エピローグ
ずきずきと頭の痛みを感じながら目が覚めた。あー、やっぱり夢だったんだなぁ。寝ぼけてベッドの固いところに頭をぶつけたんだろうか。それにしてもドラマチックな夢だった。
「よかった、目が覚めたのね。私を助けてくれてありがとう」
ふと見ると、ベッドの横にミコちゃんがいた。おかしいな、もう夢は終わったはずだけど。
「ええっと、……ここは?」
「病院で、もう夜中よ。握手会はキャンセルになって、今日の仕事もなくなったから貴女の様子を見に来たの。今、マネージャーが外で、貴女の家族に連絡してるわ。出血はないけど、頭を蹴られてたから今夜は入院ね。そろそろ私も帰らないと。治療費はこちらで持つから」
「……女の人は? どうなったの?」
「警察に逮捕されたわよ。私も事情を聴かれて、その警察さんが言うには、思い込みが激しい女性だったみたい。私が男性アイドルと付き合ってるって思ってたらしいわ。実際は会ったこともなかったのに。持ってたのはセラミックナイフで、だから金属探知機にも引っかからなかったんだって」
ミコちゃんが言うには、男性スタッフが女性を取り押さえてくれたそうで。私は意識を失ったあとも彼女の足を掴んでいて、スタッフさんが引きはがすのに苦労したらしい。変なところで迷惑をかけていて、恥ずかしい限りだ。
「凄かったわね、ナイフを落としたときの動き。剣道は私より長く、続けてるんでしょう? 昔っから格好よかったものね、貴女」
「……私を覚えてるの? 嘘でしょ?」
「嘘じゃないわよ。引っ越しで貴女と会えなくなって、それで剣道も嫌になって辞めちゃったんだもの、私。忘れたことなんか無かったし……もう一生、忘れられないわ」
連絡先を交換しましょう、とミコちゃんが携帯を取り出す。私の携帯も使って、手早く作業が終わった。ミコちゃんが立ち上がって、病室から出る前、私へと振り返る。
「これからも私を愛してね。私も貴女を愛してるわ」
ウィンクを決めてミコちゃんは出ていった。現実感がなくて、私はベッドに寝転がる。
現実感がないということは、今の現実は夢なのだろうか。そう言えば目覚める直前のことだけど、確か、私の唇には柔らかい感触があったのだ。ますます夢のようで、私は深く考えるのを止めた。
夢を与えるのがアイドル、とよく言われる。そうだろうなぁと思った。夢としか思えないような現実をミコちゃんは見せてくれて、きっと彼女の魅力に、これからも私は翻弄され続けて生きていくのだろう。