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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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RTAシリーズ

【世界記録達成】悪役令嬢・婚約破棄RTA:婚約者が頭ないなったから、アタシが隣国ごとブチのめしに行ったるわ

掲載日:2026/05/03

 

 だんじりと現世の魂がぶつかり合った。


 彼女は、カトレアへと転生した。


 目の前には給仕らしき男と、頭を吹き飛ばされて地に伏せる身分の高そうな男。


 どちらも、どこの誰だかわからない。


 しかし、頭の無い男は、どうやら自分の婚約者らしい。


 とりあえず、殴るか。


 カトレアの胸で燃え上がった炎は、彼女の身体を勝手に動かした。


「うらぁ!!」


 掌底。


 給仕に成りすましていたその男は、カトレアの迷いのない一撃をいとも簡単に(かわ)した。


「チョロチョロ……すんなぁ!!」


 蹴り。

 今度はローからの、徐々に上がっていく変則的な三連撃。


「……チッ」


 脚を受け止められ、その身を弾き返されてなお、カトレアの闘志が消えることはなかった。


 動きづらい服や。

 補正下着か? 腰もよう回らん。


 ドレスは返り血を浴び、動き回って髪も乱れていた。

 夜風で静かに揺れるカーテンが、彼女の婚約者を隠した。


「くっくっく……」


 男の笑い声が、静寂の宮殿を切り裂いた。


 その不吉な笑いはカトレアにとって忘れられようもなかった。


「お前……」

「相変わらずだなぁ、トラ嬢」


 混じり合う二つの魂。

 ひとつの魂が震えあがった。


 ――竜。


 疑念は確信へと変わった。

 男の身のこなし、そしてその呼び方。

 泉州の雨の夜が、豪華な夜会会場にオーバーラップした。


 姿形こそ違えど、目の前にいるのは『南河内の竜』。

 前世の彼女と、彼女の父親を殺した男であった。


「うあぁぁぁぁ!!!!」


 父親から習った型も何もなかった。


 大きく踏み込んだ獣があげたのは咆哮。

 呼応するように大理石の床がミシミシと悲鳴を上げた。


 一撃。


「がっ……」


 男の鼻っ柱に刺さったのは『泉州の虎』の牙。


 折れた鼻骨を手で押さえ、男はヨロヨロと後ろへ下がった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 肩で息をした(カトレア)は、弱った獲物へと近づいた。


 ポンッ。


 乾いた音が夜の宮殿に響いた。


 男の手に握られていたのは、コルト・ベストポケット。


 弾丸が射抜いたのは、覚醒しかけていた獣の胸。


 ドレスの上で二つの血が混じり合い、目を見開きながらカトレアは崩れ落ちていった。


「――カトレア様!?」


 ヒロインであるエレノアが現場に駆け付けると、男はバルコニーから鮮やかに逃走した。


「アメリカの銃? え? なに? ……って、ええぇぇ!? アルフォンスぅ!? 死んでる!? 悪役令嬢……ええぇぇ!? ……アルフォンス、ええぇぇ!?」


 ――凶弾に貫かれたカトレア、絶叫するエレノア、そして頭を失ったアルフォンス王子。地獄の三名が揃った瞬間であった。



 ※


 それから二週間、カトレアは生死の淵をさまよった。


 宮殿には、彼女のような戦闘民族が好んで使いそうな回復カプセルがあった。


 カプセルの中に入れられ、ブクブクと泡を立てる緑の液体に浸った彼女は、なんとか意識を取り戻すことができた。


「銃でやられた思たら、えらいハイテクなもんあんねんな」

「……随分と、感じが変わられましたな」


 振り向くと、見覚えはないが記憶には刻まれている小型のジジイがカトレアを見上げていた。


「誰?」


 素っ裸のまま、カトレアは腕を組んで獰猛なオーラを出した。


「爺でございます。カトレア様、ご機嫌麗しゅう」

「ジイ? ほーん……」


 泉州の虎の魂がこの世界へと馴染んでゆく。

 このジジイは自分の所有物。

 カトレアは即座に理解した。


「ほんで? あいつはどこ行った?」

「アルフォンス様は葬儀も終わり、納骨までが盛大に行われました」

「そいつちゃうわ!! ボケェ!! アタシの胸に穴あけた、あのボケカストカゲはどこおんねん!!」

「大変失礼いたしました。その男なら、すでに隣国へと逃亡しております」

「隣国ぅ?」


 せめぎ合う二つの記憶。

 泉州の虎はカトレアとしての記憶を探った。


「カトレア様。猛る気持ちはわかりますが、アルフォンス様は婚約者。まずは、ご遺族に顔を合わせられてはいかがでしょうか」


 婚約者。カトレア。ジジイ。

 どうやら自分は悪役令嬢へと転生していたらしい。


 悪役令嬢といえば婚約破棄だ。

 もし仮に、これがRTAの世界大会だったら、自分はぶっちぎりで優勝している。

 婚約者と死別しているため、イベント自体が消失したからである。


 カトレアは(わら)った。


 それは、この世界に生きるカトレアの最期でもあった。


「……虎姫や」

「はい?」

「今から、アタシのことは虎姫と呼べ。隣国? おもろいやん。あのトカゲしばきまわして、国ごと滅ぼしたるわ」


 空は曇天。

 胸に銃痕。

 瞳に光るはエメラルド。


 泉州に生きた虎は、カトレアの魂を喰らい、ここに甦った。


「かしこまりました、カトレア様。いえ……虎姫様」

「行くぞ!!」


 虎姫の産声は分厚い雲を突き破った。

【記録:婚約破棄イベント消滅まで 0秒(計測不能)】

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