表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/13

第五話 質を伴った数

「どこ行っていたんですか!ジークさんも一緒になって!!」


こっそりと病室に戻った僕とジーク、おまけにウルちゃんはしっかりと助手に見つかり説教をされている。

ずっと怒ってるなぁ…お疲れ様、助手。


「そんな事より見て!ウルちゃんが成長したんだよ!」


「エレノア、俺の怪我の治療を先にしてくれないか?やる事が出来たんだ。急ぎで頼む」


「嬢ちゃん、マメのヤツまだ帰って来ないのか?」


助手は下を向きプルプルと震え…


「私の話を聞けぇええ!!」


大気が揺らぐほどの大声でまた怒ったのであった。

ここ病院だから静かにした方がいいよ?


仕方ないからベッドに横になっておこう。次抜け出したら縛られて拘束されそうだし。


そしてしばらくすると治療が終わったジークとウルちゃんが戻ってきた。


「完治まで数日かかるらしい、治ったら魔竜を討伐に向かおうと思う」


「一人で行くの?アスフォードと一緒に行けば?」


「親父、俺が行けば一人じゃないぜ?」


親父か…やんちゃな息子を持った気分だ。とりあえず最高の気分である事は間違いない。


「いや、俺とウルだけで十分だ…それに、これは俺の戦いだからな」


「そうだぜ親父、マメなんか来たらそれこそ相手が可哀想ってもんだ。アイツは口より先に手が出るからな」


え…そうなの…?


「それじゃあ俺達は帰るが…エレノアが次帰ろうとしたら拘束しますって言ってたぞ」


助手…人間同士なんだから話し合いでどうにかできない?


ジークとウルちゃんが帰り、僕だけになった寂しい病室。


「さて…帰るか」


ベッドから起き上がると窓から冷たい視線を感じ、目をやると助手が氷のような目で僕を見ていた…


ついに目で語るようになったか…成長したな…。



……………………。



数日後、アスフォードとマメちゃんが帰ってきたのでやっと僕は解放されるようだ。


「キリノ…随分と健康的になったな…」


「お父様、お元気そうで何よりです」


数日ではあったがまともな食事、適度な睡眠を取った僕は健康そのものになり、体が軽い。変な薬でも入ってたんじゃなかろうかと思うほどだ。


「助手が家に帰してくれなくてね、なんかいつも怒ってんのあの子」


「キリノさんが言う事聞かないからです!!」


伝え方変えてみたら?


「そういえばね!ウルちゃんがジークって人に憑依して成長したんだよ!魔竜とかいうの倒しに行くんだって!もうそろそろ出発するんじゃないかな!?」


「魔竜!?ジークが!?」


驚きの表情を見せるアスフォード、多分すぐに帰ってくるよ?


「まあウルに任せておけば安心だと思います」


マメちゃんとウルちゃんって良く喧嘩してたけど仲良いよね。人工精霊の中でも古株だし。


「正直キリノの人工精霊の能力は疑う余地はないが…」

不安の表情を見せるアスフォード。

なんだよ!ウルちゃんは強いんだぞ!!



……………………。



「相棒!俺達の初陣だな!派手にやってやろうぜ!」


魔竜討伐に向かう道中、ウルが威勢良く声を上げた。


「そうだな…」


「なんだよ暗い顔しやがって、まさか怖気付いたのか?」


「いや…前もこうして騎士団と騒ぎながら魔竜討伐に向かったなと思ってな…」


あの時はアイツらがまだいたんだよな…


……………………



「団長!魔竜討伐なんかしたら俺達英雄っすね!」


「団長がいれば負けねぇよ!帰ったらたんまり美味いもん食って朝まで飲むぞ!」


「あそこの酒場の娘可愛いよな、明るくて気立もいいし…」


「じゃあ一番戦果を上げたヤツが食事に誘うってのはどうだ!?」


「バカお前、そんな事したら団長に全部持ってかれちまうじゃねぇか!」


「ちげぇねえや!」


俺達はいつだってこうだ。

しみったれた空気は一切無く、みんなで馬鹿騒ぎしながら戦場に向かう。


希望を語り、夢を口にする。決して不安を打ち消す為では無く…俺達には自信があった。

向かう所敵なしの騎士団、これまで築き上げた戦果は数知れず、市民からは羨望の目を向けられる。


それが俺の自慢の騎士団だった…。


「お前ら!そんな弱気でどうする!いつかは俺よりも強くなって楽させてくれよ!」


「団長より強く?そりゃ無理っすよ!全員でかかっても勝てないんだから!」


「いつかの話だよ、未来への希望ってヤツだ」


そう…当たり前に訪れる未来の話だった…


しかし対峙した魔竜の強さは圧倒的だった。次々と召喚された眷属が押し寄せる。

一匹一匹の強さはそうでもないが…数が多すぎる。


「撤退だお前ら!!俺が時間を稼ぐ!そのうちに逃げろ!!」


「団長…!俺達も一緒に…いや!絶対生きて戻って下さいよ!!」


いい判断だ…流石にお前達を守りながらは厳しい。

絶対戻るさ…なんたって俺はお前らの団長だからな。


俺以外の全員が背中を見せて走り出した瞬間…一瞬だが魔竜が嗤った…気がした。


今まで眷属任せだった魔竜は大きな口を開き、その口から…。


「お前ら!!!避けろぉおおおお!」


叫ぶと同時に熱風が肌を焦がす、俺の横を通り過ぎた熱線は俺の騎士団を…自分の眷属ごと塵に変えた…。


「うそ…だろ…」


一直線に焼け焦げた大地、その先にいたはずの俺の騎士団…俺の…。


「くそっ、ふざけるな……! こんな、こんなことがあってたまるかぁぁぁぁぁぁッ!!!」


俺は我を忘れて敵を切り刻み、俺の剣は魔竜まで届いた。

長時間の戦闘の末、傷付いた魔竜はニヤリと嗤いその場を去ったのだった。


「てめぇ……馬鹿にしてんのか……!? 俺の仲間を殺しておいて、背を向けるつもりかぁっ!!!!


そこで俺の意識は途切れた…。



………………………。



それから俺は騎士団を辞め、傭兵をしながら自分を鍛え抜いた。

しかしどれだけ鍛えても魔竜を倒せるイメージが湧かなかった。


無駄死にはできない。アイツらの仇は絶対に俺が取る…俺はまだ…魔竜を倒すまでは…アイツらの団長だ。


「おっ、あれか?大地が死んでやがる…」


「そうだな…前よりも大分浸食が進んでいる…」


俺に気がついた魔竜は眷属を召喚し、黒い波となって押し寄せてくる。前と一緒だ、何もかも。


「頼むぜ!相棒!!」


「よっしゃ!派手に行こうぜ!砂糖細工の(シュガークラフト・)人狼(ワーウルフ)!!」


次々と姿を表す俺の分身、負ける気がしないな…。


「お前ら!!!前方の敵を蹴散らせ!騎士団…突撃ぃい!!」


号令と共に走り出し、次々と眷属を切り捨てて進み続ける分身、圧倒的だ、絶対に勝てる。


「なぁ相棒、もう騎士団じゃねぇんだろ?さっきのはなんだ?昔の癖か?」


「さっきの号令の事か?いや…この戦いの間だけは俺は騎士団長なんだよ」


「そうか、まあ深い事は知らないが騎士団長様はこんな所でのんびりしてる仕事なのか?」


「そんな訳ないだろ?」


俺は剣を握りしめて走り出す。


「一番戦果上げたら酒場の娘を食事に誘えるんだからな!」


「騎士団ってのは楽しそうなところなんだな!よっしゃ!突っ込め相棒!」


そうだよウル、騎士団ってのは楽しくて最高の場所なんだぜ?


戦況が悪いと悟ったのか魔竜は翼を広げて逃げる体制に入る。逃す訳ないだろ?


「魔竜に剣が届く者は翼を狙え!!絶対に逃すな!」


号令を聞く分身…魔竜に剣が届く者、それ即ち…


「おいおい…お前の分身どうなってんだよ…」


一斉に跳躍した全ての分身が魔竜の翼を切り刻む、まるで白い波にさらわれたように、翼は跡形もなく消え去った。


「スッキリしたじゃねぇか!もう終わりだ…消えろクソトカゲ…」


俺が斬りかかろうとした瞬間、魔竜は口を開けあの熱線を吐こうとする。


まぁ知ってたけどな…


俺の号令は無いが分身は口に剣を突き刺し押さえ込む、そうだよな。お前らも俺なんだから。


「おい…いつもみたいに嗤えよ、最後なんだからよ…」


俺の剣は魔竜の首を両断し、ドスンと音を立てて魔竜は息絶えた。


「余裕だったろ?」


「あぁ、ありがとうウル…。これで死んだ仲間も報われる…」


「でも相棒は大して仕事してなかったな」


「バカ言え」

俺は空を見上げて言葉を紡ぐ、


「大将を討ち取ったんだから俺が酒場の子を飯に誘えるんだ」


流石俺達の団長だな!そんな声が聞こえた気がした…。



……………………。



「キリノ、ウルと一緒に魔竜を倒したぞ」


アスフォードと喋っているところにジークとウルちゃんが帰ってきた。


「ウルちゃんが!流石ウルちゃん!頑張ったね!」


「親父!俺頑張ったんだぜ!」


元気そうなジークの顔を見てアスフォードも安心したようだ。


「ジーク、やったんだな」


「あぁ…アスフォード、今日の夜時間あるか?」


「お、良いな。久しぶりに飲みに行くか。いつもの店だろ?あそこの娘最近彼氏が出来たって喜んでたぞ」


「は?そ…そうか。まぁ結婚してないならどうにかなるか…」


「なんの話だ?」


『希望と夢が詰まった未来の話さ』







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
キリノって気軽にアスフォード達と会えるくらいの場所にいるのか。なんか勝手に森の奥に小屋があってそこにいるのかと思ってた。 コレはなんだかんだでアスフォード以外は引っ張りだこになってめったに里帰りして…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ