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プロローグ

 僕の名前は、銭形にぎる十七歳。

 特にこれといって取り柄のない高校生だった。


 人生は何があるかわからないものである。



 僕の目の前には銀貨がちょうどぴったり入る縦穴とその上に大量のカプセルが入った容器がある。


 そう、あのガチャガチャの機械だ。


 もちろん、ガチャガチャの機械なんて特に珍しいものではないだろう。


 問題があるとしたら、ここが異世界だということだ。


 そして、このガチャは僕以外には見えないらしく、路地裏で座りながら銀貨を握っている姿は、通り過ぎる人々にはさぞかし珍妙に見えることだろう。


 さっきから母親に手を繋がれた幼女がこちらをジーッと見ている。


 異世界人の服装が珍しいのだろう。ポケットにお菓子でもあったらあげたのだけど、残念ながら何も入っていない。


 まあ、今はそれどころではない。


 僕に唯一与えられたスキル「ガチャ」だ。


 ガチャにはイラストで描かれた銀貨のマークに数字で一枚と書いてある。


 つまり、この銀貨を一枚入れて回せということなのだろう。


 初日に城から放り出された身としては、銀貨一枚は大変貴重なお金である。


 この先を考えると絶対に節約しなければならない状況だ。


 そんな状況なのにも関わらず、僕の手はガチャに吸い寄せられるように銀貨を入れそうになる。


「いやいやいや、ちょっと待とう」


 僕の全財産は城から出る時に渡された手切金の銀貨が少しだけ。


「おかーさーん。あの人、変だよー」


「見ちゃダメよ。みーちゃんはあんな風にならないようにしなきゃね」


「くっ……」


 路地裏でブツブツと独り言で誰にも見えないガチャに悩んでいるのは確かに不審人物と言っていい。


 しょうがないとはいえ、自分の今の環境に少し悲しくなる。


 何で僕がこんな目に合わなければならないのか。


 それでもこの世界で生きていかなければならない。


 まあ、いいだろう。


 それよりも今はこのガチャだ。


 僕がこの世界でガチャを回したのは今までたった一回だけ。


 そう、召喚されてすぐに王様にスキルは何だと言われ回した時だ。


 ただ、これはお城で回したガチャと明らかに雰囲気が違う。それは銀貨を投入する穴と初回特典付プレミアムガチャと書かれている点にほかならない。


 お城で回した時は確かチュートリアルと書かれていた気がするし、あの時はお金を入れる穴すらなかったのだ。


「これはひょっとしたら、ひょっとするかもしれない……」


 初回はあくまでもテストガチャであり、性能を理解する上でのお試しにすぎなかった可能性。


 つまり、今回のガチャが今後を左右する本当の意味でのスタートガチャなのかもしれない。


 ちなみにお城で出たガチャの景品はポーションだった。しかも品質的に一番安いやつ。


 異世界をポーションだけで生きていくなんて無理がある。


 銀貨を使ってポーションでは餓え死に確定。圧倒的マイナス。損が大きすぎる。そんなガチャはない。魅力がなければ誰もガチャは回さないのだ。今日までガチャを回さなかった理由は正にそれだ。


 ポーションが銅貨一枚で売られているのは確認済みである。銅貨一枚は約百円の価値。銀貨一枚、約一万円の投資で百円のポーションはありえない。


 きっと、お城でも百円のポーションかよ。せっかく召喚したのにこいつ百円かよ! って思われていたのは間違いない。


 勇者か賢者かと期待されて、ただのポーションが手に入るだけのスキルとか、そりゃ悲しい顔をされても無理はない。


 偉そうな神官長が十年分の魔力がー、とか叫んでいたので、ちょっとだけ申し訳ない気持ちにはなった。


 僕が悪いわけではないけど、何となく謝りたい気持ちがなかったわけでもない。


 ところが、槍をもった兵隊さんに突かれるようにして、小さな部屋に連れて行かれ、待たされること一時間少々。


 袋に詰め込まれた銀貨を渡されて、一方的にサヨナラを告げられた。


 異世界、とても世知辛い。


 あの時少しでも申し訳ないと感じていた自分が残念でならない。これが異世界のやり方なのだろうか。異世界人を勝手に召喚しておいてそれは酷い。酷すぎるじゃないか。


 まあ、そんなことはどうでもいい。終わったことを悔やんでもしょうがない。


 今はこのガチャをどうするかだ。


 初回特典付プレミアムガチャ。


 きっと異世界で生き残るための大切なアイテムが手に入る可能性が高い……気がする。


 いや、そうに違いない。


 どちらにしろ試さなければ前には進めない。このまま、じり貧になるまで待つという選択肢はない。どうせやるなら余裕がある時にやるべきだ。


 僕は祈るように銀貨を投入した。


 チャリン♪


 すると、軽快なミュージックと共にガチャがイルミネーションのように光りだした。


「おおお、演出か!?」


 期待は大きく膨らむ。


 僕は迷うことなくガチャを回した。

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