔の、何の気兼ねもない幼馴染同士としての話がしたかったからなのかもしれない。


「だからー、その呼び方はするな……まあいい。で、何だけーくんよ?」

「あ、いやその。もしさ、もしもだよ? 俺と兄ちゃんが意見の違いで不仲になったとしてだけど。また仲良くなれるもんかな?」

「んー、そうだな。なにかしらきっかけでもあればな。親友や幼馴染同士の仲違いってのは、殆どがすごく些細な事からだからさ。仲直りも些細なきっかけで出来るんじゃないかな」


 頭一つ上。先輩の少し垂れた目尻からの視線が、俺に降り注ぐ。

 そして前を向き直し、神妙な顔つきで一言。


「竹仲か?」


 俺は小さく頷いた。


「彼女が好きとか気になるとか、そんなんじゃないんだ。ただ彼女と朱池会長の関係が自分と重なって見えて。俺、そういうの見てるだけで辛いんだ」


 商店街は途切れ、雑踏も薄らいでいた。俺達の歩く靴音と、時折横を通る車の通行音だけが、間をもてあます耳に届く。

 そして歩道を照らし出す街頭の光を三つか四つ過ぎた頃、先輩が口を開いた。


「冷たい言い方だがな、俺とケーイチの間に竹仲は無関係なように、竹仲と朱池の関係に、お前は無関係だ。つまり他人の関係に口を出すこっちゃ無いって事だ」

「そ、それは分かってるよ。でもさ」


 俺はまたコロッケを一口かじり、少しすねたように俯いて答えた。と、先輩はそんな俺の頭にポンと手を置き、くしゃくしゃと掻き撫でた。


「あはは! でもよ、俺はお前のそういうトコ嫌いじゃないぜ?」

「わっ! ちょっと何するんスか!」

「でもな、そんなお前のいいトコはさ、そのままお前の弱点になるんだぜ。竹仲を思いやる気持ちはいい。だけど、そこを突かれたらどうするよ? まあ敵さんもそこまでは考えてないだろうけど、どんな手を使ってくるか分からん相手との戦いだ。もし相手が煽りや挑発で竹仲を貶めるような事を言いまくったとして、お前は冷静でいられるか? 冷静のまま本陣を守っていられるか?」


「…………」


 俺は答えられなかった。もしそんな状況になった場合、正直冷静でいられる自信ないよ。


「で、そこで話を戻すけど――戦いの時は所詮他人事と割り切る事だ。こいつはお前だけの問題じゃない、味方全員に関わる問題なんだぜ」


 うん、無理! そう喉元まで出掛かって引っ込めた。


「まあ、お前がそこまで割り切れる奴だったら、今頃は猪キャラじゃなくエースとて活躍してただろうけどさ」

「あはは、そうかも」


 でも口ではそうは言うけれど、先輩だって他人をほっとけない性格じゃないか。幾度も俺の危機を救ってくれたのがその証拠だよ。


次回予告

條庄との合戦前の、何気ないひと時。竹仲が使い番のアドレス交換を行うために呼び出したマサカドさんに、違う意味で驚愕する二年生たち。

次回 「マサカドさん」


この章に最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました。

ってか、読んでくださってる人いるのかな?


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