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1 異世界召喚

 時を少しばかりさかのぼって、この世界に僕が来た時の話をしようと思う。


 そう、あれは僕がこの世界に召喚された時。



「異世界より召喚されし者よ。お主の名は何と申す?」


 いきなり目の前に現れた上品な白鬚のおじさまが、笑みを浮かべながらそう聞いてくる。見た目は外国の方のようだけど、流暢な日本語をしゃべる。


 ここはどこなのだろう。


 足元にはキラキラと輝く魔法陣のような紋様があって、その中心にいるのは僕。


 周囲を鎧を着こんだ兵士が囲み、その手には槍や剣が握られている。


 石を積み上げたような外壁で窓もなく、あかりは松明だけでとても薄暗い。


「あのー、ここはどこでしょうか?」


「王の御前である。言葉には気をつけろ」


 その言葉に連動するかのように、兵士さん方が一歩前に出て威嚇してくる。


 えっ、やだ、怖い。


「よいよい。彼は何も知らないのだ。のう、異世界人よ。わしに名を教えてもらえるか?」


 異世界人……か。


 状況から察するに、僕はこの世界に召喚されたということなのだろう。


「銭形にぎるです」


「ほおー、やはり異世界人は名前が変わっておる。ニール・ゼニガタか」


 ニールではなく「にぎる」なんだけど、訂正したらあの兵士さんが怒りそうなのでやめておこう。


 兵士さん、僕に恨みでもあるかの如く睨んでくるんだよね。


「やめんか騎士団長。ニール殿が怯えているではないか」


「申し訳ございません」


 なるほど、彼は騎士団長なのか。どおりで強そうに見える。鍛錬を積み重ねた大きな体をしている。


 それにしても異世界か……。魔王を倒さないと元の世界には戻れないとか言われるのだろうか。


 そんな小説みたいな展開が本当に存在したというのか。


「それで、ニール殿。お主には、この世界を救う素晴らしいスキルとステータスがあるはずなのじゃ」


「スキルとステータスですか」


「うむ。神官長、あれを持ってまいれ」


 神官長らしき白髪長髪のおじいさんが「ぜーはーぜーはー」と苦しげに汗をふきながら、どこか疲れた様子で大きな水晶のようなものを持って近づいてくる。


 この疲れ具合、おそらくこの人が召喚魔法を使ったのかもしれない。


「ぜーはー……こ、これに……手をかざせ」


 まだ息が整っていないちょっと疲れた様子で命令してくる。王様以外全員命令口調なのは何故なのか。


 とはいえ、ここで文句を言ったところで兵士たちが槍を突き刺しに来るかもしれないので大人しく従う他ない。


「これでよろしいでしょうか」


 水晶に手をかざすと一瞬ピカリと輝くとすぐに収まっていった。


「な、な、なんと!?」


「どうした神官長。ニール殿はそれほどのステータスなのか?」


「そ、それが、全く。平均……以下です」


「そうかそうか、やはり異世界人。平均以下か。……ん? 平均以下じゃと!?」


「この年頃の青年のステータスと比較して、やや低い値が出ております」


 あれかな。部活やめたから運動不足かな。


「な、なんと……。いや、まだスキルがある。ニール殿、授かったスキルを教えてくれぬだろうか!」


 スキルもらったっけ?


 こういう時って、事前に神様が現れていて好きなスキルを与えようとかいう場面があるはずなんだけど、僕の記憶にそんなものは存在しない。


 学校帰りに歩いていたら、光に包まれただけなのだから。


 スキル、スキルねー。


 そんなことを考えていたからなのか、僕の目の前に突然ガチャガチャの機械が現れた。


 このガチャを回せばスキルをもらえるのだろうか。


 よくわからないけど、行動が遅いと騎士団長に怒られそうなのですぐに回してしまおうと思う。


 ガチャ、ガチャ、と回していくとカランコロンとカプセルが出てきた。


 どれどれ、どんなスキルかなー。


 カプセルを開けると、一枚の折りたたんだ紙が入っていた。ここに書かれているのが僕のスキルなのだろう。


「リカバリーポーションC級」


「ニール殿、今、何と申した。いや、その手に持っているのはポーションなのか。おいっ、神官長!」


「はっ、こ、これは、一番安いリカバリーポーションでございます」


「つまり、ニール殿のスキルは」


「ポーション精製。ハズレスキルかと……。ぬおおおお、十年分の魔力があああー!!!」


 一瞬絶句した神官長が顔を紅潮させて急に叫びだした。


 どうやら神官長が十年もの間溜め込んだ魔力がこの召喚に費やされているらしい。


 それが安いポーションしか生み出せない異世界人を召喚したとなれば、彼の沽券にかかわるのだろう。


 勇者か賢者かと、期待やら警戒されていたのがまるで嘘のように、騎士たちからはゴミを見るかのような視線をビンビンに感じている。


 さっきまで僕を警戒していた騎士団長からは、もう険しい表情は消えている。きっとステータスが平均以下でスキルがポーション精製だからだろう。


「騎士団長、そこの者を連れて行け」


「はっ」


「それから、冒険者ギルドのバルトロメオを呼べ。事情を説明しておかねばなるまい」


「かしこまりました」


 さっきまでニール殿と呼んでいた王様まで、あっさり塩対応に切り替わってしまった。


「ちょっ、痛い、痛いです」


 騎士の方々の槍が僕のお尻を突いてくる。平均以下のステータスにハズレスキルの異世界人に未来はないらしい。


 そうして小さな部屋で待っていると、話し合いの結果により迷惑料を渡すからと一方的にサヨナラを告げられてしまった。


「すまんな。仕事とはいえ申し訳ないが、これで勘弁してくれ。しばらくは生活できる銀貨が入っている。それから冒険者ギルドで仕事を募集しているから登録するといい」


 少しは悪いと思ったのか、騎士団長はお金の価値ついての簡単な説明と今後の身の振り方について教えてくれた。


 泊まる場所については、やや高いけどそこそこの銀貨を持っているので個室の宿屋にした方がいいとのこと。


 あと、大事なことなのだけど。


 異世界人が元の世界に帰る手段はないと言われてしまった。


 一応、困ったら相談に乗るから騎士団を訪ねてくれとのことだった。


 別に元の世界に未練があるわけでもないけど、この世界でいきなり放り出されるのも厳しい。


 あっ、お父さん、お母さん、それからミャーコ。突然居なくなってごめん。僕はこの世界で生きていけますか?


 とりあえず暗くなる前に宿に行かなきゃならないね……。

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