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第四話 数は多ければ多いほど強い

「うーん…お腹が痛い気がする…」


「うる!うるうる!」


「おはようウルちゃん、今起きるよ」


しかし参ったな…かれこれ一時間弱このやり取りをしているのだがどうにも起き上がれない。


しかし起きて行かないと精霊達が心配するかも知れない、楽しい事を考えよう。きっと精霊達との明るい未来を考えればこんな下半身が千切れそうな痛みなんて吹っ飛んでいくさ。


そして無理に起き上がった僕はベッドから転げ落ち意識を失ったのだった…。


……………………。



「大丈夫ですか!?今先生が来ます!意識をしっかり保って下さい!!」


ん?人間の声で目を覚ますと僕を覗き込む女の子、この子は確か…。


「助手?なんで僕の家にいるの?」


「エレノアです…あなたの助手では無いので名前くらい覚えて下さい…」


前に出会った医者のアスフォードの助手のエレノア、アスフォードの方が来ればマメちゃんに会えたのに…。


「エレノア、マメちゃんは来ないの?そしてなんでここにいるの?一応僕も男だからね、あんまり男の寝室に上がり込むのは良く無いよ」


「先生とマメさんは準備をしてすぐに来ます。ここに私がいるのはウルさんが病院まで医者を探しに来たんです、マメさんが通訳をしてくれてまず私が様子を見に来たんですよ」


ウルちゃんが…。僕を心配して医者を呼びに行ってくれたの?そんな…。


「ウルちゃんありがとう…僕の為に頑張ってくれたんだね…。僕は世界一の幸せ者だよ」


「うるうる!!」


僕が床に倒れ込みながら涙を流してウルちゃんに感謝を伝えていると、玄関の扉が開きマメちゃんとアスフォードがやってきた。


「お父様、ウルから聞きましたが大丈夫ですか?」


「マメちゃん!聞いてよ!ウルちゃんが僕の為に医者を探しに行ってくれたんだ!僕の為に!」


「それは知っています。お父様は自分の身体の事に無頓着すぎます」


「相変わらずだな…診察をするから少し落ち着いてくれないか?」


「アスフォード…僕はもう大丈夫だよ…。腹の痛みなんて喜びで消えていったから。今からウルちゃんとマメちゃんと遊びに行くからもう帰って良いよ」


「おいっ!動くな!まだどんな病気かも…」


肉体を精神が凌駕し、無理に立ち上がった僕はすぐに床に崩れおち、また意識を失った。


………………。


ん?目を覚ますと腹痛は完全に治まっており、僕は見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。


「起きましたか?もう少しで命を落とすところだったんですよ。まだ安静にしていて下さい」


「助手?ここはどこ?」


「ここは先生の病院で私はエレノアです。先生は急患が出たのでマメさんと先程出かけました、数日は帰りません」


「うる!!うるうる!!!」


「ん?マメちゃんがあまり変な物食べちゃダメって言ってた?うーん…何か食べたかな最近」


「先生が微量の毒を含んだ植物を大量に食べないとここまで酷くはならないって言っていました」


「あー、この前精霊達が運んできたあの真っ青の葉っぱかな。僕が美味しそうに食べてるのを見てみんな喜んでくれてさ、それからもう主食にしてたんだよね」


「よく真っ青な葉っぱなんて食べる気になりますね…。原因はきっとそれです。もう食べないで下さいね」


「嫌だよ、精霊達が喜ぶ顔が見たいもん」


「うる!!うーる!!」


「え?ダメだって?まぁウルちゃんが言うなら…」


「キリノさんそのうち本当に死にますよ…」


僕達がそんな会話をしていると遠くから男の声が聞こえた。


「おーい!アスフォード!怪我の治療頼むぜ!」


安静にしていて下さい!と僕に念を押し、エレノアはその男の対応に向かった。


よし、帰るか。残してきた精霊も心配だし。


ウルちゃんと部屋を出て出口に向かうと先ほどの声の主とエレノアが何か話している。


ガタイの良い男だ、腕から出血しているようだが…まあお大事にね。


素知らぬ顔で病院を出ようとしたところエレノアにしっかり見つかってしまった…。


「ちょっとキリノさん!ダメですったら!何帰ろうとしてるんですか!さっきまで死にかけてたんですよ!」


「大丈夫だよ、死んで無いし」


「ゆっくり寝てて下さい!あなたに何かあったら先生が悲しみます!」


そんなやり取りをしているとガタイの良い男が口を開いた。


「おい兄ちゃん、何があったかは知らねぇが嬢ちゃんの言う事を聞いておきな、死んじまったらなんにもならねぇからな」


「そうです!ジークさんも私の話聞きませんけど!」


助手も大変だなぁ、こんな荒くれ者みたいな人が言う事素直に聞いてくれる訳ないよね。可哀想に。


そして結局僕はなぜかジークと名乗る男に担がれ病室まで戻された。

僕だって一応男なのに軽々と持ち上げるもんだ。


「ジークさんも治療するのでそこでキリノさんを見張っておいて下さい!」


そう言って部屋を出るエレノア。残される僕と筋肉が多い人間。


「兄ちゃん、名前は?」


「名前?キリノだよ。キリノ・クラフト。こっちは精霊のウルちゃん」


「キリノとウルか。俺はジーク・ヴォルフガングだ。ジークでいいぜ」


「うる!」


「ねぇ僕もう帰りたいんだけど…」


「嬢ちゃんに見張っておけって言われちまったからな、帰すわけにはいかねぇんだわ。アスフォードのヤツが帰ってくるまで安静にしてるんだな」


「だってアスフォードは数日帰ってこないって…」


「まあ忙しいヤツだからな、仕方ないだろ。最近は大精霊を使役したから世界中から引っ張りだこだ」


「使役?違うよ!マメちゃんが自分の意思でアスフォードと一緒にいるだけ!」


「もしかしてお前がアスフォードの言ってた精霊の研究者か?」


あぁ、一応人工精霊っていうのは伏せてるのか。まあ話がややこしくなるしね。


ジークの話だとアスフォードとは旧知の仲でたまに酒を一緒に飲むらしい。

傭兵をやる前は騎士団長をしていたらしくその頃に知り合ったそうだ。


もちろん最近酒を飲み交わす席にマメちゃんがいる訳で…アスフォードは変わり者の精霊研究者と出会って精霊と友達になったと言っていたそうだ。


「騎士団長ってすごいんじゃないの?傭兵の方が楽に稼げるって事もないでしょ?」


「まぁな…十年前に大規模な魔竜討伐があっただろ?あの時の全責任は俺にあるからな、責任取って辞めたんだよ」


「魔竜討伐?へぇ、そんなのあったんだ」


「マジかよ…産まれたてのガキでも知ってそうなもんだけどな」


おっと?さては僕の事を世間知らずって思ってるな?


「魔竜なんて興味ないよ、僕は精霊の研究者だからね。結局魔竜は討伐したの?」


「いや…逃げられちまった。騎士団はほぼ壊滅したってのにな…。ハッキリ言って騎士団長クラスが束になって戦わないと倒せないだろう。実際まともに戦えたのは俺だけだった」


「騎士団長ってそんなにいるの?一人だけのイメージなんだけど」


「まぁそうだな、実際騎士団長は俺だけだった。まあそのくらいしないと倒せねぇって事だ…」

そう言ったジークは少し目を伏せ、何かを思い出したようだった。

十中八九討伐で命を落とした仲間の事でも思い出したんだろう。


「その魔竜ってまだ生きてるんでしょ?大丈夫なの?」


「そのうちまた動き出すだろうけどな…。最近現れたセイクリッド・シーカー辺りが討伐に向かうんじゃないか?その時は俺も行くつもりだ、あの野郎…次はぜってぇぶっ殺してやる…この命に変えてもな…」


今度は怒りに身を震わせるジーク。まあ分からなくも無いが…すごく喋るなこの人…。


「うる!!うるうるう!!!!」


ジークの怒りに反応したのかウルちゃんも怒っている。そしてジークの方に飛んで行き…。


この世界は僕の都合の良いようには出来ていない、最近はそんな事を考えるよ…。


「なんだ?精霊が励ましてくれんのか?珍しい事も…おわっ!なんだコイツ!」


赤い光に包まれるジーク、しかし最近こうも思うんだ。子供の成長を喜ばない親はいないってね。

でもまぁ、それとこれとは別って話よ。羨ましいし悔しいよね。


「気に入ったぜ相棒!俺が手を貸してやる!」


ウルちゃんって男の子だったの!?いや、精霊に性別はないか…性格が男っぽいって事だな。

燃えるような赤い髪、とても熱く…とても美しい…。


「おいおい…大精霊じゃねぇか…。もしかしてアスフォードもこうやって…」


あれ、知能は低い感じかと思ってたけど鋭いね。まあ騎士団長とか言ってたしそりゃそうか。


「そうだよ…僕の精霊は人に憑依できるんだ…そして固有魔法が使えるの…そしてなぜか僕には憑依してくれないの…」


「そういう事か…。しかし相手は魔竜だぞ?いくら大精霊の力を借りても…」


「ジークは強いんだろ?お前が何人いたら勝てるんだ?」


「なんだ急に…そうだな。俺クラスが十人…いや、二十人いたら勝てそうなもんだな。三十人いれば確実だ」


「そうか、相棒。外に出ようぜ。俺の固有魔法を見せてやるよ」


ウルちゃんがそう言うので僕達は窓から抜け出し、街を離れ開けた草原までやってきた。


「三十人で勝てるんだったな、それじゃあ景気良く行こうぜ!」

ウルちゃんは目を閉じ、固有魔法を発動する。


砂糖細工の(シュガークラフト・)人狼(ワーウルフ)


次の瞬間、まるで砂糖細工のような真っ白のジークが姿を現した。

問題はその数…。


「なんだ?あれは俺か?」


困惑するジークにウルちゃんは答える。


「そうだぜ相棒。お前の分身ざっと千体。お前の軍隊だ、どうだ?魔竜に勝てそうか?」


「俺が千人か…」

拳を握りしめてジークが答える。


「秒殺だな」




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俺が千人いたら最強の軍団!って発想、小学生みたいでスキ
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