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湿原の中で
草花の萌える湿原の中で、僕と彼女は歩いていた。
暖かな日差し。ゆるやかに流れる時間。僥倖と呼べる時の中を、僕たちは歩いた。
ふと見渡せば、草花は風に揺れ、その体中に朝露を湿らせている。
僕と彼女は手をつないで、その中を静かに歩いた。
それはまるで終わりの無い永遠を思わせた。
以前は凍えるような寒さにあったこの地を、今は輝く太陽がじわじわと照らしつける。
僕たちは何も飲まず、食わずで歩み続ける。
時が止まったかのように、時間は何も思わせない。
言葉はない。
けれども彼女が何を言いたいか、このつないだ手からぼんやりと伝わってくる。
時折みせる彼女の笑顔に目がくらみそうになる。
こうしていたいと思える時間だけが、只、延々と過ぎていく。
もうどのくらいの時間歩き続けているか、わからない。
人はこれを自由と呼ぶのだ、と僕は思ってみる。
この場所で歩みを止め、朽ち果ててもかまわない。
そんな風に思えてくる。
あの光の差す方向へと
僕たちは歩いていく
このまま永遠に。
それが僕の全て。
僕の。