第七話 全てが報われる魔法
「すごいでござる!!」
「ふふっ、これから宜しくね、えーと…ツバ…キ?」
ギリギリ名前思い出したね!賢いぞナナちゃん!でも覚えやすくて好都合って言ってのにね!
「宜しくとはどう言う事でござる?まさかずっと拙者の手伝いをしてくれると?」
「そうなるわね、そしてナナの固有魔法は…えーっと…長いのよ、終わるまで」
「魔法の効果が切れるまで時間がかかるって事?ナナちゃん、それってどのくらいの時間なの?」
「え?うーん…魔法が切れたらお終いよ。そうよ、ふふっ…ナナの魔法はね…止まり方を知らないのよ、凄すぎて」
なるほど!自分で止め方を知らないのか!流石ナナちゃん!ちょっとだけドジな所も可愛い!
「物を直す魔法なら拙者にピッタリでござる!これで…みんなの手助けも出来るでござる!」
「そ、そうね。ナナも明日から忙しくなるわね」
うーん…大丈夫だろうか…。
………………………。
次の日、ナナちゃんとツバキは町に行くというので僕も同行する事にした。
ナナちゃんの言う切り替え?的な魔法…切り替えってなんだろう。
「まずは昨日壊してしまった馬車と屋根と壁と水路、あと花瓶と…あと屋根を直しに行くでござる!」
そうか…昨日だけでそんなに…しかも屋根は二つも壊したのか…。
「ナナ殿!どんどん直すでござる!!」
「ふふっ、ナナの自ずと改めんにかかれば簡単な事よ…えーっと、その…高い所の物を取るくらい簡単よ」
ナナちゃんは例えがすごく下手だな!うん!可愛いよ!もっとちょうだい!
………………………。
「今日は失敗しなかったでござる!!」
「ふふっ、流石ね…まるで…」
「いやちょっと待ってくれる?」
なんだろう、このモヤモヤする感じ。
確かに失敗もしなかったし壊れた物は直った。
しかし疑問が残る、完全に直った馬車、屋根、水路。
しかし一方で直した花瓶は物自体が変わっていたし、二つ目の屋根は色が変わったような…。
完全に復元された物と不完全な物、そして一番気になるのが…
「すごくあっさり終わったでござる!」
「ふふっ、ナナの力はものすごいから…それも当然の事。えっと…まるでそれはその…半端ない」
そう、なんというか…本のページを捲ったような感覚?
「いやぁ気分が良いでござる!みんなの役に立ったでござる!次はどんなお手伝いを…」
みんなから感謝を告げられ、夢気分なツバキ…いやお前、そんなに道の真ん中歩いたら危な…
「危ねぇ嬢ちゃん!!避けろぉおおお!!」
「へ?でござる」
次の瞬間僕は鈍い音を聞いた。人間が馬車に轢かれる音、踏み潰され…血飛沫が舞い上がる…。
何が起きた?なぜ急に?いや、僕も考え事をしていた…しかし馬が街中で暴走するなんてそんな…。
………………………。
「いやぁびっくりしたでござる!あまり調子に乗るなというお告げでござるな!」
「ふふっ、危なかったわね。死んだかと思ったわね」
「うん、絶対死んだと思ったね、無事なのが不思議なくらい。というか死んで無いの?」
うーん…二人は全く気にして無いけど…なんか釈然としないような。
二人は意気揚々と次の困った人を探しに歩き出す。
モヤモヤするなぁ…
そういえばツバキは修行とか言ってたけど完全に忘れてるよね。
「おぉ、キリノじゃないか。珍しいな、自分から出歩くなんて」
「お父様、お元気そうで何よりです」
声のした方に振り向くとアスフォードとマメちゃん!二人でお買い物中?なにそれ!羨ましい!
「あら、マメじゃない。私も成長したのよ、見てよこの姿。知的なナナにピッタリの美しさでしょう?」
「ナナが知的?あり得ません。それでお父様、今日はお買い物ですか?」
「ふふっ…ふふ…」
マメちゃん、もう少し優しくしてあげて…。ふふって声に出してるだけで全く笑ってないよナナちゃん。
「キリノ、その精霊も固有魔法があるのか?」
「あるでござる!ナナ殿の魔法は物を直す魔法でござる!」
「物を直す?まあそれは便利そうだが…なんというか…」
「うん、思ったより普通?まあナナちゃんの魔法だからすごいんだよ」
「お父様、何か気になる事でも?」
「うーん…」
僕は感じた事や疑問に思った事をマメちゃんとアスフォードに話してみた。
ツバキは話の途中で遠くに迷子を見つけて走っていってしまった…。
「ツバキは確かにアレな感じだからなぁ…物を直せるだけでそこまで上手く行くとは思い難いが…」
ツバキは走り去って良かったかも知れない。
アスフォード、結構直球で言うね。
ナナちゃんに同じような事言ったらぶん殴るからね。
「少し気になりますね…ナナは自分の固有魔法を切り替えと言っていたんですね?」
「うん、切り替え?的なって言ってたよ」
「ナナはおバカですからね、それはきっと…私の時計仕掛の人魚に似た魔法です。しかし…説明が難しいですね…」
マメちゃんでも難しいの?時間をどうにかする魔法?
困惑する僕にマメちゃんは説明を続ける。
「物の直り方が違う、一瞬死んだと思ったツバキ様が次の瞬間元気だった、ナナの言う切り替えの能力。そして固有魔法名『自ずと改めん、これらから推測するに、ナナの固有魔法の能力は…場面の切り替えです」
「うん?ちょっと分からないかも」
「場面を切り替えるという事です。つまり、ツバキ様は自分で物の修理や怪我の治療をしています。なので服は綺麗に直せてもボロボロの手紙は完全に修復はできなかった」
「うーん、つまり?」
「例えば壺が壊れたとします。ツバキ様はその壺を一生懸命に直します。そして直った結果をお父様は見せられているのです」
なにそれ…じゃあツバキが出来る範囲なら全て成功する結果が出るって事?
「じゃあさ、例えば一万人の敵がいたとして、一人づつ倒す事さえできれば、僕達はツバキが一万人を倒した結果だけ見せられるって事?」
「そうです。本でありますよね、前の話で大怪我をしたドジな男が次の話で元気にまたドジを踏むような事です。つまりデタラメなご都合主義の魔法と推測します。そして本人にその自覚はありません」
「本人も?じゃあツバキはなんか良く分からないけど上手くいったぞ!って思ってるって事?」
「おそらくそうです。そしてナナも能力が分かっていません。自動で発動しているのでしょう」
うわぁ…なにそのギャグみたいな能力…ナナちゃん…すごいぞ!流石僕の精霊!
「泥棒だー!捕まえてくれぇ!!」
大体能力を推測した僕達の後ろで物騒な声、しかし振り向いた時には…
「捕まえたでござるー!!」
「ふふ…御用だ御用だって事ね…」
うーん…
「うわぁ!!狐の嬢ちゃんの頭に花瓶が落ちたぞ!早く医者を…!!」
「元気でござるー!!」
「ふふ…怪我の功名って事ね…」
おぉ?
「大変だ!!魔獣が押し寄せて来たぞぉ!!」
「倒したでござるー!!」
「ふふっ…死ぬ覚悟があるヤツだけ…うーん…死ぬって事ね…」
まあ良いか…。ツバキだったら無害だろう…。
この日、最強の便利屋が誕生した。
多分もう修行の必要は無いけどね。