78 バルトロメオ
僕たちが王都に到着すると、門には何故か大柄な人が立っていて、馬車に乗った僕たちを見つけると、睨みつけるようにしてドカドカと向かってくる。
「あれって?」
「ギルド長にゃ」
「へー、あれがギルド長なんですね。例の件でしょうか」
「だろうにゃ」
そういえば、キャットアイは冒険者ギルドからの指示で僕のことを見張っているんだったっけ。あれっ、そうなると一緒にいるのは不味くないのかな。
「適当に話を合わせるにゃ」
「あっ、はい」
馬車が門を通過するのを待ちきれなかったのか、怒り心頭なギルド長はまっすぐキャットアイの前までやってきた。
「よー、キャットアイ。俺の手紙を無視するとは上等じゃねぇーか」
「手紙? そんなもの知らないにゃ」
「何だと! カルメロ商会宛に渡してるんだ。届いたかどうかは調べりゃすぐわかるんだぞ」
「そうだったのにゃ?」
「とぼけやがって……何のつもりだ?」
「言ってる意味がよくわからないにゃ」
手紙というのは僕たちがミストマウンテンに到着した翌日にカルメロ商会に届けられていた。内容は王様が十日後にシーデーモン討伐の褒美を渡す式典を行うから早めに戻って来させろとかいう高圧的な内容だったのを覚えている。
ちなみに、手紙はカルメロ商会には届いていないということにしてもらった。手紙を届けてくれた商人の方は買収済で、途中の休憩場所にて魔物に襲われて紛失したということにしてもらった。
この世界の手紙は届かないことも多いので、そう問題にはなることもないらしい。
そもそも手紙が届くのが難しいという事情もある。外は魔物や盗賊もいて危険だらけだからね。まあ、王都からミストマウンテンの街道は安全らしいけど。
こちらとしては、ぞんざいな扱いを受けた王様からのご褒美なんてお断りだ。僕のことを探らせているらしいし、スキルがバレる前にこの国から早々に出ていくつもりでいる。
「ところで、何でお前ら一緒に行動してんだよ」
「帰りの馬車は一日に一台にゃ。帰る日が一緒なら同じになるにゃ」
「同じ馬車に乗ってんじゃねぇよ。お前なら馬車なんて乗らなくても問題ねぇーだろ!」
「何を言ってるのかわからないにゃ」
「ちっ……。今日がお前らが旅に出てから何日目だと思ってんだ」
かなり苛々とした口調で怒りを隠そうともしていない。
ミストマウンテンの往復で六日。滞在日数は五日だったので、今日は十一日後ということになる。二日酔いが無ければギリギリ間に合ったかもしれないね。
「旅の日程に何か問題でもあるんですか? 冒険者ギルドには話をしていますけど」
「お前はニールだったな。そんな態度で冒険者ギルドを敵に回してもいいのか?」
「脅迫ですか? バブルラグーンのギルド長とは随分対応が違うんですね」
「地方のギルド長と一緒にしてんじゃねぇーよ。こっちは王都のギルド長なんだ。格ってもんが違うんだよ」
「何をそんなに怒っているにゃ?」
「お前らが約束の期日までに戻ってこねぇから、俺が王宮から詰められてんだろーが!」
「手紙は見てないし、そんな連絡も受けてないのだからどうしようもないにゃ」
「くそっ、こんなことになるなら冒険者を派遣するべきだったか……」
預けた相手が商人なら手紙は不慮の事故で紛失したと言えるけど、冒険者を派遣されていたらクエストの評価にも繋がってしまうので買収も難しかったかもしれない。
そのあたりはバルトロメオを認めているように、彼の落ち度でもあるのでそのまま利用させてもらう。
「いいか、二日後に仕切り直しで王宮主催の魔物討伐慰労会が行われる。お前ら四人は主賓として招待されているから、準備をしておけ。いいな」
四人ということは直接討伐に参加していないルイーズも招待されるのか。
「畏れ多いのでお断りします」
「それで、キャットアイお前とは一度契約内容について話を……ちょっと待て、断るだと!?」
「はい。すでに報酬も冒険者ギルドから頂いてますし、王宮から何かしていただく謂れもありませんので」
「お前は異世界人だからわからねーのかもしれねぇが、国のトップから来いと言われて断る奴はいねぇーんだよ。いいから黙って参加しろ。ただでさえ、日程がずれてピリピリしてんだ」
「私はこの国を古くから知ってるけど、一般の冒険者を主賓として呼び出すなんて話は聞いたことがないんだけど」
「そうだよねー。Aランクの冒険者でも招待されたことないんじゃない? 私とニールなんてDランクなんですけどー」
一般的に考えてもDランクの冒険者を主賓で呼ぶとか頭がおかしい。どう考えてみても僕との繋がりを改善するためとしか思えない。
「そんなの知らねぇんだよ。王の誘いを断るって言うなら、もうこの国で冒険者としてクエストを受けられなくなってもいいってことだな?」
まあ、何というか、その言葉を待っていたんだ。この国を出る正式な理由ができたというもの。
「そうですか……。それは残念です。格の高い王都のギルド長からそのように言われてしまったら生きていくために国を出るしかなさそうですね」
「そうね。王都での用事が済んだら国を出ましょう」
「そっかー。残念だけどしょうがないよねー。生活していくには他の国の冒険者ギルドに移籍するしかないもんねー」
「お、おい、ちょっと待て。そんなことしたら二度とこの国で仕事ができねぇんだぞ」
「ええ、しょうがないですね。ギルド長にそう言われてしまったら、冒険者が何を言った所で無理でしょう。とても残念です」
これで、ギルド長のせいで国を出なければならないということにできた。周りには何事かと野次馬のように多くの冒険者や門番として控えている騎士団の方々もいる。この全ての人たちが証人となってくれるだろう。
僕たちは冒険者ギルドの圧力により他国へ行かざるをえなかったと。




