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民衆の怒り

 ジュリアが怒り狂っている頃、ルナはグランド・セレニスの闇に紛れて王宮を見据えていた。背後にアスタリーナが不気味な笑みを浮かべている。

「あーあ、あの女すげえキレてる。ウケるわー」

 ジュリアの周囲にいる人々はいつにも増して八つ当たりで被害を被っていた。先ほどからムチで打たれたり火系魔法で真っ黒な炭へと変えられる犠牲者たちが後を絶たない。

「彼女はずっと裁く側だったからね。きっと自分が裁かれる側に回るのは慣れていないのでしょうね」

 ルナは今日の天気でも答えるかのように言う。

「見ればわかるけど、ジュリアのババアは相当焦ってるだろうね。次はどうやって仕掛ける?」

 ルナは小太刀を握りしめ、感情の無い声で答えた。

「もちろんこれだけで終わりのはずがないわ。ジュリアにはディミトリの死だけでは足りない。彼女が築いた、偽りの正義と帝国の全てを終わらせる苦しみを与える」

 そう言うと、ルナは懐から小さな水晶を取り出した。

「なにそれ?」

「これからちょっとしたイタズラを仕掛けるわ。精霊ガーシーの力を使ってね」

 アスタリーナの質問に、ルナは半笑いでこたえる。その言葉通り、面白いイタズラでも思いついたような顔をしていた。

 取り出したのは、精霊ガーシーの封印された宝玉だった。精霊とは言うものの、ちょっとした使い魔のようなもので、普段は光の集まったような形で空気中を漂っている。

「ガーシー、目覚めなさい」

ルナが呟くと、水晶が青白い光を放ち、半透明の精霊が現れた。ガーシーは、まるで風のように揺らめく姿で、底意地の悪そうな声を発した。

「お前がルナ・シャドウズか。ディミトリの復讐はいい仕事だった。今回は何を希望するんだ?」

「ディミトリ・アドルテリオスの悪事を全て暴いてちょうだい。セレニティアの裏社会との取引、廷臣への裏切り、ダークエルフ虐殺の命令。あとはセレニティア中の美女を集めて夜な夜な乱交を行っているといった醜聞も」

 ルナはピザのトッピングでも頼むかのような調子で言う。

 ディミトリへの報復は、ただ殺すだけでは成立しない。ルキア・シェイドの尊厳ごと奪った彼には、死してもなお崇拝される聖人となってもらっては困るのだった。

 ルナは説明を続ける。

「ジュリアがディミトリを信頼していたように、セレニティアの民もディミトリやジュリアを信じている。その信頼を粉々に砕くの。ターゲットはクズなんだから、楽な仕事でしょ?」

 ガーシーが笑みを浮かべ、青白い光がグランド・セレニスの街中に広がった。

「お安いご用だ。今日は金曜日(フライデー)。ディミトリの汚い秘密、全部ぶちまけてやるよ!」

 精霊の力が解き放たれ、ディミトリが悪事を行う映像が、街の広場や酒場、市場の壁に次々と現れた。

 映像にはディミトリが賄賂を受け取り、ジュリアの命でダークエルフの村を焼き払う命令を出した証拠が映り込んでいた。その原理など問題ではない。百聞は一見にしかずとはよく言ったもので、映像を見た人々は衝撃とともに立ち止まる。

 映像はそれだけでは終わらない。

 セレニティア中から美女を集めて、ベッドで乱交を繰り返すディミトリの姿もしっかりと映り込んでいた。現場を押さえたわけではないので、実際にはほとんどが捏造した映像だ。だが、ディミトリの絶倫ぶりは一部で有名でもあったので、誰もその映像を偽物だとは思わなかった。

 グランド・セレニスの住民たちは、英雄ディミトリの悪事に衝撃を受けた。酒場では怒りの声が上がり、市場では廷臣への不信が囁かれ、王宮の門前には民衆のざわめきが響いた。

「ディミトリがそんな裏切り者だったなんて……!」

「女帝は知っていたのか?」

「ジュリアも同じじゃないのか?」

 次々と暴かれていく不正、不義、背任、犯罪。それらは英雄として崇められてきたディミトリ・アドルテリオスの虚像を完全なまでに破壊し尽くした。

 それまでは暗殺された悲劇のヒーローだったディミトリも、噂が拡散するごとに殺されて当然の下衆へと評価が反転していった。

 特に街中のうら若い娘を集め、媚薬を使って乱交を繰り返していたことの暴露は男性国民の強い反感を買っていた。その慰めものにされていた女性たちには、人妻も数多く含まれていたからである。

 精霊ガーシーは、媚薬の調合から接種、乱交後に魔法で忘却を図るところまでの映像をしかっかりと収めていた。精霊で一番下世話と言われているガーシーも、暴露のためであれば入念に記録を取っていた。

 人々は怒り、あちこちで暴動を起こしはじめた。

 死んだからと言って許されるわけではない。国民の知らないところで、好き勝手に振舞ってきた君主たちへの怒りはすさまじいものになった。

 ヴォトゥム・ルクス教会で晒されていたディミトリの死体には火が放たれた。怒れる暴徒たちにとっては、もう一度火刑によってディミトリを処刑する必要があった。趣味の悪いオブジェのように飾られていたスキアたちの頭部も、ついでとばかりに燃やされた。もはや彼らは英雄でも悲劇の象徴でもなく、自分たちを裏切った悪魔としか思われていなかった。

 怒りのデモ行進が起こる。

 ディミトリを引き入れたジュリア・マリス・バックスタバーに責任を取らせろ。その怒りは、恐怖政治で支配されていた国内にも燎原の火の如く広がっていった。

民衆の不満は止まらない。ジュリアへもその矛先は向けられ、盤石であったセレニティアの権力構造にも亀裂が走りはじめている。帝国を倒した後のジュリアは評判も芳しくなく、憶測や嘘も交えた悪い噂はすさまじい勢いでセレニティア中へと広がっていった。

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