黒い百合
静かになった夜の森は、血と焦げ臭さが漂っていた。
ルナ・シャドウズはあちこちに倒れている仲間の遺体を見つめていた。それほどよく知らない人々でも、ついさっきまで生きていた仲間が無残な姿で死んでいるのは嫌な光景だった。
アスタリーナがふわりと浮かび、静かな声で囁く。
「ルナちゃん、こんな目に遭っても、まだジュリアを許すつもり?」
ルナは答えない。代わりに、彼女は倒れた神官の女性の傍らに膝をついた。転生し、目覚めて最初に話しかけられた神官。腹部の周辺を何度も刺されたのか、その割には安らかな顔で眠っていた。
白い神官服は血に染まり、口うるさかった女は抜け殻と化している。
「名前ぐらい聞いておけば良かったわね」
彼女はきっと、人々に希望を与え続ける存在だったのだろう。ルナの手が震え、神官の冷たくなった手を握る。
アスタリーナの手が、そっとルナの肩に触れる。
「ルナちゃん、これはジュリアのやり方だよ。彼女は手段を選ばない。こんな卑劣な手を次々と繰り出してくるの。それが彼女の裏の顔」
ルナは立ち上がり、小太刀を握りしめる。
「今すぐに行きましょう」
ルナはミリアの遺体に向かって十字を切ると、森の外へ足を踏み出した。背中の紋章が再び熱を帯びる。
神の器は報復のために創られたわけではない。それでも、ルナはこの力を報復のために使おうと思った。
ジュリア・マリス・バックスタバー――彼女は世界を救った聖女なんかじゃない。
その化けの皮を剥がし、今まで犯してきた罪を丸ごと償わせる。
ジュリアの言っていたことに一つだけ同意出来ることがある。
――百合の季節はもう終わったのよ。
彼女の言う通り、二度と百合の花が咲くことはない。
そこに広がるのは、白い百合の花などではない。
復讐や憎悪を意味する、黒い百合が花開こうとしている。
「必ず、償わせるわ」
その声は冷たく、感情が無かった。
漆黒の森が風に揺れ、木々のざわめきがルナの決意に応えていた。




