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95 大司教マリアンヌ様

 洗礼の儀式をする際に着用する服や、聖水、そしてたくさんの布を用意していく。


「洗礼というのはこの場所でもできるんですか?」


「はい、問題ございません。こちらのアドリーシャは聖女見習いのなかでも特に優秀な者ですので滞りなく済むでしょう」


 マリアンヌさんはルリカラを膝の上に乗せ、もふもふしながら何事もないように話をしていく。


 悪意を感じることなく、むしろ崇拝されているのがわかっているのだろうか……。ルリカラも気持ちよさそうにしているので、とりあえずは大丈夫か。それにしても人見知りはどこへいった。


「そ、そうですか」


「聖獣様はお好きな食べ物などあるのでしょうか?」


「魚が好きですね。特に新鮮な内蔵が好物みたいでして……」


「まあ、魚が。すぐに生の魚を持ってきなさい」


 扉の外に控えているであろう神官さんがその声に反応して立ち去っていく。やはり聖獣信仰というのはイルミナ教の教えの中に根づいているみたいだ。


「それでは、ニール様とルイーズ様はこちらにお越しください」


 椅子に白い布を被せて聖水を振りかけている。どうやら、儀式に備えて用意された白い服をかぶるらしい。


「ニール様はこちらを」


「はい」


 準備が整うと、椅子に座るようにうながされる。


「目をつむり、下を向き、十字架をおでこの位置まで持ち上げてください」


 すると、何かに気づいたかのようにマリアンヌ様が声を掛けてきた。


「ニール様、階位はいかがいたしますか?」


 階位というのは、色のことだろう。アルベロとキャットアイが白なのだから僕たちも白でいいはず。


「白でお願いします」


「青にも出来ますが?」


「あっ、いえ。白で大丈夫です」


「そうですか……残念です。アドリーシャ、よろしくお願いします」


「はい、マリアンヌ様」


 おでこに掲げている十字架がほんのりあたたかくなってくる。これは魔力放出特有のあたたかさだ。聖水とともにあたたかい魔力がネックレスに注入されると儀式はすぐに完了した。


「終わりました。次に、お布施のオプションについてでございますが……」


「アドリーシャ、それはいいわ」


「よいのでございますか?」


「ええ、いいの」


 何故かオプションについてのお話はされなかった。こちらとしては助かるのだけど。


「あっ、白くなってるよー」


本当だ。十字架の石は透明から白に変わっていた。これで、無事洗礼が終了ということか。


「みなさんは、これからどちらへ向かわれますか?」


「イルミナ教の総本山がある聖都へ行こうと思ってます。でも長旅で疲れてしまったので、しばらく宿をとって休もうかと」


「まあ、それでしたらこちらに泊まればいいですわ。枢機卿が滞在する部屋が空いておりますし、ニール様方でしたら無料でお使いいただけます」


「む、無料はちょっと……」


 タダよりこわいものはない。庇護は受けたいものの、どっぷりズブズブの関係になるのは避けたいところ。


「どうか、ご遠慮なさらず。私としましては部屋に聖獣様をお泊めしたという実績がほしいのです」


 そんなものが本当に実績になってしまうのだろうか。


「どうする?」


 僕が他の三人を見ると、一様に首を傾げている。急にそんなことを言われてもどうしていいかわからない。


「わ、わかりました。では、こうしましょう。お金をいただかない代わりに、私と聖獣様の絵を描かせてください。聖獣様は私の膝の上に乗っているだけでいいので」


マリアンヌ様の熱意をすごく感じる。別に悪いことをされているわけでもないし、大司教様にそこまで言われたのなら、ルリカラさえよければ受けてもいいか。


「ルリカラはそれでもいい?」


 ルリカラは自らが絵に描かれるということに若干の喜びを感じている様子。ただ、僕が近くにいることと、あんまり長い時間は嫌らしい。


どうやら用意された生魚もお気に召している様子で、マリアンヌ様の手の上から美味しそうにかぶりついている。


 大丈夫そうか。


 そのことを伝えると、マリアンヌ様は喜んでルリカラをムニムニともふっている。「今は食事中だからあまりさわるでない」と言いながらも、そこまで嫌そうでもないルリカラ。


 やはり好意を持たれている人からの接触はそこまで嫌がらないのかもしれない。


「時間はそうお掛けいたしません。午前中、いえ、その半分もいただければ」


 二、三時間ぐらいということだろうか。それぐらいならいいかな。


「わかりました」


「実は、もう一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか」


「何でしょうか」


「聖都に向かわれる際に、このアドリーシャを同行させてほしいのです」


「同行ですか?」


「ギルドからの手紙を拝見いたしました。みなさまが無事に聖都まで辿り着けるようにアドリーシャに手伝いをさせてください」


「さすがにそれは……」


「不急の事態が発生した場合、このアドリーシャでしたら顔が知られているため教会や信者に助けを求めることができます」


 こちらとしても庇護を求める以上、それなりにイルミナ教との距離を縮めなければならない。それならば、この提案はありがたく受け入れるべきなのかもしれない……けど、こちらもいろいろと隠しておきたいこともある。


「みんなとも相談してから決めますので、お返事はそれからでもよろしいですか?」


「もちろんです。夕食をご用意いたしますので、その時にでもお聞かせいただければと思います」


「はい、わかりました」

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