ファム・ファタール
数十分後、ディミトリの寝室にはむせ返るような匂いが充満していた。オスとメスの欲望が放出された臭気。それは、湯気のように浮かんでは室内の空気を汚していく。
媚薬漬けで狂ったように何度も腰を振り続けた女たちは、力尽きて気を失っていた。人知を超える絶倫ぶりを見せたディミトリも、獣のようなまぐわいを立て続けに終えると気を失いかけた。
「たかだか準備運動で張り切り過ぎたか」
ディミトリは自身に回復魔法をかける。みるみると全身に力が漲ってくる。それは単に魔法の効用だけではない。外で控える、ヒジャーブで顔を隠した女への期待からだった。
あの布の裏側にはどんな顔が隠されているのか。案外普通か、下手をすれば不細工な顔が隠れているかもしれない。
それでも、ディミトリの勘は告げていた。あの女は途轍もなく美しい顔立ちをしていると。
ディミトリは指を鳴らせると、外で待っていた従者たちに気絶した女たちを片付けさせる。どれだけ美しい容姿をしても、一度抱くと興味が失せる。それはジュリアも同じことだったが、彼女にはまだ利用価値がある。
彼女たちにはここであったことを忘れてもらわないといけない。それこそ、自分は夢でも見ていたのかと思いながら元の生活に戻ってもらうのが好ましい。
そのために専用の魔導士に忘却の魔法をかけさせる。彼女たちのために。ジュリアにこのことが知れたら、彼女は今日抱いた女たちをむごたらしく処刑するはずだ。そこまで俺は鬼畜じゃない。ディミトリはそう自分に言い聞かせる。
「待たせたな。それでは素敵な夜を、存分に楽しもうじゃないか」
外へ出ると、カマルと名乗るヒジャーブで顔を隠した女性へ手を伸ばす。カマルは感情の読み取れない目でディミトリを見つめ返すと、細い指先でその手を握り返した。
ディミトリの鼓動が高鳴る。まるで初恋でもした時のように、目の前の相手を本気で欲しいという欲求が腹の底から湧き上がってくる。
「これは運命の出会いかもな」
ジュリアに会った時ですら、そんな言葉は吐かなかった。
――そう、この出会いは間違いなく運命的なものになる。
ヒジャーブの裏側で、カマルは静かに嗤った。




