夢追い人
大学まで出させてもらったのにフリーターだなんて、親には悪いと思っている。
就職活動しないと告げたとき、父は夢に向かって頑張りなさいと背中を押した。母は半ばあきれながらも反対はしなかった。
今、私はその二人を裏切っている。
平日の昼間からTシャツにジーンズというラフな格好で公園のベンチに座っている30過ぎの女は、世間から見れば立派なニートだ。ニートに立派も何もあったものではないが、そんなことはどうでもいい。ああ、ここではないどこかへ行きたい。できれば2泊3日の温泉旅行とか、南の島のリゾートホテルとか。とにかく、この現実を忘れさせてくれるような場所だ。
だらしなくベンチに体をあずけ、ため息を吐く。やはり私には、物書きの才能はないのだろうか。
父の稼ぎがよいことに甘えて、雀の涙に等しい家賃で実家に居候している。先月30歳の誕生日を迎え、母の小言が増えた。働く気がないなら嫁に行けと。できるものならそうしているが、肝心のもらい手がいないのだからしょうがない。
子どものころは、夢を持つことはすばらしいことだったのに。今じゃあわれな夢追い人だ。あきらめのつかないダメな大人。どうしてこんなことになってしまったのかなあと空を見上げる。
すると、あのときの純子の熱を帯びた視線が浮かんでくる。
「才子ちゃんはすごいね、こんなに面白いお話が書けるなんて!」
私に最大の賛辞を送り、高揚させたあの女の子。
今思い返すと、それは最大の皮肉のように聞こえる。