闇の者たち
「さて、我々に立てつくメス犬をどうにかしないとな」
ディミトリはむせるような熱気に包まれたベッドでひとりごちる。
ベッドの周囲には矯正を上げ続けて力尽きた女たちが何人も転がっていた。英雄色を好むとはよく言ったものだが、ディミトリの性欲はそれにも増して人並み外れていた。
――セレニティア共和国の都、グランド・セレニス。
ディミトリ・アドルテリオスは女たちの倒れた自室を後にし、地下に建設した訓練場へと向かった。
薄暗い石造りの廊下に、ディミトリの足音が冷たく響く。その顔には、国の英雄とは思えないほど冷え切った影があった。
訓練場には、呼び寄せた暗殺者集団が集結していた。
黒装束に身を包んだ殺し屋たち。その先頭に立つのは、スキアと呼ばれる男だった。
漆黒のマントに身を包み、仮面の下で紅い目が光る。手に持つ双頭の鎌は、闇そのものを切り裂くような、禍々しい気を放っていた。スキアの周囲には、同じ黒装束に身を包んだ十数人の暗殺者が静かに命令を待っている。
ディミトリはスキアに近づき、冷静に告げた。
「スキア、女帝陛下の命だ。漆黒の森へ赴き、ダークエルフとルナ・シャドウズを排除しろ。奴は召喚獣を操り、我が軍の主力部隊を壊滅させた。お前たちお得意の『転送』を使い、ダークエルフを一掃してこい」
スキアは低く笑い、鎌をもてあそんで空気を切り裂いた。
「ルナ・シャドウズ……面白い獲物だ。だが、ディミトリ殿、女帝の命に従う前に、報酬の確約が欲しい」
スキアの声は冷たかった。そこには反論の余地など無いとでも言うかのように。
「我々が成功すれば、裏社会の支配権をいただく。国家も決して俺たちを排除しない。それでいいな?」
ディミトリの眉がわずかに動いた。スキアの要求は、殺し屋集団と国家が大々的に手を組むということを意味する。直ちにディミトリの頭脳が慢性的な計算をはじめる。
「分かった。お前たちの望むものを与えてやろう。ただし、ルナ・シャドウズの首を女帝の前に差し出せ。それが条件だ」
スキアは仮面の下で嗤い、黒装束の暗殺者たちに目配せした。
「お安い御用だ。さて、行くぞ、皆の者よ」
次の瞬間、スキアと暗殺者たちは黒い霧と化し、一瞬にして姿を消した。固有のスキルである転送が発動した瞬間だった。
訓練場に残されたのは、ディミトリの浅い吐息だけになった。
「今度は失敗してくれるなよ」
誰もいなくなった空間に向かって呟く。
スキアはお安い御用といったが、そのような相手には思えない。
果たして地獄を見るのは、ダークエルフと殺し屋たちのどちらになるのか。




