善良不良 サンタクロースの一刻
サンタクロース、それは世界中の子ども達に夢を配る素敵な老人。
喜びの象徴であり、憎悪が嫉妬する的である。
そして憎悪を象徴する悪魔は、いつの日からかサンタクロースの命を狙い始める。
偉大なるサンタクロースの命を守らんと、それに呼応し、天使たちも動く。
しかし、あくまで天使たちは防衛しか行わない。
自らの領土へサンタクロースを非難させ、大人数の天使を、クリスマスに人間界に向かわせた。
サンタクロースの代理として。
「かったるい」
突拍子もなく、男が口にする。短い茶髪を強引にかき上げ、舌打ちを1つする。
そんな男を、赤髪の女がなだめる。
ここだけ切り出せば、本日12月24日、なんやかんやで仲のいいカップルに見えることだろう。
しかし、時刻は深夜。屋根の上。2人ともサンタクロースの衣装。これらの条件を追加してみたらどうだろうか?
状況は一変、よくても酔っ払いにしか見えないだろう。
だが、彼らこそサンタクロース代理の天使。 望んでこの仕事に就いた女天使と、それとは真逆の男天使だ。
「だって俺この仕事したいわけじゃないし……」
「だからって」
女はかなり真面目なタイプの性格だ。現に嫌々ながら仕事はしている男、しかしその気構えが気に入らないのだろう。この口論は今宵だけでもう7回目となり、やはりそのどれもが、気の抜けた男を女が正すところから始まっている。
「あ~、もう分かったよ。ちゃんとやりま~す」
「またそうやってふざける!」
頬を膨らませ、わざとらしく怒っていますよオーラを醸し出す女、逃げるように煙突からプレゼントを配りにいく男。
些か不安ではあるが、それでも夢を与える2人は、どこか微笑ましい。
が、次の瞬間。
ピリリと自分の頬を刺すような感覚に、男は身構えた。
夜、昼に比べ、はるかに肥大化した影の一部が揺らめく。
「くっ!」
一瞬、確かに凄まじいスピードで男の頭上を影でできた細長い何かが、通過していった。
男がのんきに欠伸でもして、屈むという行為を行わなければ、今頃首と体が別々になってしまっていたかもしれない。
「悪魔! まさかこんなときに」
女が叫ぶ。そう、この影でできた何かとは悪魔。サンタクロースを狙い、代理を始末することでオリジナルを引っ張り出そうとするために、彼らもまた、12月24日の夜に、人間界を訪れる。
男は自らの纏うコートの内から、銃を取り出す。無骨な、殺しの道具。
天使が使うには些か、夢がないものだが、天使ゆえに使い方は間違えない。
過ちは犯さない。
決して人には向けない、正義の銃。
男はその引き金を容赦なく目の前の影へと、向ける。
乱射、乱射、乱射。
子供の夢を壊すサンタか。しかしこれこそサンタクロース。
悪魔を放置すれば、恐らく人間にも危害を加える。
男は今、自覚こそないがそれを未然に防ごうとしている。
夢を配る英雄と、正義の味方の英雄のハイブリッド、逃げ惑う女をよそに、悪魔の攻撃を避けながら、銃を乱射する。
右足を影の槍が貫かんとする、それをバックステップで回避すると、手のひらから直に生やしたショットガンの銃口を悪魔へと向ける。
余りの衝撃に、天使の彼さえも大きく後ろに仰け反るが、その分悪魔へのダメージも大きかったらしい。
影が無数の腕を空に向けて振りながら、攻撃をやめた。恐らくは、ダメージに怯んだのだろう。
今がチャンス――そう判断した男は、腰から出現させたナイフを悪魔目掛けて投げつけた。
一投必中!
ナイフは見事に影が人を象った、丁度その頭部を捉え、絶命させた。
「おしまいか、歯ごたえがないな」
立体を失い、ドロドロと影のなかへと、まるで溶けるように倒れていく悪魔を見据えて、男はそう吐き捨てた。
サンタクロースにしては不適に。
天使にしては些か汚く。
「ご~いん」
ふと、男の傍らで今まで振るえていた女が呟く。
「あ?」
男はその発言に正直、少々の不快を覚えた。自分では何もしないくせに、文句をいう。誰だって嫌いなタイプだ。
「じゃあ聞くが、お前のこれは飾りか?」
男は少し怒気を込めて、女の懐に収まった、リボルバー式の拳銃を指差した。
悪魔と対峙する以上、全サンタクロースに支給される対魔銃。彼女も確かに持っていた。
「ああ、いえ、すいません。別に馬鹿にしたりしたわけじゃないんです」
すると、その怒気が女にも伝わったのだろう。彼女とて、自らの発言を振り返り、反省することの出来る年齢だ。
先の発言が、男に誤解されたことを察し、素直に謝罪する。
「ただ少し、無茶する方だなぁ、と」
「ほっとけ」
素直な謝罪をされれば、男とてそれ以上追求することも出来ない。
「第一俺の戦い方なんか神殿で一回みてるだろ」とぼやき、バツが悪そうに煙突から室内に入っていく。
「でも、新鮮です」
と女
「うるせぇって」
と男
今宵この時クリスマス。サンタクロースは、過激に、されど優しく素直に元気よく、プレゼントを配っているのかもしれない。