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幕間-5

 ボクはテンバだった。


 赤毛のオッドアイのジンブツは、ボクがテンバだった頃のご主人様だったらしい。ボクを含めた4頭のテンバをとても可愛がっていたそうだ。


 時空を越えてヒトの姿になって、その頃の記憶は無くなってしまったけど。


 このヒトは、ボクをもとの時代に連れ帰るために時空を越えてやってきたのだが、肝心の『過去に帰る』術は身につけていないという。後先考えず、衝動的に時空を越えてくるなんて……と呆れたが、考えてみればボクも気になってヴァルストの後を追ってしまったから、ヒトの事は言えない。


 『今の時代』で出会った時は、殺されかけて本当に怖かったけど、こうやって面と向かって話していると、『悪いヒト』の要素が削がれていっているように感じた。


 と言っても夢の中だから、実際に会ったら全然違うかもしれない。「こういうヒトだったらいいな」という願望で成り立っている気がしてならない。


『我は……使命を果たさねばならない。きみを連れて、我らが生きた時代へ帰らねばならない。きみが生きた時代、彼女たちが息絶える前の時代に。そうして、きみの子どもたちを未来に残さねばならない』


 そうしないとテンバは滅びる。ボクがヒトの姿になったのは、結果的に滅びてしまったから。


 きっと悪いヒトじゃないと信じて、ボクはオッドアイのジンブツに言ってみた。


「……現実の世界でまた出会ったら、シェラに攻撃しないって約束してくれる?」

『シェラ……きみをずっと守っているあの召喚士か』


 こくりと頷く。ふわりと風が吹き、赤毛がサラサラとなびいた。眼の色が、なんとなくアルスに似ていた。


 少し間を置いて、オッドアイのジンブツは「わかった」と頷いた。


「ボク、過去に帰ったら元の姿に戻るのかな?」

『きっと戻るはずだ』

「……シェラたちと過ごした記憶は残るのかな?消えちゃうのかな……?」

『それは……』


 突然、後ろから誰かに身体を抱き上げられるような感覚に襲われた。声を上げようとするも出なかった。

 そして、視界が真っ暗になった……。






 瞼を開けると、光のカーテンが広がっていた。


 ゆっくり起き上がると、そこはいつか見た浜辺だった。岩の洞窟が見える。水界だった。


 立ち上がり、遠くを見据える。ボクはあの日、ここに現れた時空の裂け目に飛び込んだんだ。あのヒト……ヴァルストを追って。『時空の旅ビト』って言ってたっけ。……誰が言ってたんだっけ?


 ボクは浜辺を歩き、岩の洞窟の前まで行った。近くに誰かがいる気配は無く、ひんやりとした空気を吐き出しているだけだった。


 勇気を出して中に入ってみる。壁から床まで苔がびっしりと生えていた。天井からぽつぽつと水滴が等間隔で落ちている。それを避けながら奥へ進んでいくと、ベッドのような平らな岩に女性が横たわっていた。耳魚のヒレのような耳を持ち、青く輝く鱗のような胸元、流れるような白い衣を纏っているこの女性。


「あ……」


 ふと声が漏れ出た時、彼女はぱちりと目を覚ました。ボクを見るなり飛び起きた。思わず後ずさる。


()の方……時空の旅ビト様に会えましたか?」


 ああ、このヒトが言ってたんだった、と思い出した。ボクは頷いた。


「たどり着いた時代で、ホーリアを滅ぼそうとしてるから、みんなで……仲間と一緒にやっつけようとしてる」

「同じ時代に飛べたのですか……!信じられない……奇跡ですね」


 彼女は口元を押さえて目を見開いていた。ボクは少し首を傾げる。


「ボク、気がついたら海の中で溺れてたんだけど、貴女の様なヒト……セイレーン族に助けられたんだ。貴女の子孫……だったのかな?」

「……どれ程先の未来へ飛んだのか想像がつきませんが、おそらくそうでしょう。いつか、海に生じる時空の狭間から、金色の髪を持つモノが現れると。その方を救ってあげてと後世に伝えたところでした」


 どうやら今ボクがいる時代は、ボクが時空の狭間に飛び込んだ後、それ程経っていない頃のようだった。


 一呼吸置いて、彼女は口を開いた。


「彼の方をやっつける、というのは……この世から葬るということですか?」


 視線が痛かったが、ボクはゆっくり頷く。


 ボクらの知らない遥か過去の時代に、旅ビト……ヴァルストが生きていた国が滅ぼされた。その復讐を時空を超えてやり遂げようとしている。『現代』に生きるヒトビトはそれ許してなるものかと立ち上がった。説得ではもうどうにもならない相手だと判断し、刃を構え、魔力で対抗しようとしている。


「ボク……行かなくちゃ……!」


 突然彼女が抱きしめてきた。しかも、結構強い。まるで行くなと言わんばかりに。


「彼の方は、ご自身を見失っております!正気に戻ればきっと……復讐などと言われないはずです!ですから!彼の方を救って……命を守って……」


 ぐらりと視界が揺らぎ、また真っ暗になった。






 正気に戻れば、と彼女は言ったが、どうやったらヴァルストは戻るのだろうか。ボクが面と向かって話をすれば聞いてくれる?そんな甘くはない。ラウルを操り、アルスを追い詰めた。


 ボクはアイツを許さない。


 大切な仲間を傷つけるヒトの命は……救えない。


 ごめんなさい。ボクはみんなと……あいつを……。

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