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ご主人様と猫。

ご主人様と猫。‐猫と狼さん‐

作者: 鍵屋

※ 当方の「ご主人様と猫。‐猫とティータイム‐」「ご主人様と猫。‐猫とベッド‐」の続編的物語です。お読みになっていないと理解出来ない点もあるかと思われます。

  よろしければそちらを読んでから、ご覧いただけると嬉しいです。

「君がみーちゃんだよね?」



 ご主人様の執務室で寝ているのにも飽きたアタシが、熊さんのところにお菓子をもらいに行こうと廊下を歩いていた時のことです。

 なんだか怪しい雰囲気満載の、おにーさんが声をかけてきました。


 ぼさぼさと無造作の中間みたいな、むしろぼさぼさな頭のおにーさんです。

 アタシの本能が危険人物だと、逃げろと告げています。



 つつ、つつつつ。と、こっそり後退ります。



「なんで逃げるのかな?」



 なぜこのおにーさんは逃げるアタシを追うのでしょう。


 はっ! そういえば、今日のアタシは真っ赤な洋服を着ております。帽子付きです。

 つまりアタシは赤頭巾ちゃんなのです!


 ということは、こやつは赤頭巾ちゃんを唆す悪い狼さんなのですね!



 狼が出たそー、狼が出たぞー!

 ……なんだか違う気がしますが、まぁ、いいことにします。気にしたら負けです。何に負けるのかわかりませんが。


 赤頭巾ちゃんなアタシは、悪い狼さんに美味しく食べられてしまう前に逃げるのです。



 つつ、つつつつ、ととととととと。途中から小走りになって逃げますが、狼さんはアタシを追ってきます。

 赤頭巾ちゃんの狼さんなら、赤頭巾ちゃんに予定を聞いてお祖母さんの家で待ち伏せしなくてはならないのに。追いかけてくるとは言語道断です!



「お嬢様? そんなに走られてどうなされたのです」



 廊下を曲がったところで、猟師さん……ではなく、執事さん……でもなくて、自称家令のいぬいさんを発見いたしました。

 乾さんならアタシを助けてくれることでしょう。


 なにしろ乾さんは超能力の持ち主なのですから!

 ぱぱっと、狼さんを退治してくれるに違いありません。



 乾さんの背後に回りこんで、近付いてくるであろう狼さんに備えます。



「ねぇってば、どうして逃げるんだよ。みーちゃ…………うげ」



 追いついた狼さんは乾さんを見て、あからさまに嫌ぁな顔をしました。


 そういえば、乾さんはご主人様に忠実なお犬さんなのです。お犬さんも狼さんも、ご先祖様は同じなのです。

 これは同族嫌悪というやつでしょうか。


 ……乾さんからアタシに対するお咎めがあった気がしました。

 アイツと一緒にするな、と。

 了解です、お犬さん!


 再びお咎めがあった気もしますが、気付かなかったことにしましょう。



「なにこんなとこ居るの、犬ころ?」


「そのままお返ししますよ、年中盛った阿呆狼」



 ふたりの間でバチバチと火花が散った様な気がするですよ!

 というか、やっぱり狼さんだったのですね! 逃げて正解だったです、さすがアタシ。



「俺は若様に呼ばれて来たの、何でも俺に若様自ら依頼したい事があるとかで。

 いやぁ、俺は堅物犬ころとは違うからねぇ」



 ニヤニヤと狼さんは笑い、そのとがった犬歯を晒します。

 瞬間的に、壁としている乾さんの周囲がマイナスに下がった気がしました。それも絶対零度にですよ!

 おおぅ、これはここも安全ではないということなのでしょうか。



「そこで何をしているのかな?」



 一触即発とでも言うべき雰囲気を打開したのは、ご主人様でした。

 ああ、いつもは少なからず鬱陶しいと思えるご主人様が今回ばかりは輝いて見えるですよ!


 冷却装置と化した乾さんから離れ、ご主人様に駆け寄って背後に隠れます。

 ここなら安全です。

 狼さんに追い掛け回されることもないですし、狼さんにお怒りな乾さんの冷気を浴びなくて済むのです。

 たまにはご主人様も役に立つですね。



     ★



「みー。はい、口開けて」



 いつものようにアタシはご主人様のお膝の上で、いつものように手ずから熊さんお手製の特製スイーツを食べさせてもらうのです。

 慣れたというか、諦めたというか。

 とにかくもうアタシの精神的になんの問題もないだろうと思っていたその行為は、ギャラリーがひとり増えただけで大問題となったのです。


 執務室の立派な応接セット。その向かい側に座るのは、ニヤニヤと笑う狼さんです。

 この上なく、不快なのですよ。

 あの笑みといい、アタシに向けられている視線といい!

 さあ、ご主人様! あの不埒な狼さんを退治するのですよ!



「みー?」



 そんなアタシの心を知ってか知らずか、ご主人様はいつものようにアタシの前にスイーツが乗ったスプーンを差し出します。

 ちらりとご主人様を見上げますが、アタシがこの行為を拒むなんて考えてもみないというご主人様の顔があるだけ。

 うー。

 仕方ないのです。


 ぱくり。

 口の中でそれはとろけて、極上のミルクの風味が広がります。

 アタシがミルクが大好きなためか、最近のスイーツはミルクをふんだんに使ったものが多く出てきます。

 ありがとう、美味しかったです。と、熊さんにお礼に行くと、熊さんはそのお髭の顔を嬉しそうに歪めて笑うのです。

 だからアタシも嬉しくなるのです。


 でもこの体勢は不本意なのですよ!



「んで、若様。俺に用ってなんですかね?

 まさか、可愛い子猫ちゃんを捕獲したから見せつけるために呼びつけた、ってわけじゃないですよね?」


「まさか。

 叶うことなら誰にも見せないように閉じ込めておくよ」


「あー、それはご馳走さまです、はい」



 狼さんはご主人様の発言に、どこかうんざりとした表情を浮かべます。

 というか、アタシもうんざりとした表情を浮かべたいですよ。


 なんですかその、閉じ込めておく発言は。

 最近ご主人様、遠慮というものがなくなってきておりますよ?



 最後のひとくちをアタシの口に押し込んだご主人様は、空いた手でアタシの頭を撫でながら再び問題発言をしてくださりやがりました。


 ――どこにもいかないように、みーに首輪をつけておこうと思って。


 首輪ですよ、首輪!

 嫌がるアタシに無理強いするご主人様です、そーゆー趣味をお持ちだとは思っておりましたが! 寄りによってアタシに首輪とは!

 アタシにそーゆー趣味はないのですよ!



「若様、それはどこまで本気で?」


「全部本気だよ。俺は嘘は言わない」



 撫でていた手が頭から首に移り同じように撫でるのですが、それまでのほんわかした雰囲気はどこに行ったと叫びたくなるくらいには、いやらしい手つきです。

 背中に悪寒が走るですよ。


 ……必至に我慢しますけれども。



「細いチェーンのものがいいな。素材はプラチナにして、ヘッドにはルビーかピンクダイヤをあしらった飾りで。

 ほら、みーには赤が似合うからね」



 あのですね、ご主人様。

 それは世間一般的に〝ネックレス〟もしくは〝首飾り〟と呼ばれるものではないかと思うのですが。

 確かに〝首につけるわっか〟に違いありませんが、それを〝首輪〟と呼んだら世間のお嬢様方から苦情がくるに違いないですよ。


 でも、ネックレスですか。

 …………ご主人様がくれるというなら、もらってあげないことはないです。



「……りょーかいです。今日中にでもデザイン画描いて、明日にでも持ってきます。

 いやぁ、若様があやしい趣味に走ったかと思って肝が冷えましたよ」



 狼さんはどこかほっとした様子でため息まじりにいいます。

 が、乾さんが無言で差し出した小箱と紙を見て絶句したのです。



「わ、若様?」



 声が上擦ってます。

 何が書いてあるのか非常に気になりますが、知らないほうがアタシのためな気もします。



「目を離すとみーはすぐ迷子になるからね、ヘッドには迷子札代わりにGPSを埋め込むことにしたんだ。

 発信機と悩んだんだけど、GPSのほうが遠くからでもわかるって話だし」


「当然のことのように言われますがね若様、ペットにGPSは一般的になってきてますが人間にGPSは倫理的にどうかと思いますよ。

 携帯やら普段持ち歩くものにその機能をつけるのは珍しくないですけども」


「一緒だろう?」



 あぅー、やっぱり知らないほうがアタシのためでしたよ。


 確かにアタシがご主人様の世話になる条件が〝よいでいること〟でしたけども。〝みー〟と呼ばれて、ご主人様といる時はお膝の上が定位置ですけども。

 今度は首輪にGPSですか!



 ご主人様のお膝の上から降りて、お昼寝ソファーに向かいます。



「みー?」


「昼寝するの。邪魔しないで」



 ちょっと歓んでしまったアタシが許せないのであって、別に怒ってるわけじゃないのです。

 ええ、そうですとも。


 怒ってなんてない……んです。





 後日、狼さんが持ってきたGPS付き首輪――見た目は繊細なネックレスは、アタシの首に取り付けられました。


 なぜか揺れると鈴の音のような音がする逸品です。

 しかも特殊な細工で自分じゃ外せない仕組みになってます。


 アタシの繊細なハートは非常に複雑なのですよ。

ご主人様がバ飼い主になってます。まだバカップルではありません。無自覚で溺愛しております。感覚的には、ペットに思い切り金をかける有閑マダム的な。

洋服着せて、ブランドもののアクセサリつけて。


あと、狼さんとお犬さんの仲は最悪です。

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