35 ソードフィッシュ狩り2
すぐにアルベロが短弓で狙おうとするものの、ソードフィッシュはすばやく海の中へと潜ってしまう。
魚影は船の周囲を走るように動いている。どうやら小魚よりも美味しそうな人間が複数いることに気づいたようだ。
狙いはこちらに飛びかかってくる瞬間。海の上なので、弓で攻撃してもそのまま沈んでいってしまうと討伐報酬も追加報酬もゼロ。つまり、こちらはカウンター攻撃のみ。待ちの姿勢がソードフィッシュ狩りの基本姿勢となる。
「ルイーズ、右側から来るわ!」
「了解だよー」
アルベロの指示通り、いったん深くまで潜ったソードフィッシュは船の右側からルイーズ目掛けて弾丸のように飛んできた。
しかしながら来る方向さえわかっていればルイーズの敵ではない。身体能力がアップしたすばやい動きでかわした瞬間に頭部をレイピアで貫く。
お見事としかいいようがない。僕に同じことが出来るだろうか。いや、やらなければ強くはなれない。ルイーズの足さばきや刺突武器の扱い方をもっと目に焼き付けよう。
「ニール、回収お願いねー」
「うん。任せて」
「二人とも、すぐに準備して。二体来たわ」
「おおー、撒き餌作戦が効いてる効いてるー」
「どちらも大きさは二メートルぐらい。次は私も攻撃するわ」
現れた二体は隠れようともせずに正面からスピードをあげて突進してくる。背びれを見せてまるで威嚇するかのように向かってくる。
「ルイーズは右側をお願い!」
「任せてー」
同時に飛び上がっていた二体のソードフィッシュは片方は同じようにルイーズが仕留め、もう一体はアルベロの矢が頭ごと吹き飛ばした。
「えっ?」
「はえっ?」
「ふ、吹き飛んだ……?」
射ったアルベロさえも驚きと困惑の表情。
「凄いのだけど、これはこれで困ったわね」
頭部が吹き飛んだことで討伐報酬部位が無くなり、きっとお肉の買取額も大幅にマイナスになりそうな感じだ。
それから残念なことに、アルベロの射った矢が完全に使い物にならないぐらいに壊れてしまっている。
「パワーは凄まじいのだけど、矢の費用がかさみそうね」
「以前使っていた弓に戻してみるとかー?」
「それだと、ソードフィッシュ相手では仕留めきれないかもしれないわ」
「そっかー」
アルベロなら的確に狙えそうな気もするけど、スピードの速いソードフィッシュなだけに狙いを外してしまった場合、被害を受ける可能性がでてしまう。
「仕方ないわね。攻撃はニールと交代するわ。いい、ニール?」
「うん、わかったよ」
「そうなると、ルリカラは私が抱っこすることになるわね」
「あー、ずるーい」
そんな話がされているとは気にした様子もなく、僕の腕の中にいるルリカラは海面を眺めている。
小魚の群れを目で追っているのだろうか。それを食べるのは大変だと思うんだ。海の中ではきっと魚の方が動きが早いよ。
すると僕の腕から出ようと翼を広げてみせる。
「えっ、危ないよ、ルリカラ」
僕のその言葉に「大丈夫。問題ない」と返事をすると翼をパタパタとしてぷかぷか空を飛んでみせた。
その小さな翼で何故飛べているのか不思議ではあるものの、実際に飛べてしまっている。何か補助的に魔力的な働きでもあるのだろうか。
ルイーズとアルベロも何事かと空飛ぶルリカラに注目している。
ルリカラはさらに高度を上げると、空中で静止した。
「ルリカラ?」
僕らの疑問を他所に、ちょっとだけ凛々しい顔をしながら船の上空で魔力を高めていく。
このイメージというか映像は昨日ルリカラから伝わってきたドラゴンブレスのイメージと同じ。
「いけない! またソードフィッシュが来るわ。今度は三体!」
そんなアルベロの声を聞いているのか、ルリカラは小さな口を大きく広げて攻撃体勢に入る。
「どうするの?」
ルイーズのそれは、自分たちが討伐するのか、それともルリカラの攻撃を信じるのか。
「ニール!」
「ルリカラを信じよう」
「わかったわ。私たちはソードフィッシュの攻撃から逃げるわよ」
船の上の僕たちに標準を定めているソードフィッシュは上空のルリカラが見えていない。あの高さならきっと攻撃を受けることもないだろう。
さて、小さなルリカラが放つドラゴンブレスがどれぐらいの効果があるのか。
とりあえず、初手を爪攻撃とか選択しなかったことだけは褒めてあげたい。
海面から飛び上がってくるソードフィッシュ。その瞬間を待っていたとばかりにルリカラから真っ白な光り輝くブレスが放たれた。
それは小さな体から放たれたものとは思えないほど広範囲を覆うもので、飛び上がったばかりのソードフィッシュはその勢いを失ったかのように船の上へと落ちていった。
「えっ、うそでしょ……」
「し、信じられない」
ルイーズとアルベロが驚くのも無理はない。しかしながら、僕はもっと驚いている。
ソードフィッシュは綺麗な身体のまま身動き一つしていないのだ。焼け焦げたわけでもなければ、物理的なダメージを負ったようにも見えない。きれいに無傷なのだ。
それはまるで魂を抜かれてしまったかのように静かに息絶えていた。
すると、ルリカラから「あっ、体力の限界かも……」との感情とともに、力が抜けたように落下してきたのだった。




