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本音と建て前

「まったく、手の付けられない女どころかモンスターの領域に達しているな、あの女は」

 自室に戻ったディミトリは独りボヤく。

 敗走してきたとはいえ、漆黒の森での惨敗を報告してきた兵士にはそれなりの責任があったはずだった。

 あのまま誰にも見つからぬ所へ逃げていくのはたやすい。だが、あえてそうせずに女帝に忠義を尽くした結果、文字通りに燃やされるなど理不尽に過ぎる。

 恐怖での支配には限界がある。それは少しずつ臣民の鬱憤として蓄積されていき、ある所で大爆発する。その怖さを知っているからこそ、かつての盟友ガリオス・ブラッドヴェインは民の心理を汲み、互いを尊重するような政治を目指してきた。

 だが、今のジュリアの横暴は目に余る。

 いくら帝国の脅威から民を救った英雄とはいえ、これでは侵略者が圧制で国民を恐怖に陥れる暴君へとすり替わっただけの話になってしまう。そんなことはあってはならない。

「昔は、それこそ心優しい王女だったのにな」

 ジュリアが十歳の頃から見てきたのもあり、ディミトリは一層切ない気持ちになった。少なくとも少女であった頃のジュリアは、あれほどのバケモノではなかったはず。

 だからこそディミトリも大人へと成長したジュリアを愛した。付き合い始めた頃のジュリアは、理想的な形で大人へと成長していたはずなのに。

「女という生き物はよく分からない」

 決して本人に向かっては言えない本音が漏れる。もし聞かれたら、次に炭へと変えられるのはディミトリかもしれない。

「まあいい。俺は俺で、ジュリアの目につかないところでいい女を抱くだけだ」

 本音と建て前。それは守らないといけない。

 ジュリアがどこまで鋭いかは知ったことではない。どうあれ、あの暴君でしかない女だけを人生の伴侶とするのには無理がある。

 上手く遊べば何を言われることもない。

 それが分かっているだけに、ディミトリは冷静さを保つことが出来ていた。

「さて、街中からいい女を集めさせるか」

 そう呟いたディミトリの顔は、ほんの束の間だけ仕事を忘れたオスの顔になっていた。

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