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相対する憎悪

 ――翌朝、ヴォトゥム・ルクス教会の惨劇はグランド・セレニスに激震を起こした。

 教会の門前にはスキア率いる暗殺者集団の首が、血まみれの槍に突き刺されて並べられていた。

 スキアの顔には、ディミトリと同じ恐怖が刻まれ、暗殺者たちの黒装束は血と泥に汚れている。第一発見者が腰を抜かし、住民たちは恐怖に恐怖が広がった。この教会が恋愛成就のパワースポットとして思い起こされることはもう無いだろう。

 王宮の広間ではジュリア・マリス・バックスタバーが玉座に座り、青い瞳を震わせていた。廷臣たちのざわめきが止まらず、報告を携えた将軍が震える声で進み出た。

「女帝陛下……ヴォトゥム・ルクス教会で、ディミトリ・アドルテリオスの遺体が十字架に吊るされていました」

「ディミトリが……。そんな、嘘よ」

 あまりに衝撃が強すぎたか、ジュリアは心ここにあらずと言った表情で言葉を返す。

「それだけではありません」

 将軍はいかにも申し訳なさそうに、遺憾の意をあらわにしつつ続ける。

「スキアと暗殺者集団までやられました。全滅です。彼らの首が、教会の門前に……」

 ジュリアの顔が青ざめ、肘掛けを握る手が震えた。

 スキアの存在はジュリアも知っている。彼の抱える部下たちはセレニティア屈指の暗殺者集団で、狙われた者は己の不運を嘆くしかないほどの実力者たちだった。

 その彼らが殺され、見せしめのように生首を並べられるなどと狂気の沙汰でしかない。

「ディミトリも、スキアも……? これらがすべて、ルナ・シャドウズの仕業なの?」

 ジュリアの声は低く、驚きと戸惑いが交錯していた。そして、その動揺はすぐに怒りへと転化される。

 廷臣たちの視線がジュリアに集まり、大広間の空気が凍りつく。怒り狂ったジュリアが何をするか分からない。死も含んだ盛大なとばっちりが今に来てもおかしくない。誰もが息を飲み、恐怖に震えそうなのを堪えていた。

 ディミトリと過ごした日々が脳裏をよぎる。

 彼と出会ったのは、セレニティアの人質として十歳でインサニティ帝国へと送られた時だった。その時にジュリアの世話役を務めたのが当時十七歳のディミトリだった。ディミトリは皇帝ガリオス・ブラッドヴェインの盟友でもあり、部下からの信頼も厚かった。加えて容姿が優れていたので、インサニティ帝国の女性たちはディミトリの活躍に熱を上げた。

 すがる者も無く、対話相手もいなかったジュリアはすぐにディミトリへと懐いた。それがのちにA級戦犯のディミトリが処刑を免れた理由でもある。

 十歳の頃からディミトリに世話をされている内に、年の離れた兄を慕う心は、知らぬ間に恋心へと変わっていた。

 そのような流れもあり、にわかにディミトリが死んだと言われても信じることが出来なかった。怒りは感じているものの、現実を認めていないせいか悲しみが追い付いてこない。きっとそれは向こうから勝手に押し寄せてくる。

 ジュリアは悲しむべき心理に蓋をする。今はそれよりもやるべきことがある。

 瞬間湯沸かし器のように沸騰する怒りは、ジュリアの顔を醜く歪めた。

「ルナ・シャドウズ……。ダークエルフごときが、どこまで私を追いつめるつもりなの?」

 ジュリアは玉座を強く握る。席から立ち上がり、廷臣たちに命じた。

「ルナ・シャドウズは必ずこの町にいるはずよ。グランド・セレニスをくまなく探し、見つけ次第に殺しなさい!」

 ジュリアの声は大広間に響き、廷臣たちは恐怖を押し殺しつつ(こうべ)を垂れた。

 だが、誰もが密かに思っていた。

 スキアやディミトリがあれほど無残な殺され方をするのであれば、到底自分たちのかなう相手ではないことを。

 そして、怒れるジュリア以上に、ルナ・シャドウズは激しい憎悪を女帝ジュリアへと向けていることに。

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