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44 Aランク冒険者

 僕たちが冒険者ギルドに報告をすると、すぐに緊急の連絡を報せるべくギルドの職員は動き始めた。


 取り急ぎ現場の状況を確認するためにルイーズと灯台の方へと向かい、僕とアルベロは他の冒険者と一緒に防衛戦に備えて柵や石積みの強化を頼まれた。


「全く、とんでもないタイミングで来てしまったにゃ」


 なんとラウラの森の調査を依頼されていたはずのキャットアイさんがバブルラグーンに来ていた。


「キャットアイさんが来てくれたのは頼もしいです。それにしても、まさかAランクだったとは驚きました」


 いつも冒険者ギルドで昼寝をしているダメな人だとばかり思っていたのに、想像以上に高ランクの猫さんだった。


「魚を食い散らかすマーマンは猫人族の敵にゃ。ついでだから、しっかり葬り去ってやるにゃ」


「それで、杭打ちは手伝ってくれないんですか?」


「それは自分の仕事じゃないにゃ。そんなことより、その白いもふもふは何にゃ?」


「あー、これは最近テイムしたホワイトドラゴンのルリカラです。ほらっ、ルリカラ挨拶して」


 興味がないのか、一瞬キャットアイさんを見たルリカラは、すぐにぷいっと首を振って目を合わさない。また人見知りを発動しているのだろう。


「ニールはテイマーだったかにゃ?」


「それが不思議なんですけど、ルリカラと会った後にタグを調べたらちゃんとテイムできていたんです」


「気に入られてるみたいにゃ」


「そうなんですかね」


「孤高なドラゴンがそんなに人とぴったりくっつくことはないと思うにゃ」


「確かにドラゴンって孤高なイメージありますよね」


 出会ったときからルリカラは僕のお腹か頭の上にいる。むしろ常にぴったりと張り付いているといっていい。


 ルリカラは野生のドラゴンとはちょっと違うのかもしれない。


「それで、なんでキャットアイさんはバブルラグーンへ来たのですか?」


「ダンパーが逃げ出したからにゃ。ラウラの森の調査もそれなりに片付いてきていたから、ニールを見るついでにここに来たにゃ」


「えっ、僕ですか?」


「あっ、間違えたにゃ。バブルクラブにゃ」


「あー、バブルクラブですか。でも、猫人族って甲殻類食べても平気なんですか?」


「食べたらダメなのにゃ?」


「あっ、いえ。体が大丈夫なら構わないかと」


 猫の獣人さんだけど、それは顔と尻尾がそうであって、体の見た目は人間に近いつくりになっている。それなら、甲殻類も意外と平気なのかもしれない。ひょっとして葱とかもいけちゃうのだろうか。


「それで、マーマンの数はどのぐらいいたにゃ?」


「結構遠かったので正確な数はわかりませんけど、千や二千ではきかないかもしれません」


 かなり深い海底から海面に見えるぐらいのマーマンタワーだとすると、相当な数になりそうという話は聞きている。


「厄介な数にゃ」


「キャットアイさんはこういった大量発生する魔物との戦いって得意なんですか?」


「苦手にゃ。こういう戦いでは魔法使いや遠距離攻撃が得意なアルベロのようなやつが活躍するにゃ」


「遠距離攻撃ないんですか?」


「ないにゃ。基本的に獣人は近接戦闘が得意なのにゃ」


 確かに一体づつ倒していくよりも、魔法や大量の弓兵で攻撃した方が効率がいい。となると、Aランクとはいえそこまで期待してはいけないのかもしれない。


「ニールはショートソードで戦うのにゃ?」


「あっ、いえ。これは今使っている武器ってだけで、冒険者ギルドからは槍を使うように言われています。あと、様子を見て魔法を撃つ感じでしょうか」


 僕たちが造っている柵はマーマンの動きを止め、隙間から槍を突き刺すためのものだ。


「それが無難にゃ。柵が壊れたら何も考えずにすぐに後ろに下がるにゃ」


「そうですね」


 造っている柵は三段構えになっていて、壊されるごとに退避しつつ次の柵でまたマーマンを迎え討つ。三つ目を越えられてしまうと、もう街の石垣しか守るものはない。


 石垣は高さ三メートルほどあるので、簡単に超えられるものではないと思うけど、なるべくなら柵の段階で追い返したいところだ。


「じゃあ、ニールの近くで戦うにゃ」


「いいんですか?」


「冒険者ギルドから言われているのは、柵を越えられた際に、他の冒険者が次の柵に辿り着くまでの時間稼ぎにゃ。場所まで指定されてないにゃ」


「それは心強いです」


「貸し、一つにゃ」


「貸しですか」


「困った時に助けてほしいにゃ」


「キャットアイさんが困るような事態を、僕が解決できるとは思えませんけど」


「なければないで構わないにゃ」


 どちらかというと、ダンパーの時も助けてもらっているし、この猫にさんには親切な印象しかない。どう考えても既に僕の方が貸しがある状態だと思うんだ。


 海産物のお土産を買って帰ろうと思ってたのに、渡す本人がバブルラグーンに来てしまうとは思わなかったな。


 何か別のお礼を考えなきゃならない。


「何か好物とかありますか?」


「肉料理は全般的に好きにゃ。串焼きで間にネギが挟まってるやつが最近のお気に入りにゃ」


「葱もいけちゃいましたか」


「焼くと甘くなる野菜は好物にゃ」


「なるほど、美味しいですもんね」


「くれるにゃ?」


「はい、王都に戻ったらご馳走させてください」


「ありがとうにゃ」


 街がピリピリしているなか、キャットアイさんとお話することで、すこし緊張がほぐれた気がしないでもない。


 Aランクの冒険者ともなると他の人は苦手なのかアルベロも距離を置いてるし、ルリカラも寝たふりをしている。


 まあ、好き嫌いは人それぞれあるものか。

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