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この世界で生きていく

 ソシャゲ『メタルコアメイデン』は、美麗なグラフィックと派手な戦闘シーンがウリのシミュレーションRPGだ。

 基本のストーリーはメタルドォルと呼称されるロボットの生体部品(コアユニット)としての資質がある少女たちが協力して宇宙からの侵略者たちと戦うというものなのだが、毎月ごとに開催される期間限定イベントも人気を博していた。

 いや、むしろ一本調子の展開が繰り返される本編よりもそちらの方が高く評価されていたくらいだ。


 中でもゲームリリース開始から半年を記念して開催された『戦場は未だ遠く』は、プレイヤーやファンの間で根強い人気を誇る作品屈指の好イベントとして名高い。


 それまでの期間限定イベントは少女たち、つまりプレイアブルキャラクターそれぞれにスポットを当ててきたのだが、『戦場は未だ遠く』では打って変わって登場キャラたちを取り巻く組織などが登場し、世界観が一気に広がることとなった。


 更に戦う相手、敵と言えば侵略者だったのだが、このイベントでは何と友軍が開発してきた秘密兵器と戦うことになるという予想外の新鮮さがあった。

 実験で暴走した試作機が制御不能となったために仕方なく破壊する、と話の大筋としてはありがちなものだったのだが、そこは有名脚本家が手掛けることによって感動の大作へと仕上がっていた。


 特に何かにつけて対立反発してくる友軍組織の行動理念が、少女たちにばかり過酷な戦いを強いている現状を打破するためだったのは秀逸だった。

 単なる嫌味で権威主義の大人かと思われたウラド長官が、実は誰よりも少女たち(プレイアブルキャラ)のことを心配していたと判明した時、プレイヤーの彼に対する評価は一変していた。

 あまりの人気のため、以降の期間限定イベントでは定期的に過去編と称してウラド長官が端役で登場するようになってしまったほどである。


 当然のようにアニメ化された際には序盤の山場として、『戦場は未だ遠く』は本編シナリオへと組み込まれることになった。

 ゲームでは描かれなかった後日譚として、トカゲの尻尾切りよろしく責任を負わされて見捨てられたウラド長官に対して、少女たちが敬礼でもって送るラストシーンは語り草になっている。



〇◇△□〇◇△□〇◇△□〇◇△□〇◇△□〇◇△□



「うん。人気だったしね。俺も好きなキャラではあったよ。でもあいつ、っていうか俺死んじゃうじゃん!?」


 目が覚めたらそのウラド長官こと、ウラド・リヒトになっていた。

 何を言っているのか分からないと思うが俺も分からない。むしろ俺の方が色々と説明して欲しいところだ!


「いわゆる『メタルコアメイデン』の世界に転生したってやつなのか?」


 ゲームの、いやアニメ等も含めた作品群の舞台となっていたのは、二〇五〇年代の近未来だったはず。

 えーと、今世のウラド・リヒトの記憶や知識によれば、現在は二〇三一年でミドルティーンのジュニアハイスクール生――ちなみに全寮制――だからおおよその計算は合うことになるのか……。


 うん。いきなり死亡(エンディング)寸前だとか進退(きわ)まった状態ではなかっただけマシというものかもしれないな。

 とはいえ、残された時間は二十年ほどしかない。侵略者は前触れもなく突如現れたとなっていたから、今の時点でその危険性を訴えたところで「妄想乙!」とか言われるのがオチだろうな。


 俺が生き残るだけなら簡単だ。連合軍の、その前身の国連所属の軍人にならなければいい。前世知識も併用して侵略者の襲撃が行われなかった地域に移り住めば更に安泰だな。


「でもなあ。ウラド長官たちが研究してたアレ、後々にはメタルドォルのパワーアップに繋がるんだよなあ……」


 ゲーム的には初期に登場させた機体のテコ入れ、アップデートということになる。

 敵も味方もどんどんと強さがインフレしていくソシャゲでは割とありふれたものだが、そこに人気の高いウラド長官を絡めてくるのが『メタルコアメイデン』運営チームの上手いところだ。


 もっとも、この上手いには「課金誘導が」という枕が付くことになるのだが。メタルドォルをパワーアップさせるためには専用アイテムが必要で、イベントごとに少量配布される以外は課金する以外に入手方法がなかったのだった。

 実際にこのアイテムが販売開始された時には、「こんな設定つけられたら給料突っ込むしかないやん」とか「お小遣いないなった」とか「くっ……!禁断のカードが俺を使えと囁いてくる……!」といったコメントがネット各所で散見されていた。


 ちなみに、アニメ版では中盤のパワーアップイベントとして、こちらは文句のつけようがないほど上手く話の中に落とし込まれていたよ。

 主人公格の少女の一人が「ウラド長官たちの想いや努力は無駄じゃなかったんだ」と呟いた時には、思わず胸が熱くなって背筋に震えが走ったね。


 つまりだな、俺が作中のウラド長官に似た行動をとらなければ関連する研究が行われず、メタルドォルの強化もできなくなるかもしれないのだ。


 ゲームではいくらでも湧いてきた資材――リアルの金や時間を対価にしていたことは一旦置いておく――だが、現実ではそうはいかない。

 仮に一機でもメタルドォルが大破してしまえば、その穴埋めも含めて損害は膨大なものとなってしまうだろう。


 そのメタルドォルだってガチャを回せば手に入る――こちらはリアルラックに左右されることになったが――なんてことはないはずで、下手をすればアリの一穴のごとくそこから防衛網が崩壊することだって考えられるのだ。


「侵略者に負けて世界が崩壊しちゃったら、生き残っても意味ないよなあ……」


 そもそも敗北した時点でチキュー人類は滅びている可能性が高い。


「それに、個人的に何とかしたいこともあるし」


 ゲーム本編の終盤、物語を盛り上げるためだったのかとてつもなく苦戦を強いられる場面があるのだが、そこでなんとプレイヤー側初の犠牲者が出てしまう。

 戦力の低下につながってしまうので、プレイアブルキャラクターは全員健在だったのだが、頼れるみんなのお姉さんこと指揮官のヒョウベ・アヤが死亡してしまうのだ。

 まさかの超重要人物の戦死にプレイヤーは大いに驚愕して、ネットには嘆きのコメントが溢れかえる事態となるほどだった。


「完全に後付けの設定っぽかったけど、ウラド長官とアヤさんって知り合いだったみたいなんだよな」


 それも互いに想い合っていたらしいと捉えることができるかもしれない程度に関係をにおわせていた節があった。

 少なくともアヤの方は意識していたというのがファン界隈では通説となっており、彼女の今わの際の台詞「これから私もそちらに行きます。あなたは褒めてくれますか?それとも叱られちゃうかしら?」は、ウラド長官に向けたものだろうとされていた。


 人気キャラ同士をカップリングするという安直なものだが、そもそもこれは同人などユーザー主導で広がって行った解釈のため批判や炎上などが起きることもなく、むしろ公認となったことを喜ぶ風潮の方が強かった。

 このあたりの機を見るに敏というか、美味しいところだけはきっちり持っていくやり方は本当に上手いよなあ。


 話をヒョウベ・アヤへと戻すと、作中での彼女は凛とした指揮官という公の面と、どこか抜けているというか浮世離れしたところのある私の面を持つ魅力的な女性として描かれていた。

 あんな素敵な女性がパートナーとまではいかずとも彼女になってくれるかもしれない、そう考えると正直グッとくるものがある。


「これは、頑張らざるを得ない案件なのではないだろうか……!」


 世界の平和も大事だが、俺個人の幸せも大切だ。

 いくら信念に基づいた覚悟の上での行動だったとしても、捨て駒にされるような最期は御免こうむりたい。


「そうと決まれば、未来のためにさっそく行動開始だな!」


 ベッドから飛び起きると勉強机へと向かう。

 世界と俺の未来を変える挑戦が、今この瞬間から始まったのだ!


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