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淫魔の力

 ディミトリ・アドルテリオスの寝室は、むせ返る臭気と熱気に包まれていた。

 美しいカマルの上で、ディミトリは惰性で激しい律動を繰り返していた。接合部には温い液体と精液が溢れ、ビチャビチャと水を叩く音が響いていた。

 汗と快楽にまみれたディミトリの顔は、かつての英雄の威厳を完全に失い、ただの獣と化していた。

 ……いや、それも少し前の話になる。

 今のディミトリは何時間も延々と続く性交で、みるみるとその体力を奪われていく。

「お前、一体何者だ……」

 ディミトリの声は掠れ、恐怖と快楽の狭間で震えていた。

 不思議な感覚だった。ずっと快楽が溢れ続けるのに、本能が絶えず危険信号を発し続けている。このまま快楽に溺れても良さそうなものだが、そうすることで死へ近付いていくような危うさを感じる。

 とっくに真っ白となった意識の中で、気を失わないようにしながら相手を見下ろす。接合部は溶接でもしたかのようにガッチリと固まり、下にいるカマルの足がシートベルトのような強さでディミトリの腰を固定している。

 カマルの瞳は赤黒く輝き、ヒジャーブの上からでも冷たい笑みを浮かべているのが分かった。

「なあ、どうして君はそんなに体力があるんだ?」

 冗談めいた口調で訊くが、実際のところは必死だった。

 自分にベッドの上で勝てる者など、どこにもいないと思っていた。

 だが、目の前の女は明らかに絶倫を超えた絶倫の自分を喰おうとしている。これまでに幾多の闘いを切り抜けてきただけあって、そんな女がよりによって一般人の中に潜んでいるなどと考えられるはずもない。

 すさまじい勢いでHPが削られていく。人間の女を相手に、ありえない現象が発生している。

「あなたを腹上死させるためよ。ディミトリ・アドルテリオス」

「腹上死か。なかなか面白い冗談を言うな。要はそれぐらい盛り上がろうということだな? 嫌いじゃないぞ、そういうの」

「まだ分からないの?」

 カマルは急に冷たい声で笑う。むせ返る熱気に包まれていた寝室の空気が、一気に冷たくなる。

「まだ分からない、だと……?」

 ディミトリは要領を得ず、抽送を繰り返しながらも首を傾げた。いや、どちらかと言えば近付いてきた体力の限界で、そこまで頭が回らなかったというのが正しい。

 カマルはゆっくりとヒジャーブを外す。その顔を見たディミトリは凍り付いた。

「まさか……お前は……」

 目の前の女は、配下の者が送ってきた報告と容姿が酷似していた。

 褐色の肌に赤黒い双眸(そうぼう)。筋肉質でほっそりした体に、尖った耳を持った長髪の美女。

「お前が、ルナ・シャドウズなのか……?」

「正解。ちょっと遅かったけどね」

 そう言って微笑むルナの両目が赤く光る。それとともに、周囲には術式(スペル)の刻まれた輪が現われはじめ、結合する二人の周囲を囲んでいく。

「き、貴様……! 一体、何をするつもりだ?」

「私には、サキュバスの血もちょっと混じっていてね」

 ルナがそう言って指を鳴らすと、ディミトリの肉体が結合部へと吸い寄せられていく。

「なっ……なんだ、これ、は……?」

 ディミトリの声が恐怖に震える。

 それもそうだ。ルナの割れ目はディミトリから生気を吸い取っていく。まるで、ゴクゴクと一気飲みでも始めたかのように。

「うぅおあ、お前、何を……⁉」

「言ったでしょう? 私にはサキュバスの力もあるの」

 ディミトリを飲み込みながら、ルナ・シャドウズが艶然と笑う。

 ――ソウルバインド・ドレイン 。

 繋がった相手から、魂と生命力を吸い取る淫魔の秘技。

 ディミトリの体が徐々に萎んでいく。真空パックから空気を抜いていくかのように。

「うおお、やめろ。その技をやめろおおお!」

「やめないわ。どちらにしても、あなたはこの後でさらなる報いを受けることになる」

「俺が、お前に……何を、したと……言うのだ……!」

 みるみる生命力を奪われるせいで、ディミトリの声も途切れ途切れになっていく。

「何をした、ですって?」

 ルナの目が一気に鋭くなっていく。

「色々な証拠を検討した結果、君は国家の反逆者であることが分かった」

 ふいにルナがディミトリとそっくりな声で芝居じみたセリフを口にする。

 その言葉は、かつてディミトリ自身がある人物へと言ったことがあった。

「お前、もしかして……」

 ディミトリの顔に恐怖が浮かぶ。

 ルキアを火あぶりにした時の映像が蘇える。

 特大の炎で、真っ黒に焦げた死体。それをはっきりと見たはず。

 それなら、どうしてそのルキアがここにいるのか……?

「そんなバカな。だって、あの時お前は炎に焼かれて死んだはず……!」

 半ば救いを求めるかのように叫ぶ。話しながらようやく気付いたが、ルキアはダークエルフなどではなかった。色白で金髪の美しい女騎士だった。耳も尖ってなどいなかったはず。

 そうだ、この女はいい加減なことを言って俺をからかおうとしているだけだ。そう思うと、危機的な状況でもどこかおかしくなってきた。

 笑みさえ浮かべそうになった頃に、その余裕は一瞬で打ち消される。

「言ったでしょう。必ず戻って来るって」

 ルナは残酷な笑みを浮かべる。その目つきは、嘘をついている人間のものではなかった。言い換えれば、ルナはどうあってもディミトリを殺すと決めているようだ。

 ディミトリは石にでもなったかのように動けなくなった。

「それからこうも言ったわね」

 恐ろしい顔で微笑むルナは続ける。

「あなたたちに復讐を遂げるって。私は、約束をちゃんと守る女よ」

「うあああああああ!」

 狂ったように叫びだすディミトリ。だが、すでに何もかもが遅かった。

「安心して。この後にはすぐジュリアにも後を追わせるから。あちら側でも、二人仲良く暮らしていくのね。行き先は地獄だけど」

 ソウルバインド・ドレインの威力が増していく。

「あ、が、がぁ……っ!」

 狂ったように叫ぶディミトリは、声も出せなくなるほどルナ・シャドウズに吸収されていく。水分の無くなった肌はひび割れ、パキパキと乾いた音が寝室に響いていく。

 やがて何もかも吸い取られて枯れ木のようになったディミトリは、ルナとの結合部がポキリと折れてベッドへ横たわった。即席で作られた、肌のきれいなミイラの出来上がりとなった。

「さて、これはあの場所に飾っておきましょうか」

 ミイラになったディミトリを見下ろすルナは独りごちる。

 一人目のターゲットを計画通りに抹殺した。

 あとはメインディッシュのジュリアが残っている。

 ただの復讐で終わらせようとは思わない。

 自分の味わった屈辱の、何倍もの苦しみをあのクソ女帝に味合わせる。

「それじゃあ、素敵なプレゼントでも送りましょうか」

 ルナは冷たい笑いを浮かべる。

 この時点で、次にやることは決まっていた。

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