望まない婚約をしてしまった私、口喧嘩の中で想い人に告白して気まずい
別作品の長編が連載中ですのでよければ見に来てください。
「最強スキルを得た悪役ヒーローは勇者パーティを返り討ちにして悪事を働くが何故か感謝されるのだが?
知らずのうちに英雄のように称えられるが、あくまでも俺は悪役だからな。そのへんよろしく!」
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「ルイス・ソフィーナ、少し話があるのだが」
王宮内の聖騎士や魔術師などが利用する食堂にて昼過ぎで食後の紅茶を楽しんでいる最中に声を掛けられたルイスはキョトンと首を傾げる。
大柄の男、そして金髪の美少年が立っていた。
「こんにちは。グリファス隊長、私に何かご用ですか?」
雑に大柄の男はルイスの向かい席に腰を下ろす。
ルイスはカップをテーブルに置いた。
「この青年を見て何か見覚えがないか?」
怪訝な顔をしながら騎士隊の第二隊長であるグリファス隊長は真剣な眼差しで言う。
「…………えっと、どちら様で?」
「ルイス。お前、何年王宮で魔導師やっているんだよ。この方はエルディン・ジャッカス公爵様だぞ。時期公爵家のトップを張るお方だ。発言に気をつけろ」
「はぁ。それよりどうして公爵様が?」
「聞いて驚くなよ。エルディン様はお前と是非、婚約をしたいと仰られている。これは奇跡だ。お前のような無能魔術師をえらく気に入ってくれている。こんなチャンスは一生に一度あるかないかだ。是非、交際を……」
「……えっと、無理です。ごめんなさい」
ルイスの発言でショックを受けたのはグリファスではなく横でずっと黙っていたエルディンである。断られることを想定していなかったようで身体が震えていた。
「っ、は?……あの、今なんと?」
「いや、だから私、公爵様とは婚約できないって言っているんです」
「何を言っている。公爵家の者と婚約できるんだぞ。魔術師のお前が逆立ちしても手の届かない相手が婚約したいと言ってもらえるなんて奇跡に近いことだぞ。それを分かっているのか。馬鹿者!」
「そう言われましても困りますよ」
「何か事情があるなら言ってみろ。公爵家と付き合えない事情って何だ」
「えっと、付き合えない事情っていう事情はないのですが」
「なら、何故断る? 断る理由は何だ」
「えっと言ってもいいのですか?」
「当然だ。早く言え」
ルイスは悩むそぶりを見せた。
「申し訳無いのですが、エルディン様は一時的に席を外してもらえないでしょうか」
そう言うとエルディンは頷き、食堂を出て行く。
「おい。どういうつもりだ。ルイス」
「えっと、タイプじゃないんです」
「は?」
「私ってホラ、強いタイプの男性が好みというか、エルディン様ってひ弱そうじゃないですか。私、あぁいうなよなよした人ってダメなんですよね」
ルイスはエルディンへの不満が止まらない。
言い出せばキリがないほど。
それを聞いたグィリファスは痺れを切らしたのか、バンッとテーブルを叩きつけるように手を置いた。
「馬鹿者! お前は何を考えている。好みで決める話じゃない。これは公爵家に対する侮辱だぞ。そんなことをすればお前は今すぐこの王宮から追放される。それを分かっているのか!」
「そう怒鳴らなくても分かっていますよ。自分がどれほどの非常識を言っているかなんて。でも、無理なものは無理なんです。たとえ王宮を追放されることになったとしてもこれだけは譲れません」
「お前の覚悟は分かった。だが、それで後悔しないのか。婚約すれば生涯安泰だろうに。今のまま魔術師を続けていてもこの先の不安を取り払うことなんて出来ないんだぞ」
「…………」
ルイスは口籠る。
確かに婚約すれば楽になれる。だが、それでいいのか。
不安を感じれば答えを出すに出せない。それを見かねたグリファスは提案する。
「ルイス。俺から一つ提案があるんだが」
「提案ですか?」
その提案とはエルディン公爵に諦めてもらう方法だった。
相手に嫌われることで婚約破棄を狙う作戦である。
「……分かりました。そういうことなら婚約します」
ルイスの発言でグルファスは笑顔になる。
「おぉ、そうか。受け入れてくれるか。早速、エルディン公爵に婚約のことについて伝えよう」
「は、はは……」
ルイスは乗り気じゃない婚約を了承してしまった。
だが、こうなってしまったらもう遅い。
ルイスとエルディンは婚約関係になった。
それからというものの、ルイスは婚約破棄を相手から申し出てもらおうと悪い女を演じた。
品がなく女性としての魅力が感じられないような振る舞いをエルディンの前で見せつけた。
普通の男性から見れば間違いなく嫌われても仕方がない行動だ。
しかし、エルディンは違った。どんなルイスの姿でも嫌うような言動はなかった。むしろ、愛情が多くなっていた。
「どうして? どうしてエルディン公爵は私を嫌いにならないの?」
「俺も予想外だ。ここまでの悪女はそうそういない。作戦は失敗か」
協力者であるグリファスはガッカリと頭を抱える。
「このままじゃ本当に結婚しちゃうかも」
「この際、諦めて結婚したらどうだ? あそこまで紳士な男はエルディン公爵を置いていないと思うぞ?」
「それは無理よ……」
ルイスは寂しそうに呟いた。
「でも、どうするんだ? お前が嫌われようとしても相手は嫌わない」
「私だって分からないよ!」
どうしようもない怒りがルイスの中で爆発してしまった。
それに驚いたグリファスは大きく目を見開く。
「悪かったよ。俺がエルディン公爵を連れてきたのが全ての始まりだ。お前をここまで悩ませてしまって本当に申し訳なかった」
グリファスは謝罪を込めて頭を下げた。
「やめて下さい。グリファス隊長は何も悪くないです」
「……しかし」
「私がエルディン公爵と婚約しくなかった理由を教えましょうか?」
「理由があるのか?」
「当然です。意味もなく断ったりしませんよ」
「じゃ、その理由って……」
「結婚したい人が別にいたんです。その人のことはずっと前から好きでこんなことにならなければ告白していたと思います。まぁ、私って度胸がありませんから自分から想いを伝えられる訳ないんですけどね」
「そうか。そうとも知らず勝手に進めて済まなかった」
「いえ、いいんです。例えエルディン公爵と婚約を結ばなかったとしても私はその人に思いを伝えられないまま終わっていましたから」
ルイスはどこか諦めたように目を閉じた。
「その話を聞いてしまったらほっとけないだろ」
「え?」
「なんでお前はすぐに諦めるんだ。好きなんだろ? だったらその想いを伝えればいいじゃないか」
「でも私はもう公爵様と婚約を結んだ身ですし……」
「それがどうした! そんなの婚約破棄でもなんでもして想いを伝えてこいよ」
「それが出来なくて苦労しているんでしょ! ばっかじゃないの!」
「ば、バカとはなんだ。バカとは」
「バカだからバカって言ったんでしょ! 人の気持ちも知らないで!」
「俺はただ、お前が可哀想だと思って」
「あなたに心配されるほど私は落ちぶれていません!」
「お前が思いの人に気持ちが伝えられないって言うから俺はどうにもしてやりたいと思ったんだ」
「私は! 私が想いを寄せる相手はあなたなのよ! それを分かっているの?」
「……………………今、なんと?」
「え、いや……」
つい口が滑ってしまったとルイスは赤面してワタワタと両手を振る。
先ほどまでの勢いは完全に失われてしまい、顔を隠す始末だ。
「悪かったよ。お前の気持ちも分からずに勝手なことを言って」
「いや、こちらこそごめんなさい。余計なことを言ってしまったようで」
二人の間に気まずい空気が流れた。
気持ちを知ってしまったグリファスは自分の発言でルイスを苦しめていたことにようやく気付く。
それに対してルイスは自分の気持ちを知られてしまったことで逃げ出した気持ちでいっぱいだった。
「あの……」とお互いの声が重なった。
どうぞ、どうぞと二人は遠慮する始末。
先陣を切ったのはグリファスだ。
「場所を変えよう。ここは目立つ」
「そ、そうだね」
二人は席を立ち、食堂を出た。
向かった先は王宮の裏側にある訓練場だ。
「懐かしいな。ここでよくお前と訓練をしたっけ」
「えぇ、そうですね。あの頃はよくシゴかれて地獄の毎日でしたけどね」
「はは。そうだったけ? だが、お前はめげずに頑張っていた。誰よりも努力していたじゃないか」
「私が頑張れたのはグリファス隊長が居たからです。あの頃からなんですよ。私が想いを寄せて居たのは」
それを聞いたグリファスは照れ隠しなのか、そっぽを向く。
ルイスが訓練生の頃、グリファスは教官だった。当時は隊長という役職はなく、訓練生の相手をさせられて不遇の立場を経験していた。
しかし、今となっては誰もが憧れる隊長として聖騎士のトップを飾るようになっていた。
当時からルイスはグリファスに憧れていた。この人しかいないとずっと思い描いていたのだ。ただ、今の今までその想いは言えなかった。
それなのに口喧嘩のような形で想いを伝えてしまった自分が恥ずかしいとルイスはモヤモヤしていた。
「ルイス、実はお前に隠していたことがある」
「隠していたこと?」
「俺はお前のことを妹のように可愛がってきたつもりだ。何故だが、他の部下や後輩とは違って特別な感情があったんだ」
「……はぁ。それはどういう?」
「正直、訓練生の頃は何とも思わなかった。ただ、俺の指導についてくるやつは全力で相手をした。その中でお前は俺の指導に喰らい付くようについてきた。その必死さが特別な感情だと今になってようやく分かったよ。訓練生を卒業して魔術師として活動するようになってもお前は努力を怠らなかった。まぁ、努力をしても実力はたいしたことなかったがな。ははは」
「バカにしないでくださいよ。努力してもどうにもならないことだってあるんですから」
「すまん。すまん。別にバカにするつもりはない。ただ、嬉しかったんだ」
「嬉しかった?」
「普通、努力して成果が出なければ辞めちゃうだろ? でもお前は続けた。その姿が嬉しいんだよ、俺は」
「私が頑張れて来られたのはグリファス隊長が居たから……」
ルイスは自身が気付いたときには涙が溢れていた。
自分でもどうして泣いてしまったのか分からず、顔を隠す。
「これで拭けよ」
グリファスは持っていたハンカチをルイスに渡した。
「ありがとう」
「こんな時にいうのもあれだが、俺と結婚しよう」
「………………え?」
ルイスは一気に涙が引いた。
というよりも驚きを隠せずにいた。
「冗談はやめてくださいよ。私が可哀想に見えたかもしれませんが、そんな情けで言われても嬉しくありません」
「いや、俺が冗談を嫌いなことはお前もよく知っているだろう。冗談でも何でもないさ。俺、気付いたんだよ。お前に感じていたこの特別な感情は普通のものとは違う。俺はお前のことが好きだと気付かされたんだ。だから俺のものになってくれないか。ルイス!」
グリファスの告白にルイスは涙を流した。
驚いたグリファスはどうしていいかオドオドする。
「嬉しい。この想いは永遠に通じないと思っていたのに。まるで夢みたいだよ」
「夢じゃないさ。俺はお前のことを一生愛したい。この先もずっと」
いい雰囲気になる二人。爽やかな風が吹き込むようにスッと葉が舞う。
だが、忘れてはならない問題が二人にあった。
「あの、感動のところ申し訳ないんだけど、私は婚約している身だってこと忘れていない? これじゃ、浮気ですよ。今のグリファス隊長とは結婚なんて不可能です」
「勿論、忘れていないさ。お前が婚約を結んでいる身だってことは。だから一緒に婚約破棄をしに行こう」
「婚約破棄って簡単に言うけど、そんなことをしたらどうなるか分かっているんですか?」
「勿論、お前も俺も王宮を追放されるだろうな。ははは」
「はははって笑い事じゃないですよ。そんなことダメです。絶対にダメ!」
「なら望んでいない結婚をするか?」
グッとルイスは踏み止まる。
無理やり結婚しても自分に嘘を付き続けるだけ。それを考えるとルイスは首を横に振った。
「それはもっと嫌。絶対に無理」
「だったら答えは決まっているじゃないか」
「でも、私はともかくグリファス隊長のこれまでの積み上げは水の泡になってしまうんですよ? それはダメです!」
「いや、いいんだ」
「いいって……そんな簡単に」
「あのなぁ。言うか悩んでいたけど、言うぞ? 実は俺、ずっと前から聖騎士を辞めようって考えていたんだよ」
「辞めるってどうして?」
「確かに聖騎士は立派で魅力的な仕事だ。誇りに思うよ。だが、少し前から身体を壊してしまってな、このまま続けても足を引っ張るだけだ。だから野菜を育てながら自由気ままにスローライフを送ろうって考えていたんだ。知り合いに誘われていつでも来ていいと言われている。だからこの王宮に未練なんてないんだよ」
「そうだったんですか。ずっと近くにいたのに知りませんでした」
「まぁ、誰にも言うつもりなかったからな。幻滅したか?」
「いえ、その逆です。私はグリファス隊長がいるところだったらどこでもいいんです。グリファス隊長が居なくなってしまえば私がこの王宮にいる意味はありません」
「そう言ってくれて嬉しいよ。ずっと俺と一緒に居てくれるか? ルイス」
「はい! 勿論です。どんな時もずっと一緒です」
「なら、決まりだな。二人でエルディン公爵の元へ謝りに行こう」
こうして二人はエルディンの元へ行き、婚約破棄をする為、出向いた。
当然、王宮内では問題となりエルディン公爵の顔に泥を塗ったとしてルイスとグリファスは王宮を追放となった。
だが、これで二人を縛るものは何もない。
ようやくお互いの気持ちが一つとなり、永遠の愛を誓い合った。
グリファスは体にダメージを抱えていたが、自ら身を引いたことで損傷を免れたので結果としては良かったかもしれない。
そして二人は王宮を離れて辺境に小さな家を建ててスローライフを送ることになる。
「ルイス。ただいま。収穫うまくいったよ」
「お帰りなさい。グリファス。今日も一日ご苦労様」
ルイスはグリファスの妻となり、夫婦仲良く暮らしている。
そしてルイスのお腹には新たな命が宿っており、二人の暮らしは以前とは比べものにならないくらい賑やかなものとなっていく。
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