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第六話 悪気がない善意

「ななー」


「ナナちゃん、帰ってたの?」


人工精霊のナナちゃん。いつも外出しており、たまに帰ってきてまたどっかに行ってしまう。


そんなところがまた可愛いんだよね。


今は昼下がり、最近入院させられたりして忙しかったが、この家で精霊に囲まれている生活が何よりの幸せ…。


「お手紙でござるー!!」


そんな幸せな時間にノイズのような声が玄関から聞こえる。

手紙か…いつもは無愛想な歳食った人間のオスなのに今日は騒がしいな…。


手紙といえばジークあたりか?ウルちゃんの様子とかこまめに送ってくれるんだよね。連れてきてって話なんだけど。


玄関を開けると摩訶不思議な黒装束のセリアンス(獣人)の女の子が立っていた。黄色の大きな耳に尻尾、狐か?しかしひどい露出だな。


「手紙でござる!!」


「うん」


「拙者は手紙を運んで来たでござる!!」


「いや、分かったから手紙は?」


「無くしたでござる!!」


ん?


「いつも手紙届けてくれる歳食った人は?」


「腰をやったそうなので拙者が代わりに手紙を届けているでござる!!」


「そうなんだ、んでその手紙は?」


「無くしたでござる!!」


世の中にはこんなに頭の悪いヤツもいるのか。勉強にはなるが知りたくはなかったよ。


「手紙無くしたのになんで来たの?」


「はて?」


不思議そうに小首を傾げる女。何?僕が何か変な事言ったみたいな空気にしないでくれる?


「とりあえず手紙探して来てよ、大事な内容かも知れないんだから」


「承知!!」


セリアンスの女の子は一瞬目の前から姿を消し、気がつくと遥か遠くを走っていた。


「なーなー」


「ね、ナナちゃん。ああ言う人も居るんだよ。勘弁して欲しいよね」


部屋に戻り扉を閉めた瞬間またあの女の声が聞こえた。


「手紙でござる!!」


いくらなんでも早すぎる、もうジークの所行って新しい手紙書いて来てもらってよ。それか連れてきて頼むから。


「ウソでしょ?こんな早く見つかる訳ないじゃん」


「持っていたでござる!拙者が!」


知能が低い女は自分の胸元に手を入れて手紙を取り出した。別に良いけど今度から普通に持ってきてよ。汗とか付いたら嫌だから。


「拙者は忍者故!大事な物は肌身離さず持っているのでござる!」


「あ、うん。じゃあお疲れ」


「あっ……」


何か言おうとしていたようだがこれ以上喋ると何故かまた手紙を無くされる気がする。

関わり合いにならない方が良いんだ、ああいうタイプとは。


……………………。


「はぁ…」


私はまた失敗してしまった…。


修行の為に都会に出てきたのは良いものの…何をすれば修行になるか分からないまま手当たり次第人助けに首を突っ込む毎日…。


失敗ばかりで何の役にも立ってないし修行にもならない…せめて…人のありがとうが聞きたいでござる…。


町に戻りトボトボと歩いていると知り合いに声をかけられた。


「あ!ツバキさん!ちょっとお使い頼みたいんですけど」


「エレノア殿!良いでござる!いつも世話になっているでござる!」


アスフォード病院の助手のエレノア殿。拙者が怪我をすると無償で直してくれるのだ。

その代わりにこうやってたまにお使いや力仕事を手伝っている。


「町外れに住んでいる変わり者の人の話を聞かないキリノって人に手紙を運んで貰えますか?家の周りに精霊が沢山いるのですぐ分かると思います」


キリノ…さっきの人のところだ!今度こそしっかり届けるでござる!


「任せて下され!!」


拙者は手紙を受け取ると胸元にしまって走り出す。

すると途中にうずくまっているお婆さんを見つけた。


「大丈夫でござるか!?」


「だいじょうぶだよ…胸が苦しくてね…大丈夫さ…少し休めば…」


「それは大変でござる!!!拙者が医者まで連れて行くでござる!!」


「いや本当に大丈夫…」


拙者はお婆さんを抱き抱えて医者まで走る、拙者の速さなら一瞬でござるよ!


「エレノア殿!!病人でござる!!」


「大変!すぐに処置をします!って…」


「ひぃ…心臓が止まるかと思ったよ…」


「あの…ツバキさん…このお婆さんはさっきここを出たばかりです…。退院したばかりで少し休みながら家に帰っているところだったと思いますけど…」


「えっ…それは…申し訳ないでござる…」


「少し心配なので一応もう一度診察します…」


そう言うとエレノアとお婆さんは奥の部屋に入っていった…。


また…やってしまったでござる…。


トボトボと歩いてキリノの家を目指して歩いていると、前方に片方の車輪が外れてしまった馬車を見つけた。


「大丈夫でござるか!手伝うでござる!!」


「ありがたい話だが…君のような女の子の力では…」


「拙者は力には自信があるでござる!」


「いや…そうは言っても…」


忍術で物の重さを軽くするなんて簡単でござる!こういった頭を使わない仕事なら拙者にだって!


「見ているでござる、拙者が持ち上げたら車輪をはめるでござる!それでは!そりゃあ!!」


次の瞬間宙を舞う馬車、その次の瞬間地面に叩きつけられる馬車、そして残った瓦礫の山…。


「も…申し訳ないでござる!!」


「い、いや…大丈夫だよ…もうだいぶ古かったし…ただこの瓦礫をどかすのだけは手伝ってくれないかい…」


「申し訳ないでござる…」


その後も迷子をお母さんに届けようとしてスラム街に入って恐がらせてしまったり…雨漏りを直すのを手伝って屋根を破壊したりと迷惑をかけっぱなしだった。


「はぁ…今日も失敗ばかりでござる…せめてこの手紙だけでも…え?」


無い、手紙が無い。どこかで落とした?どこだ…でも…探さないと!


………………。



「手紙でござる…」


深夜、僕が寝ていると枕元から声が聞こえる。夢にしては随分とリアルな…。


「申し訳ないでござる…遅くなってしまったでござる…」


「夢じゃないのか…なんで僕のベッドの横にいるの?どうやって入った?」


「それは忍法で…」


忍法ってなに?魔術とかとは別なの?

灯りを付けてみるとボロボロになった服でずぶ濡れの女の子が立っていた。


「何?天災にでも囲まれたの?」


「手紙を持ってきたのでござる…途中で落としたので探していたらこんな時間に…」


「なにもそこまで…」


「大事な内容かも知れないでござる…」


僕が朝言ったやつか…。確かに大事な内容かも知れないが…


「これ、手紙でござる…」


渡された手紙はボロボロだった。内容は…濡れていて何も読み取れない…


「また失敗でござる…拙者は…拙者は…ただ人の役に立ちたいのでござる…」


(せき)を切ったようにポロポロと涙を流す女の子…いや…泣かれても結構困るのだが…。

何か声をかけた方が良いのか悩んでいると…


「わおぉおおん!なんでいつもこうなるでごじゃるぅ!拙者は人の役に立ちたいだけなのにぃぃい!どぼじでいっつも!母上〜!お父様ぁ!申し訳でごじゃるぅぅぅうう!」


いや…そしてそんなギャグみたいな量の涙を流されてももっと困るのだが…。そして両親の呼び方くらい統一できないのか?


「里長ぁあ!師匠ぉおお!みたらし〜!(ペット)拙者はいつまでも未熟でごじゃるぅうう!」


みたらし!?


しかし…僕はこう言う時にかける言葉を知らないんだ、人との関わりが少なすぎて…。


「ななななーー!」


するとどこかで話を聞いていたのかナナちゃんが狐のセリアンスに向かって突撃し…そうか…またこんな感じか…。


「なっ!なんでござる!!」


女の子の身体は青白く光り…地面に付くほどの美しい髪のナナちゃんが現れた。

力強い緑の瞳、どこか知性を感じる。


「ふふっ、ナナが手を貸しましょう。私のご主人の名前を教えてくれるかしら?」


おぉ!喋り方も知的だ!美しい!頭も良いとかナナちゃん万歳!!


「な、名前でござるか?拙者は狐族のツバキでござる!宜しくでござる!!」


「ツバキね、なるほど…良い名前だわ…。まるで…その…言いやすいわね、好都合よ…」


ん?


「キリノ殿!これはどういう…」


「君は僕の精霊に選ばれたんだよ、とりあえずそういう事」


「なるほど…」


本当に分かったのだろうか…しかし深く説明しても分からなそうだしなぁ。

きっとなるほど…とか言うだけだし。


「ナナ殿は拙者の手助けをしてくれるのでござるか?」


「そうね、ナナの固有魔法があればあなたはきっとその…良い感じになるわね、きっと」


んん?


「固有魔法?なんでござるか?聞いた事ないでござる」


「こ、固有魔法はね、えっと、普通の魔法とは違うのよ、そう!違いすぎると言っても良いわ!」


んんん?


「どう違うでござるか!?」

ツバキ、もう質問するな…どうやらナナちゃんはそこまで頭が良い訳では…というか結構…。


「違い!?魔法と固有魔法の!?そんなの…花と空くらい違うわね!」


花と空の違いか…考えた事もないな。でもそんな無理して頭いいフリするのも可愛いぞ!抱きしめてナデナデしたい!


「使えば分かるんだから!」


ナナちゃんは目を閉じ…固有魔法を発動する。


自ずと改めん(ターナー・パートナー)



…………………。



次の瞬間、ツバキの服は元に戻り、手紙も復元された。

どういう事だ?マメちゃんみたいな時間操作か?

しかし…なぜツバキの服は元通りなのに手紙は読める程度になった程度なんだ?


「おお!すごいでござる!物を直す魔法でござるな!」

いや…その程度な訳ない。僕の人工精霊ならもっと破格の性能なはずだ。


「ふふっ、お父様はお気付きになられましたね。そう、私の固有魔法は…その…切り替え?的な?」


まさか自分自身で固有魔法が分からないのか?

それはなんとも…可愛い!




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フワッととしすぎててなにも伝わらないよナナちゃん!
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