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十二 そのとき歴史が動いた

          


 一年生と二年生に分かれての合戦は、俺達一年生方の勝利で幕を閉じた。


 その後、制服に着替えた俺達一年生は、慎吾の足首に応急処置を施してもらうため、保健室へと急いだ。


「ヒビが入っている可能性があるから、専門のお医者さんに診てもらった方がいいわね」


 念のために今から一緒に車で病院へ行こうという、保健医の愛瀬まなせ先生のありがたーいお言葉を頂き、慎吾のテンションが一速から二速へとシフトチェンジする。ちくしょう! 俺達全男子の仄かな憧れ、愛瀬先生と二人っきりでドライブに行けるなんて。アイスマンのくせにホットになってんじゃねぇ!


「なんだよー、シンゴだけずりーな! 先生、俺も昨日体育のサッカーで足首がグキッ! ってなったんだ!」

「なっ! リョータ、それマジか?」

「ああ、残念ながらすぐ痛み引いて、今じゃなんも痛くないけどよ」


 そう言って、挫いたと思われる方の足で廊下をダンダンと踏みつけ、全く問題が無い事をアピールする。お前は小学生か。


「それなら大丈夫よ。きっとあなたの身体は頑丈なのね?」

「はいっ! 超頑丈ッス!」


 ちょ、ちょっとまってくださいよ? という事は、もしかして俺はなんでも願いが叶う系の特殊な能力が覚醒してしまったんですか? いや、それとも呪いをかける事が出来るという悪魔の血が目を覚ましたとかですか? 

 この世界ってそんな超能力でバトルとか、神と悪魔の化身がいる非日常系世界だったっけ? 

 まあいいや。俺が知らないだけで、とーちゃんかかーちゃんが封印されし聖なる悪魔がなんとかかんとかの隠された子孫かもしれないし……一応願っとこうかな。


 漫画なんかで良くあるハーレム状態になれますように!

 ラノベなんかで良くあるハーレム状態になれますように!

 アニメなんかで良くあるハーレム状態になれますようにいいいい!! 


 それが駄目なら、慎吾が愛瀬先生と二人っきりでドライブなんて、いい思いをしませんように。


「先生。私、朝野さんと同じクラスで、保健委員なんです。私も一緒に付き添って宜しいでしょうか?」

「ええ、いいわよ。じゃあ早速三人で病院へいきましょうか」

 そう言って竹仲さんが、慎吾に寄り添い肩を貸した。確かに俺が願った通り、これで二人っきりでのドライブじゃなくなったな。ちくしょー!





 俺とリョータ、ほがらかちゃんは、えっちらおっちらと三階の部室へ向かった。リョータも俺も、普段は全く見せない、かつて友人だった者の幸せそうな顔を目の当たりにしたせいで、階段を登る足取りもいつにも増して重くなっていた。


「一年生軍団ーただ今到着しましたぁー」


 ほがらかちゃんが元気に部室のドアを開けると、二年生達がポテチだのチョコだののお菓子を広げ、雑談に華を咲かせていた。俺達が無駄な疲労感を味わっているってのに何やってんだこの人達は!


「おう、ご苦労様。朝野はどうだった? ん、竹仲はどした?」


 部長がジュースの入ったコップを片手にこちらを振り向き、するめをかじりながら言う。まるで酒飲みのおっさんだ。


「あ、はい。慎吾は一応愛瀬先生の車で、病院に行く事になりました。で、竹仲さんが保健委員だとかで付き添いとして一緒に」

「なんや、今日の主役は不在か? くっそー、それにしても慎吾のやつ両手に華か。うらやましいな、バチあたれ!」


 もう十分に足首負傷って罰は当たってますよ金盛先輩。そしてそれは多分俺の呪いのせいです。


「そうか。じゃあとりあえず我々だけで反省会を始めるか。皆、菓子をかたづけろー」

「あぁ、俺達もポテチの一枚くらい下さいよ!」

「ポテチの一枚と私の一撃とどっちが欲しい?」

「あ、どっちもいりませんごめんなさい」

「ははは。そらっ! どうせこの後、竹仲と朝野を待つんだろ? その時に好きなだけ食え」


 そう言って部長は、まだ未開封のポテチ(鮎の塩焼き味)を投げてよこしてくれた。


「あ、ありがとうございます部長」


 そんなお礼の言葉を聞き流し、部長は大型投影式ディスプレイの電源を入れた。何というか、ぶっきらぼうな優しさが実に男前だ。女子に人気があるというのも頷けるよ。というか、先の合戦で見せた修羅のごとき戦いぶりといい、ホントは部長の中身って渋いおっさんじゃないのか?


「さて注目! それでは今回の合戦の反省会を始める。今日はまず私から言わせてもらおうか」


 そう言って、全員がパイプ椅子に腰掛けた頃を見計らい、部長が切り出した。


「まず二年生方敗北の原因を語る前に、今回の合戦の一連の流れをおさらいしようと思う」


 先程の紅白戦データの入ったメモリーカードを投影機に読み込ませると、ディスプレイに簡略化された布陣図が映し出された。それらは時間と共に沿った行動を展開し、部員達についさっきまでの出来事を思い起こさせる。


「さて、開始二十分程で橋場の部隊のみが突出、金盛隊と交戦に入る。我々二年は、いつも通りの橋場の暴走だと誰もが思った。そこで枝畑隊に挟撃、多岐川隊に敵部隊へのけん制を指示した訳だ。が、これと全く時を同じくして、一年生方が全軍突撃に打って出て来た。まさか橋場を救うためだけに、そんなリスクの高い行為に及ぶとは思えない。こいつは橋場が逃げおおせたら全軍が引き、仕切り直しを行うという、橋場を逃がすための脅しだ――と、そう踏んだのだが……そいつはとんだ間違いだったという訳だな。お陰であれやこれやと詮索しているうちに、一年方の思う壺になってしまった」


 部長がレーザーポインターを使い、一年生方に円を書くようにして更に言う。


「我々を後手に回させるための、引っ掛けめいた行動。これによって橋場はまんまと別働隊として、何の障害もなく我々の背後を取った訳だ。悔しいが、竹仲の策と橋場の小芝居に引っかかったという事だな」


 ディスプレイ上で、俺の部隊が敵本陣の背後へと回りこむ。そして一度、二度と突撃を繰り返したところで、慎吾の部隊が一瞬にして画面上から消え去った。そう、足の痛みにより強制終了してしまったんだ。


「朝野には悪いが、こいつは思ってもないチャンスだった。数的にはこちらが有利だからな。だが、現状ではこの時まだ優劣は変わらない。なぜなら私が別働隊として橋場撃退に向かったこのあと、八州家の部隊からの攻撃により、総大将である副部長の部隊が混乱状態に陥り、身動きが取れなくなったからだ。橋場の強烈な突撃と、朝野・八州家隊の執拗な奮戦を食らったんだ。無理もないさ」

「いやはや、ケーイチには二度もケツ掘られるわ、正面からはリョータと慎吾がしつこく噛み付くわで散々だったよ。これでも防御には自信あったんだぜ?」


 部長と真江田先輩が、遠まわしに俺達を褒めてくれている。だが、この時点での優位は二年生方にあったんだ。

 それは部隊数でも兵士数でも二年生の方が勝っていたし、何より部長がその気になれば、竹仲さんの部隊を急襲し、しかも金盛先輩と連携して挟み撃ちにもできたんだ。俺が敵本陣である真江田先輩の部隊に辿り着いて瓦解させる間に、きっとあの二人なら竹仲さんの部隊を壊滅させられただろう。


「そして……ここで私の未熟さが出てしまう。橋場の挑発にまんまと乗せられ、本陣からどんどんと遠くへ引き離されてしまった。皆には真に面目ない次第だ」


「おい橋場、梓ちゃんに何て言って挑発をしかけたんだ?」


 途端、部長の瞳に殺気が宿る。


「いやその……まだ死にたくないっすから言えませんよ」

「そ、そうだな。それが懸命だな」


 多岐川先輩もただならぬ殺意の波動を感じてか、それ以上は何も言わずに身を引いた。


 ふと思った。もしかしたら部長は、わざと俺の挑発に乗ってくれたんじゃないのか? そう、理由はあるさ。慎吾の急なアクシデントに公平さを期する為だとか、自らが竹仲さんを押したにもかかわらず、倒してしまってはバツが悪いからだとか。いずれにせよ、もう終わった事であるし、この先も部長自ら本心なぞ口にはしないだろうな。


「さて、山内隊が瓦解してからの一連の動きだが、こいつが中々面白い。多岐川隊と枝畑隊の攻撃により山内隊が崩れ、その残存兵力のいくつかは八州家隊に合併された。これは山内自身がまだ存命で、八州家隊に身を置いたからであるが――これもまた竹仲の指示か?」


 部長の問いに、リョータが答える。


「そうッス! 山内隊が消滅する事によって、敵の油断を誘ったって事です」


 丁度この時からの出来事は、部長に悪夢を見せられていたので、俺も預かり知らぬ事。何が起こったか興味しんしんだ。


「ふーん、なるほどねー。だから違和感というか、案外もろかったなーなんて思っちゃったんだ。いつものほがらかちゃんの守りは、あんな柔じゃないもんねー」


 と枝畑先輩が言う。ほがらかちゃんの持ち味は、まるで換気扇についた油汚れ並の粘りとしぶとさだからな。おっとりとしているわりに、中々芯の強い子なんだ。


「それでー、セオリー通りに一旦引いてぇ、体勢を整えるという振りをしたのですぅ」

「で、マジラッキーとか思って俺とメグちゃんが追撃にで出たんだが、八州家隊は止まって体勢を整えるどころか、そのまま金盛を急襲したんだよな。その一瞬の隙を突いて、綾名ちゃんの部隊が橋場が通ったよりも最短のルートを通って、うちの総大将に突撃してジ・エンド。俺もメグちゃんもそれを阻もうとしたけど、八州家隊が超ウザくて駆けつけられなかったんだよな」


 なんだか嬉しそうに、多岐川先輩が二年生敗北の経緯を話す。それは後輩に出し抜かれて悔しいというよりも、天晴れと褒め称えているような口振りだ。


「そうだな。という訳で我々二年生の敗因は、油断と常に後手後手に回ったという事だ。それは竹仲の指示の素早さ、的確さが導いた結果という他ない。まさに機を見るに敏という訳だな」


 笑顔で竹仲さんを褒める部長。彼女が帰ってきたら教えてあげよう、きっと喜ぶぞ。


「でもさー、綾名ちゃんって向こうじゃ連戦連敗だったんでしょ、それは何で?」


 一瞬、部長の顔が曇る。そして一時悩んだ素振りの後、迷った表情で切り出した。


「それは多分……向こうのアホ共が竹仲を嫌ってか、指示を無視していたんじゃないかな? あいつのスコアに記載されていた、他武将への布陣、戦闘指揮、移動のタイミング、全て戦場の動きを読み、理に叶った指示だったんだ。だが、殆どの部員がその指示通りに動かず、勝手な行動を取っていたようだ。まあ、あいつはただの一年生の一般武将だから、聞く必要はないといえば無いのだが」

「な、なんでだよー! 竹仲いい奴じゃん! 嫌われる要素なんて皆無だぞー!」

「落ち着けリョータ。條庄は金持ち学園だ。俺達には判らない嫉妬やねたみも、半端ねぇんじゃないか?」


 真江田先輩の言葉は重かった。一瞬で部室の空気が変わったのが判る。そう言えば合戦中の雑談で、竹仲さんが向こうの学園に馴染めなかったとか言っていたっけ。それ故に、総大将を任された時、必要以上にオドオドとしていたのかもしれないな。


「ちくしょう條庄の奴らめ! 親切心からのアドバイスを無視して勝手な行動ばかりとってりゃ、負けて当然って訳だ。竹仲さんの心中を察すると胸が痛いぜ!」


 思わず言ってしまった後で、胸の痛みより皆の視線の方が痛い事に気付いた。



「「お前が言うな!」」



「……すいません」


 恥ずかしさと申し訳なささで小さくなる俺。だがそんな俺に、そして部員達に向かって部長が言う。


「何も橋場だけじゃないぞ! 私を含む我が部部員自身が、今まで勝手をやり過ぎていたと思わないか?」


 その言葉を受けて、部員一同の顔から笑みが消えた。誰もが皆、思い当たる節があるといった表情だ。


「恥ずかしながら、言われてみればそうやな。俺は誰かと通じて連携を取るなんて、今までせぇへんかったわ」

「俺もそうだ。女を落とすのと銃の腕前なら誰にも負けないという自負だけで、今まで戦ってきただけだからな」

「いや、女は関係ないやん」

「しかし連係プレイか、女性を落とすテクニックに通じるかもしんねーな」

「せやから女は今関係ない言うてるやろ!」


 そうですよ、女を落とすのは今関係ないでしょ? 後ろから刺しますよ。現実世界で。


「とにかくだ。こいつは言い訳になるが、我が部は各個人の能力が高い。だから今までは各個の判断に任せっきりの戦い方を皆に強いてきてしまった。それは私の不徳の致す所以外の何ものでもない。そんな戦いが通用するのは、中学くらいまでだろうからな」


 一同が神妙な面持ちで、部長の言葉に聞き入る。この人の口からこんな言葉が出るなんて、皆驚きなのだろう。正直俺も驚いている。それ故に皆、真剣なんだ。


「昨日の事だ。竹仲が来てくれた事によって、我が部は県下統一も夢じゃないといったのを覚えているか? 今日の合戦で分かったと思うが、二年方には纏まりがなく、皆個人プレーに走っていたと言う事が浮き彫りにされた訳だ。それは今までの我々の合戦そのものを意味する。そして一年方はこれからの我が部という訳だ。頭脳となる総大将を中心に指示が行き届き、行動を潤滑にする。今までうちの部に足りなかったのは、こういった軍師的な役割を持つ選手という事なんだ」

「そうだな。引退した三年生を悪く言うつもりは無いが、なんだか各個に任せた戦い方が伝統になってた感があったよな。それは良くも悪くも、皆の力に頼り切ってたってとこもあるんだが、それじゃまとまりは取れないよな」


 真江田先輩の言葉に、部員一同が相槌を打つ。


 そうだ、そうなんだ! 俺達に足りなかったのは、そういった頭脳役と皆の団結力なんだ。だからいつも勝ち負けに大きな波があって、成績を残すって事が出来なかったんだ。


 ……ちょっとまてよ。するってぇと、今まで俺の責任で負けた事にされている合戦のいくつかは、もしかしたら無実の罪だったんじゃないのかな? どうなの? ねぇどうなの先輩方?


「ちっ! 気付かれたか」

「『気付かれたか』じゃないっすよ部長! 俺の純真な心と無駄な労力を返してくださいよ!」



「うるさいだまれ! 秘技、記憶飛ばし!」



「ウボァー!」



 部長のコークスクリューが、俺のどてっぱらに炸裂した。久しぶりに見た美都桜中学伝説の右は、今も現役だった。


「これで記憶が飛んで、もうぐずぐず言わんだろう」



 いろいろ飛んだ。部長への信頼とか。



「さてと……とまあ、これをを言いたいがために、一年生と二年生に分かれて紅白戦を組んだ訳だが、途中朝野が強制終了た時はどうしようかと思ったぞ。それでも竹仲は機を見て動き、指示を与え、一年方を勝利に導いた。そこで改めて皆に聞くが――竹仲がうちの部に来てくれた事で県下統一も夢じゃないと言った私の言葉……これで納得してくれたか?」

「うん、納得!」

「はいですー」

「おー! まあ俺は最初からわかってたけどなー!」


 皆が笑顔で答え頷いた。大げさな言い方かもしれないけど、新生美都桜高校IXA部が産声を上げた瞬間――そう、新たな歴史が動いた瞬間だ!


 だがちょっと待てよ。じゃあこれから竹仲さんは、部長付きの軍師として活躍するって事なのか? 


「部長、そうすると俺はまた軍団長として、部隊を率いるという事になるんすか?」

「いや、これからの私は総大将ではなく、一軍団長として合戦に参加する。総大将には竹仲になってもらうつもりだ」

「ええっ! どう言う事っすか? まさかさっきの合戦で、敵の生き血を啜る事にまた目覚めてしまったとか!」


 そう言ってしまって一秒で後悔した。コンマ二秒という早業で、部長のげんこつが俺の頬に深々と突き刺さったからだ。


「まあ否定はしない。私には総大将など肩苦しいだけだからな」

「ならなんで殴るんスか! もしかして俺、殴られ損っスか?」

「男が細かい事を気にするな。あと、貴様はまだ竹仲の御家来衆のままだ。こいつは貴様の暴走を止めるためもあるが、竹仲のボディーガード役という、大事な任務のためでもある。責任重大だぞ?」

「は、はぁ……なんだ、まだまだ俺は二軍扱いか」

「なんだ嫌か? それなら他の奴に頼むが――」

「否! 謹んで拝命いたします!」


 まあいいさ、竹仲さんを守るのが俺の使命なんだ。こいつは誇れる任務だよな。


「それとだ、これは推測の域を出ないが……人には触れられたくない事があるもんだ。竹仲が受けたであろう條庄での事、絶対に詮索はするなよ!」

「「はいっ!」」

「私からの意見は以上だ。今合戦に於いての議論をほぼ言い尽くしてしまった感があるが……他に何か発言したい者はあるか?」


 俺はこの時とばかりに声を張って挙手をした。


「はい! はい! イチ乙の件! 俺の仲間の件!」

「…………ああ、忘れてた」


 忘れてたって部長……俺の仕事量が軽減されるか否かの大事な事ですよ!


「そういや慎吾は強制終了だし、ほがらかちゃんも俺も部隊が瓦解しただけで存命だしな」

「という事はイチ乙なしよ! って事やな。ほなケーイチ、これからも一人でがんばりや」

「えぇーそんなぁ……」

「じゃあ他に無ければ今日は以上だ。解散!」

「「したっ!」」


 無常にも締めの号令がかけられた。皆が三々五々に帰り支度をする……が、誰も帰ろうとしない。それどころか、長机を持ち出しお菓子を広げ、くつろぎ始めた。何? 一年生勝利の祝賀サプライズパーティーの開催ですか?


「何って朝野と竹仲を待つに決まってるじゃないか」


 やっぱり皆部員想いで優しいんだな。なんだか竹仲さん効果で部員一同が一層一丸になったって気がするよ。


「ケーイチ、何してんねん? はよせぇよー」

「はーい! じゃあ俺もお言葉に甘えて、さっき部長に頂いたポテチを――」

「アホ! お前は掃除やろが。はよ筐体設置室行って掃除せぇよって事や!」

「だな。今日は特別に部室の掃除は免除してやる。私の優しさに感謝しろよ」

「心配するなケーイチ。お菓子だけは残してやっから、さっさと片付けてきな」

「えーそんなぁ。いや、ちょっとまてよ? 良く考えたらこないだの合戦に負けたのも、もしかしたら俺の責任じゃ――」

「部長、腕鈍ったんじゃないすかー? ケーイチまだ記憶が飛んでないみたいっすよー」

「そうか、流石に久しぶりだったからな。どれ、もう一発……」


 リョータの言葉を受け、部長が右腕をぶんぶんと振り回し始めた。


「い、いえ! 俺の勘違いでした! 掃除行って来ます」


 皆が否な方向に一丸となったと思うのは、きっと俺の気の迷いなんかじゃないだろう。 


次回予告

一人さびしく筐体設置室の掃除を命じられる橋場。そこへ、病院から帰ってきた竹仲が現れる。二人で仲良く掃除する最中、橋場の言葉に、突然竹仲が涙を見せる。

次回 「七人の覗き」



この章に最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました

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