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96 アドリーシャ

■■■聖女見習い アドリーシャ視点


 私が聖女見習いになってもう六年が経つ。十歳の頃にこのイルミナ大聖堂の門をくぐってから、家族ともほとんど会わずにひたすら上を目指してきた。


 今年は有力な先輩が聖女に選ばれたことと、私自身の頑張りもあって、はじめてランキングのトップに躍り出ることができた。


 ただ、このタイミングでのトップというのは、はっきりいって微妙だ。新しい聖女が誕生したばかりなので、すぐに交代するということはありえないからだ。


 少なくとも二年から三年の間、私は聖女になることができないということ。


 つまり、今の時点でトップでいることは何の意味も持たないのだ。もちろん、これまでの実績も評価されることはわかっている。それでも交代をする年のランキングが一番重要なのは言うまでもない。


 そんな時だった。


「お呼びでございますか、マリアンヌ様」


「急に呼び出してごめんなさいね。アドリーシャ、あなたにとっても大きなチャンスになるのではないかと思って相談があるのだけど……」


 マリアンヌ様から聞いた内容は私にとって悪くない話だった。ランキングを維持することも大事だけど、今は外に出て活動することのメリットの方が大きい。


 イルミナ大聖堂周辺だけで活動するのと、外で活動して多くの人に顔と名前を知ってもらうことは自分の知名度を上げる点でも大きい。


物販による売上が稼ぎづらくなるのはマイナス要素ではあるものの、私なら最後の一年で十分に巻き返すことは可能だ。


 私の目標は聖女になることではない。在位五年以上の大聖女になること。


 聖女になってからどれだけ長い間在位し続けられるか。それは老若男女幅広い信者からの人気が不可欠。


そう。例えば、勇者パーティに同行して魔王を撃ち倒すような長く語り継がれる冒険譚。私は勇者様を助ける麗しの聖女アドリーシャ。


「そういうことだから、イルミナ教会にとっても大事なお客様になると思うの……って聞いてる?」


「はい。必ず魔王を撃ち倒してみせます!」


「……聞いてないわね」


 もう一度説明を受け直した私は、すぐに応接室に待たせているという勇者ご一行様にお会いするべくマリアンヌ様の後をついていった。


 どうやら、洗礼の儀式を受けていない方が二名いるらしく私が行うことになるらしい。


「私、聖獣様に会うのは初めてなの。とても楽しみだわ」


 イルミナ教には聖獣信仰といって聖獣を神の使いとして崇める教えがある。何でも遥か昔にイルミナ神がこの地へ降り立った際に聖獣を連れていたのだそうだ。


 古い文献でもイルミナ神の横には必ず聖獣が描かれている。


 実際に聖獣を見ることはとても珍しいことから、聖獣がいるということは、近くにイルミナ神がいらっしゃるに違いないということになるのだそうだ。


 聖獣信仰。これもイルミナ教にとって大きなキーワードといえる。


これは私にとってはサプライズともいうべきプラス要素で、英雄譚だけでなく、聖獣様と戯れる麗しの聖女アドリーシャとしての追加イメージを世間にアピールすることができるのだ。


 緊張しながら部屋に入って、心を落ち着かせるべく洗礼の準備をしていく。私の心の高揚とは逆に勇者様方はどこかお疲れのようで、どこか微妙だった。


 印象としては駆け出しの冒険者パーティ。装備も新しく顔もあどけない。あとは……美人が多い。近くに美人がいると、私が目立たないので行動をともにする時はなるべく前に出なければならない。


 それから、猫人族の獣人、聖獣様を肩に乗せている勇者様……この方がニール様ね。


 マリアンヌ様は聖獣様にご執心の様子で枢機卿様が滞在する部屋を勝手に貸すという畏れ多い提案を餌にして絵を描いてもらうという当初の目的を果たしてみせた。


 これこそがマリアンヌ様の交渉術。私もこのあたりをもっと学んでいかなければならない。


「同行ですか?」


「ギルドからの手紙を拝見いたしました。みなさまが無事に聖都まで辿り着けるようにアドリーシャに手伝いをさせてください」


「さすがにそれは……」


「不急の事態が発生した場合、このアドリーシャでしたら顔が知られているため教会や信者に助けを求めることができます」


 困った顔をされる勇者様。しかしながらここで断られるわけにはいかない。


 私はまっすぐに勇者様を見て、にっこりと微笑みかけた。


私の微笑みに心奪われない男性はいない。微笑みながら手を振っただけで気絶してしまう信者もいるほど。


 あとは念の為に夕食までの間に手を打とうと思う。必ず、私は大聖女になってみせる。

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