39 偉大な聖なるブレス
それにしても、まさかバブルラグーンでもダンパーに会うことになるとは思わなかった。
それどころか、殺されそうになるとはね……。
バブルラグーンの冒険者ギルドでは事態を重くみて、今回の騒動はギルド側の非もあるとした上で、王都の冒険者ギルドとも話し合いを行い、何かしらの補償を行うという話になった。
このことはどちらの冒険者ギルドにおいても周知徹底を行い、ダンパーの十年間の鉱山送りという罰も広く伝えることで同じような行動を犯す者がでないようにしたいとのことだった。
冒険者には各受付係からの周知と、ギルド内にダンパーの似顔絵と罪と罰について書かれた紙が貼られるらしい。
この異世界で法の遵守というのがどこまで効果があるのかわからないけど、もう二度とこのようなことがないように願いたい。
そうそう、ルリカラについてだけど若干あやしまれはしたものの、どう見てもくしゃみにしかみえなかったこともあってか、お咎めも質問も特になかった。
このことをギルドに伝えるかどうかは少し考えようと思う。
誰もあれが聖なるブレスとは思わないだろう。聖なるブレスか。名前の通りだとすると、悪いものを消し去るブレスということなのだろうか。
魔物に対しては邪悪な魔力を消し去り、ダンパーに関しては悪い感情を消し去ったのだろうか。
「聖なるブレスはどんな効果があるの、ルリカラ?」
今はもう翌朝で浜辺へと続く道を歩いているところ。ルイーズとアルベロも聞きたかったであろう言葉を声に出してルリカラに聞いてみた。
ルリカラはというと、まだ少し眠そうにしながらも僕の頭の上で休んだり、周辺をふわふわと飛んだりしている。魔力は回復したらしく、もうブレスは吐けるらしい。やっぱり日に一回だけっぽいけど。
ルリカラは少し考えるように、ふわふわと僕の頭の上に着陸すると「偉大な聖なるブレスは邪悪なものを全て消し去る。それは邪悪な魔力や感情も含まれるのである」とのメッセージを伝えてきた。
「どうやら邪悪な魔力や感情も消し去るブレスらしいよ」
少し考え込んでいるのはアルベロだ。
「感情というのが、どのあたりまでのものを消し去るのか気になるわね」
「ダンパーの変わりようといったら驚いたもんね」
まるで天使のように生まれ変わってしまった。あれはもう別人だ。
「もう、冒険者全員にブレスしちゃえばいいんじゃないかなー。そうすればもう巻き込まれることもないじゃーん」
「そういうわけにもいかないわ。例えば交渉における悪知恵程度のものにも反応しちゃったりしたら……。そうなると、商人ギルドなんて壊滅的じゃないかしら」
「おお、なるほどー。そういう可能性もあるのかー」
「そのあたりはどうなのかな、ルリカラ?」
よくわからなそうな、何と表現したらいいのか考えるような感じが伝わってくるけど、「偉大な聖なるブレスは、よほど強い思いがなければ反応しない。何故ならとっても高貴なブレスだから……」
ルリカラの言葉尻からもよくわかってなさそうに思える。
よくはわからないけど、ダンパーのように強い殺意でも無い限りは反応しないということでいいのかな。
「どう思う、アルベロ?」
「簡単に人を相手に試せるものではないしね。盗賊や罪人を相手にするときにルリカラに頑張ってもらいましょう」
「そうだね。あまり出会いたくはないけど」
「あと、人前でブレスを吐くのは禁止だと伝えてくれる。ダンパーに吐いた小さいのならともかく、ソードフィッシュに向けて吐いたブレスじゃ隠しようがないもの」
そりゃそうだ。そのことをルリカラに伝えると、「人の世界では人の世界のルールに従うか。そうなると、次は獰猛な牙と爪の出番だな」などと好戦的なコメントを伝えてきた。
君の牙はともかく、爪はふにゃふにゃなのよ。
それを伝えたルイーズとアルベロは微笑みながら僕の頭の上のルリカラを撫でまくっている。
ルリカラも何ならお腹も頼むと言わんばかりに自らの弱点であろうもふもふ部分を無防備にさらけ出している。
人見知りだったホワイトドラゴンもこの二人には心を開いてくれるようになったらしい。よかったよかった。
さて、今日は初日に狩れなかったバブルクラブを討伐したい。
本来ならアルベロの矢の先端に取り付けた煙幕で目を塞ぎ、僕の大盾で攻撃箇所を狭め、ルイーズが弱点の頭部を狙うというのが作戦だった。
ところが、アルベロの持つ短弓ハジャーダは想像の上を行く攻撃力を示したことで作戦を変更することに。
ルイーズが誘導してアルベロが頭を撃ち抜く。すぐに僕がインベントリ処理。もちろん周囲を確認してね。
と、アルベロ頼りの討伐をすることになった。もちろん複数体現れた時などはルイーズと僕で時間を稼ぐことになる。
街から近いエリアだと他の冒険者もいるので、少し離れた場所で討伐を行う。もちろんソードフィッシュ同様に撒き餌作戦でいかせてもらう予定だ。
さすがに街の近くで撒き餌作戦をやったら問題だけど、人が住む場所からかなり離れた場所なら大丈夫だろう。多分。いいよね? 撒き餌は最後には残さないようにインベントリで処理するし。
ということで、討伐作戦スタートだ。
ここは冒険者ギルドで教えてもらったバブルクラブの大型巣穴の一つだ。
ということで、取り出したのは昨日確保しておいたソードフィッシュの内臓。これを巣穴の前へどっさりと積み上げていく。
すぐにルリカラが興味を示したけど食べちゃだめだよと伝えたら、匂いだけ嗅いで我慢してくれた。いや、ヨダレも垂れているか。
「しょうがない。少しだけだよ」
僕はインベントリから少しだけソードフィッシュの内臓を取り出すとルリカラに食べさせてあげた。




