疑惑と確信
「何なの、このバケモノは」
ジュリアは圧倒的な力で兵士たちを殲滅したルナ・シャドウズに慄いた。その背後には巨大な判事の姿をした召喚獣。絶望的な光景が目の前に広がっている。
――このままだと、このバケモノに殺されるしかない。
ジュリアの胸に絶望が広がっていく。
ルナの足音が響く。死が、目の前へと近付いている。
「さて、どうやってこれまでの償いをしてもらいましょうか」
無表情で呟くダークエルフ。その顔には、人間味のない殺意だけがあった。
「う、あ……うう」
声にならぬ声。温かい水が、足を伝って床へ流れていく。ジュリアは恐怖のあまり、失禁していることにも気付かなかった。
――こんなはずじゃなかった。
インサニティ帝国を打ち倒し、世界の覇権は自分が握ったと思っていた。それなのに、こんなバケモノが世界の片隅に隠れていたなんて……。
「嘘だ。一人で、召喚が出来るなんて……」
その言葉通り、かつて自分の唱えた召喚魔法はルキアと一緒に唱えなければ使えなかった。一人でそんなことをすれば、ありえない負荷が肉体にかかって死んでしまう。
だが、目の前の女は明らかにその無茶な試みを成功させている。それも、いかにも慣れたような感じさえ漂わせている。
ジュリアはディカイオスの巨体を見つめ、闇の匂いを感じ取った。彼女の胸に焦燥が広がり、額に汗が滲む。
「なぜ……? 召喚魔法は、ルキアと力を合わせなければ使えなかったはず。あなたは一体、何者なの……⁉」
ジュリアの声は震え、混乱と恐怖が混ざっていた。
「さあ、なぜでしょう」
ルナは一歩近づき、冷たく微笑んだ。
「ここで問題です。さて、私はなぜ初対面のあなたにこれだけ強い怨みを抱いているのでしょう?」
ふいに始まったクイズ。追い詰められたジュリアの顔に困惑が広がる。
「十秒前」
答えないので、問答無用のカウントダウンを始める。それがゼロになる頃には命が無くなると理解出来たのか、ジュリアが慌てて答える。
「私が漆黒の森を攻めた……から?」
「ブッブー違いまーす」
ルナは小馬鹿にするような口調で言うと、小太刀を一閃した。刹那、ジュリアのドレスがスパッと切れてその奥の胸があらわになる。
もはや悲鳴を上げることも出来ない。あと少しズレていれば、乳房ごと切り落とされていた。
「あなたは、私を裏切った」
「何を……一体何を言っているの……⁉」
混乱したジュリアは、迫りくるダークエルフに抗議でもするかのように訊く。
「地獄の業火に焼かれるべき魔女はあなたよ」
その眼を見た時、ジュリアの中で点と線が結びついた。
この目つき、見たことがある。
かつて愛して、そして裏切った存在。
自分の虚栄も、見栄も、邪悪な本性も、何もかも見透かしたかのような瞳。
「あなたは……」
ジュリアは信じられないと言った顔で目の前の女を見つめた。
だが、その嫌な予感はほとんど確信にほど近いものに変化していた。
「あなたは、ルキアなの?」




