守れ、漆黒の森
ルナ・シャドウズは漆黒の森を駆けていく。木々を抜ける風がダークブラウンの髪を揺らし、赤黒い瞳は闘いに向けて強い光を放っていた。
背後ではサキュバスのアスタリーナがふわりと浮かび、ニコニコと笑いながらついてくる。
「ルナちゃんカッコいいよ。英雄っぽい雰囲気、出てきたじゃん」
「黙ってて、アスタリーナ。こんな状況でふざけるのやめてちょうだい」
ルナの声に焦りが滲む。
神官の報せが、脳裏をよぎる。漆黒の森へと放たれた刺客が誰かは知らないが、闇堕ちしてからのジュリアはすべてにおいて容赦がない。文字通りにこの森をすべて焼き尽くすぐらいのつもりで攻め込んできているはず。これから何人もの敵と闘うと考えると気が重かった。
「!」
突然、森の東側から轟音が響く。遅れて赤い炎が木々の隙からはみ出して、暗い森の中を照らしだした。
ルナは足を止め、目を細める。黒い煙が立ち上り、焦げた木々の匂いが鼻をつく。遠くで金属の軋む音と、兵士たちの叫び声が聞こえる。
「来たね、ルナちゃん!」
アスタリーナが興奮気味に囁く。
「このダークエルフの肉体には、サキュバスの力もちょっと混ぜといたんだから」
「なんですって?」
「淫魔のスキルを持っているから、チャームの魔法が使えるよ。敵を惑わせて、同士討ちさせちゃうの。あたしみたいに、ね」
彼女はハート型のジェスチャーをしながら、小首を傾げてルナにウィンクした。
「チャームって……そんな力、急に言われても」
ルナは戸惑いながらも、アスタリーナの言葉を頭に刻む。前世でルキアだった時代から、色気とは無縁の戦士だった。それだけに、チャームを使って相手をたぶらかす自分の姿があまり想像出来なかった。
とはいえ、漆黒の森が強襲されている今、使える手は何も使いたいというのが本音だ。
「分かったわ。ひとまずは敵を止めないと」
ルナは両手を広げ、ダークエルフの肉体に宿る魔力を呼び覚ました。彼女の掌から紫色の光が迸り、瞬く間に二振りの小太刀が具現化する。
その刃は闇を切り裂くように鋭く、魔力の込められた輝きは見る者を圧倒する色気を感じさせた。これが淫魔の妖刀なのか。
「いいねルナちゃん。すごく似合ってるよ!」
アスタリーナがはしゃいでルナの背中を叩く。
森の奥からはいまだに炎が伸びてくる。急がないといけない。さもなければこの森ごと焼かれてしまう。
「急ぎましょう。遊んでいる暇はない」
そう言うと、ルナは再び炎の上がった方向へと向かって走り出した。




